1st BASE
初めましての方もそうでない方も、お読みいただきありがとうございます!
『ベース⚾︎ガール!』シリーズを連載させていただいているドラらんと申します。
この作品は女子野球を題材にしており、『ベース⚾︎ガール!』及び『ベース⚾︎ガール!!~HIGHER~』の続編となります。
こちら単体でも楽しめる作品となっていますので、ご新規の方も安心してお読みください!
野球の「面白さ」「奥深さ」とは何かを探求しながら書いていきます。
野球を知っている人も知らない人も、関係無く楽しんでいただけたら嬉しいです。
それではスタートです!
厳しい寒さを凌ぎ、新しい季節の暖かさが身体に染みる三月下旬。埼玉県加須市にある加須きずなスタジアムでは、高校女子野球界の頂点を決める春の大会が行われていた。
《まず守ります、亀ヶ崎高校のピッチャーは、柳瀬さん》
項を若干隠す程度まで伸びた髪を帽子で覆い、あどけなさの抜け切らない顔立ちの野球少女がマウンドに登る。彼女が亀ヶ崎高校女子野球部のエース、柳瀬真裕である。大会後に迎える新学期で三年生になり、高校生として最後の一年を迎える。
身に纏った純白のユニフォームの中央には、淡い紺色の筆記体で『kamegasaki』と大きく記されている。外周は真紅で縁取られているため、一目見て誰もがそちらに注目することだろう。
「さあ真裕、いつも通り思い切って攻めていこう!」
そう言って真裕を盛り立て、キャッチャーを務める北本菜々花がミットを構える。真裕からの投球が繰り出される度に、快い音が引き出された。
《一回表、京桜高校の攻撃は、一番ライト、橋口さん》
投球練習が終わり、対戦相手である京桜高校のトップバッター、橋口が左打席に立つ。グラウンドに鳴り響く試合開始のサイレンを傍耳で聞きながら、真裕たちは一球目のサイン交換を行う。
(まずはやっぱり真っ直ぐでしょ。狙われてるかもしれないけど、それでも打たれないってところを見せてやろう)
(了解。打ってるもんなら打ってみろってことだね)
深く頷いた真裕は大きく振りかぶり、投球モーションに入る。この大会へ臨むに当たって新調したバートンオレンジのグラブが太陽に照らされる中、この試合の第一球を投じた。
しなやかな腕の振りから放たれたストレートが、真っ直ぐな糸を張るようにベース板の上を貫く。打つつもりで待ち構えていた橋口だったが、勢いに押されてバットを出せない。
「ストライク」
球審の力強いコールが轟き、亀ヶ崎バッテリーが幸先良くストライクを取る。
「ナイスボール! バッター手が出ないよ」
返球がてら言葉を掛ける菜々花に対し、真裕は得意気な笑みを浮かべる。この表情を見るに今日も調子は良さそうだ。
二球目も真裕はストレートを続ける。今度は橋口がバットに当てたものの、打球は三塁側のスタンドに消えていく。
あっさりとツーストライクになり、次が三球目。真裕の投球は山なりの軌道で低めに沈んでいく。カーブだ。見逃せばボールだろうが、追い込まれている橋口は手を出さざるを得ない。タイミングを外され、腰の砕けたスイングで打ち返す。
平凡なゴロが真裕の左を転がっていく。これに反応したのが、ショートを守る陽田京子である。
「オーライ!」
トレードマークの赤縁眼鏡で打球を捉え、左右の三つ編みを揺らしながら京子が斜め前に走る。バウンドを合わせて捕球すると、素早く一塁へ送球してアウトを取った。
「おし。ナイス京子ちゃん!」
「これくらい余裕だよ。真裕もナイピッチ。まずはワンナウトだね」
真裕と京子は互いに人差し指を立てて“一”を表現し、笑顔を向け合う。真裕の背丈は飛び切り高いわけではないが、京子が短軀なこととマウンドの傾斜が相まって、彼らの間には相当な身長差があるように見える。
二人は小学生からの幼馴染。中学時代は京子がソフトボール部、真裕が野球部と別れていたが、高校に入って再び同じチームとなった。今はこうして一緒に野球ができることを心から楽しんでいる。
(京子ちゃんの守備はほんとに安定感があるなあ。年々上手くなってるし、私も安心して投げられるよ)
橋口を打ち取った真裕は続く打者からも危なげなくアウトを奪い、初回を三者凡退で切り抜ける。駆け足でマウンドを降りた先で、ベンチの仲間とハイタッチを交わす。
「さあ先制点を取ろう! 絶対勝つよ!」
真裕のピッチングに鼓舞され、亀ヶ崎は初回の攻撃に移る。一番打者を務める京子が左打席へと向かった。
《一回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、一番ショート、陽田さん》
京子はチーム内で一番足が速い。持ち前の快足を守備でも打撃でも活かし、相手にプレッシャーを掛けていく。
(まずは様子見、……なんて言ってたらすぐ後手に回っちゃう。ウチはそういうタイプじゃないし、甘い球は積極的に打っていくよ)
京桜の先発は右の原西。上から投げ下ろすタイプの投手で、フォークなどの縦の変化球を得意としている。
「出塁頼むよ京子ちゃん! 掻き回してやろう!」
真裕もベンチから声援を送る。初球、原西の投球は真ん中低めへと落ちる変化を見せる。バットを動かし掛けた京子だったが、スイングはせずに見送った。判定はボールだ。
(いきなり落ちる球から入ってきたか。球種はおそらくフォークかな? 自信があるんだろうけど、今ぐらいなら見極めるのは難しくない。抜けて高くなったところが狙い目だ)
二球目。原西はフォークを続けてくるも、制球が定まらず高めに浮いてしまった。これを京子は逃さない。引っ張り過ぎないことを意識しつつ、投球を手元まで呼び込んでから打ち返す。
打球は鋭いライナーとなり、セカンドの頭上を越えて右中間に弾む。センターが回り込んで捕球しようとする姿を見て、京子は迷わず一塁を蹴った。
「ボールセカン!」
センターから返球が送られるも、京子の俊足には及ばない。彼女は余裕を持って二塁へと滑り込む。
「セーフ」
「よし」
立ち上がった京子はズボンの砂を払い、薄らと相好を崩す。鮮やかな彼女のツーベースヒットに、真裕も手を叩いて讃える。
「ナイバッチ! 京子ちゃん流石!」
いきなり亀ヶ崎に得点機が訪れる。更に次打者の送りバントで京子が進塁し、ワンナウトランナー三塁とチャンスを拡大させた。
See you next base……