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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
140/149

136th BASE

 九回表、満塁のピンチを背負った真裕は二者連続三振でツーアウトまで漕ぎ着けるも、四番の姫香に三球目を痛打される。


「ああ!」


 真裕が絶望に満ちた表情で打球の行方を追う。万事休す。


「オーライ!」


 ところが視線の先には京子が守っていた。数歩横に動いた彼女は左足を踏み込んで跳び上がり、打球をグラブに収める。勢い余って地面に腹を打つような格好での着地となったものの、その衝撃にも耐えて掴んだボールは放さない。


「……いてて、これでどう?」


 膝立ちで起き上がった京子は顔を顰めて腹部を摩りつつ、グラブの中のボールを見せた。それを確認した二塁塁審が力強くアウトのコールをする。


「アウト、チェンジ」

「やった! 京子ちゃんナイスキャッチ!」


 大喜びで万歳する真裕。感情を抑え切れず、彼女は昴の手を借りて立ち上がろうとしていた京子の元へと走って抱き着いた。


「ちょっ、止めてよ。暑いから……」


 そう言って鬱陶しがる京子だったが、真裕の熱い抱擁を嫌がらずに受け入れる。こんなにも真裕から感謝されたのはいつ以来だろうか。もしかしたら、これまでで一番の感謝を受けているかもしれない。


「……真裕もよく投げたね。さ、戻ろうか」

「うん……。本当にありがとう」


 京子は真裕の頭を優しく撫で、二人並んで引き揚げていく。互いの目尻には雫が滴っているが、それが汗なのか、はたまた別の何かなのかは他人には判別できない。


「うおお! 真裕さんも京子さんも素晴らしいです! 幼馴染パワーウルトラ凄い! ね、春歌さん。……あれ?」


 ベンチの結は京子が姫香の打球をアウトにした瞬間、真裕と同じく両手を上げて喜びを爆発させていた。幼馴染コンビの姿に感激し、春歌から共感を得ようとするも、その時既に彼女はベンチにいなかった。チェンジになったのを見届け、十回表に備えてブルペンへと向かっていたのだ。


(いくら京子さんだからって、真裕先輩も他人に助けられてあんな風に喜んでるようじゃ、ここら辺が限界ね。さっさと私にマウンドを譲ってよ)


 今日の試合、春歌は序盤からブルペンに入り続けていた。真裕が突如崩れたり打ち込まれたりする事態を想定し、いつでも登板できるようにしておくためだ。しかし、それは建前に過ぎなかった。本音は真裕と舞泉の投げ合いに刺激され、居ても立ってもいられなかったのである。


 舞泉を相手にしている以上、チームが勝利するためには真裕が奥州大付属打線を抑え続けなければならなかった。もしも春歌の名前が呼ばれるとすれば、それは試合の大勢が亀ヶ崎にとって悪い方向に決まった時だ。当然そんな展開は春歌自身も望んでいない。結局のところ今の今に至るまで彼女は、真裕が無失点のイニングを作る度に辛酸を嘗めつつ、それを是認するしかなかったのだ。


(私だって真裕先輩に負けないピッチングをする自信がある。楽師館の試合では実際にそれを証明できた。けどこの試合の先発を任されたのは真裕先輩で、その真裕先輩は好投を続けてる。……くそっ!)


 胸に渦巻く悔しさを抱え、春歌は再び投球練習を行う。仮に十回表へ突入すれば流石の真裕も降板を考えることになる。春歌の出番はあるのか。


「九回、何としても切り抜けるぞ!」

「おー!」


 グラウンドではキャッチャーの亀丘の叫びが奥州大付属ナインに奮起を促す。ノーアウトランナー満塁のチャンスを逸したショックは計り知れない。しかし彼らの闘志の火は消えていなかった。真裕に疲れが出てきており、十回表の攻撃には希望が持てる。その十回表を迎えるためには九回裏を凌がなければならないが、自分たちのエースなら大丈夫だと自信があった。もちろん当の舞泉も亀ヶ崎に点を与えるつもりはない。


(……真裕ちゃん、最後のボールは本当に素晴らしかったよ。もしもう一打席対戦があったとしても、同じ球は投げられないだろうね。勝負は私の負けだ……。……だからせめて、試合には勝つ! 甲子園の舞台には私たちが立ってやる!)


 先ほどの打席で舞泉には生涯消えることのない屈辱が刻まれた。しかし彼女はそれを原動力に、試合に勝つという最大の目標へと邁進する。


《九回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、七番レフト、野際さん》


 亀ヶ崎は舞泉から一点を()ぎ取れるか。タイブレークのランナーは二塁にゆり、一塁に昴を置き、七番の栄輝から攻撃が始まる。


「栄輝、 先頭大事だぞ! 繋げ!」

「遠慮せず自分で決めちゃっても良いよ!」


 ベンチの声援を力に、栄輝が打席に入る。バントの指示は無し。彼女は元々バントが得意な打者ではない。監督の隆浯としては代打を出すという手もあるが、極限のプレッシャーが掛かる中で舞泉の球を初見でバントできる選手が一体どれだけいるだろうか。それならば既に二打席立っている栄輝に打たせた方が期待できると判断した。


(……バントじゃないんだ。じゃあ私が打って決める!)


 初球はアウトハイのストレート。果敢に手を出した栄輝だが、振り遅れて彼女のバットは空を切る。


 舞泉の球威に衰えは見られない。寧ろこの回に入ってギアを上げており、投げる姿からは誰のバットにも当てさせないという気迫を感じられる。


(打ってこようとバントしてこようと関係無い。バットに当たらなきゃ何も起こらないんだから。全員三振で終わらせてやる)


 二球目、舞泉は一球目と対角線になるインローへとストレートを投げ込む。厳しいコースに栄輝はバットを出せず見送ってしまう。


「ストライクツー」


 絶妙のコーナーワークで舞泉があっさりと栄輝を追い込んだ。亀丘から返球を受けた彼女は間髪入れずに次のサインを決め、テンポ良く三球目を投じる。投球は前の二球とは異なり、真ん中付近へと行く。


(チャンスだ!)


 栄輝は甘い球を逃すまいとスイングする。だがこれは罠だった。舞泉が投げたのはフォーク。打者の元に達する寸前で鋭く落下する。


「バッターアウト」


 空振り三振。栄輝は舞泉に対して手も足も出ず、がっくりと下を向いて打席を後にする。


「……はい、まずはワンナウトね」


 舞泉は栄輝を三振に仕留めるのは当然のことだったと言うかの如く、淡々と次の菜々花への投球に気持ちを切り替える。ランナーを動かすことなくアウトを増やし、無失点に抑える兆しが見える。


《八番キャッチャー、北本さん》


 続いて打席に立つのは菜々花だ。栄輝の三振をカバーするべく、アウトになることなくランナーを進めたい。もちろん自身で試合を決める一打を放てれば言うことはない。


(ネクストから見てる感じだと、真っ直ぐは一段と力が籠ってた。打ち返すのは簡単じゃないだろうけど、振り回さなければバットに当てられるはず。とにかく打球を前に飛ばすんだ)


 初球、菜々花は外角のストレートに手を出していくも、バットには当てられない。打ち返すにはもう少し早くスイングを始める必要がありそうだ。


(このイニングまで来てもこのスピードを保っていられるのか……。凄いとしか言い様がないよ。けど負けてたまるもんか!)


 二球目もストレートが続く。菜々花は初球よりも早めに始動し、舞泉が投げるのとほぼ同時にバットを振り出す。



See you next base……

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