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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
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14th BASE

 三回表。女子野球部は真裕の四球を皮切りにツーアウト満塁のチャンスを作った。打席には三番のオレスが入る。


(まさかこの展開で私に回ってくるとは思わなかった。このチームってちまちまと繋ぐ力だけは一人前よね。まあそれを仕上げるために私が三番にいるわけだし、お膳立てされて仕事ができないのは赤っ恥だわ)


 オレスも一打席目は呆気なく打ち取られている。二度も同じようにやられるのは彼女のプライドが許さない。


 初球、足立は外角にカーブを投げてきた。これまでに無かった入り方である。男子野球部はこの直前に守備のタイムを取り、内野陣がマウンドに集まっていた。そこで仲間からの激励を受けて、足立も腹を括ったようだ。


「ストライク」


 打つのに難しいコースではなかったものの、オレスは手を出さない。流石に一球目から変化球というのは想定していなかった。


(どうしようもなくなって覚悟を決めたって感じね。顔付きもほんのちょっと引き締まったように見える。だからって抑えられるわけにはいかない。必ず打ってみせる!)


 二球目もカーブ。こちらは先ほど以上に外へと曲がっていき、ボールとなる。


 続く三球目、足立は一転して内角のストレートを投じた。オレスは打ちに出るも差し込まれてしまい、前には飛ばせない。一塁側へのファールで二つ目のストライクを取られる。


(変化球との球速差で幻惑されると余計に真っ直ぐが捉え辛くなる。今の一球もほんとなら打てるはずなんだ。追い込まれてしまったし、本意ではないけど持久戦に持ち込むか)


 オレスは比較的、早いカウントから勝負を決めにいくタイプの打者である。じっくり見極めたり細々と駆け引きを行ったりすることは好きではない。それに態々そんなことをしなくても、ほとんどの相手なら容易く攻略できてしまう技量を備えている。


 だが今回は事情が違う。足立に関してはちょっとやそっとのことでは打てないと、オレスは判断したのだ。彼の制球難は把握できているため、その弱点を利用して少しでも打てる可能性の高い策を遂行することにした。


 四球目、アウトコースを直進してきた足立の投球が、ベースの手前で減速する。打者のタイミングを狂わすチェンジアップだが、オレスは予め来ることを読んでいた。と言っても球速のあるストレートも念頭に置きながらなので、簡単にはヒットにできない。ライトへのファールでカウントは据え置きとなる。


(このピンチでも勝負球にチェンジアップを使ってきたってことは、球種はここまでに出ている三つが全てだと考えて良い。よりコントロールの悪い変化球を多く投げてくるとは思えないし、いずれは手詰まりになって真っ直ぐでの力勝負に切り替えてくる。そうなった時に私が仕留められるかどうかだ)


 五球目はストレートが外角低めに来る。足立としては一つ前のチェンジアップと同じコースに投げて錯覚を起こそうという魂胆だったが、オレスには通じない。彼女は再びライトにファールを打つ。


「良いよ良いよオレスちゃん! 打てる球はいつか必ず来る! それまでの辛抱だよ」


 苦しみながらも耐え忍ぶオレスに、真裕もエールを送る。オレスは聞こえていない振りをしつつも、心の中では仄かに温もりを感じていた。


(そういう励ましとか求めてないから、気の抜けるような声を出さないでもらえる? ……まあ少しくらいなら良いけど)


 六球目はカーブがワンバウンドする。オレスが悠然と見送り、ツーボールツーストライクとなる。


 七球目、八球目は二球連続でストレート。どちらもオレスがファールを放つ。スリーボールにはしたくないと思っているのか、男子野球部バッテリーの配球はストレート中心に変わってきている。オレスが予測していた展開となってきた。


(この回は既に二つのフォアボールを与えているし、ピッチャーとしても三個目は絶対に避けたいはず。もしもフルカウントになれば、そのことで頭が一杯になるでしょうね。そうならないためにも、もうボール球は投げられない。だからコースを気にせず、力で押し切ろうとしてるんだ。時は満ちたってことね)


 真裕や京子に続いてオレスの打席も長い勝負になっている。足立はスタミナも精神力もかなり消耗しているが、抑えなければ終われない。グラウンドに、そこはかとなく次の一球で決着しそうな雰囲気が漂う。


 九球目、足立は三球連続でストレートを投じる。だが球威は前の二球よりも微妙に落ちており、オレスの得意とする真ん中やや外寄りのコースに入っている。


(……ようやく来た! こういう球を待っていたんだ)


 オレスは今までよりも一呼吸タイミングを早めてスイングし、右方向へ打ち返す。打球は一二塁間に転がっていく。


「セ、セカン!」


 足立の叫びに応えるように、セカンドを守る廣田が走り出す。打球との距離はそれほど離れていなかったものの、如何せん球足が速い。横っ飛びで捕球しようとする廣田のグラブは僅かに届かなかった。


「やった! まず一点!」


 三塁ランナーの真裕は右腕を挙げながらホームイン。遂に試合が動き、女子野球部が先制す。


「ナイバッチ!」


 ベンチからはオレスに向けて拍手が送られる。しかし当の彼女は一緒になって喜ぶことはせず、一塁ベース上で涼しい顔をしている。


(本当は右中間を破ってやりたかったけど、私の力が足りなかったみたいね。それができてこそ真に仕事を果たしたって言える。点が入ったし今はこれで良いけど、夏大までにはもっと飛ばせるようになっておかないと)


 オレスの求める理想はもっと高みにある。だからタイムリーを打った後でも、その次の課題を見据えるのだ。


 女子野球部は尚も満塁のチャンスが継続。打席に入るのは四番の紗愛蘭だ。


「よろしくお願いします」


 振り返れば、紗愛蘭の一打席目をきっかけにして後続の打者が活路を見出し、ちょうど一巡するオレスで得点を挙げた。九人の力を結集させて取った一点である。


 だがこれで終わってしまっては物足りない。せっかく紗愛蘭に打順が回っているのだから、追撃したいところだ。


(オレスは速球の力を上手に利用して打っていた。私もそれに(なら)えば良い)


 紗愛蘭もまずはストレートに狙いを定める。初球、そのストレートが来たが、アウトハイに大きく外れていた。もちろん彼女は見向きもしない。


 二球目もストレートが続く。しかしこれまた外角に抜け、ボールが二つ先行する。


(これだけ長々と攻撃されて、結局は点を許しちゃったんだ。そりゃピッチャーとしては落ち込むよね。一年生ってことを考えると可哀想に思えてくるけど、手加減はしない。戦っている以上は心を鬼にしなきゃ)


 私生活では温厚な紗愛蘭だが、グラウンドでも同じではいけない。優しさは時に、自分たちを苦しめる仇となる。


 勝利のためには情けを捨て去ることも必要。紗愛蘭は足立に対しても容赦無く牙を()く。



See you next base……


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