表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
14/149

13th BASE

 三回表、七番の真裕が、七球粘った末に足立から四球を選んだ。


「おし」


 真裕は小さく呟いて一塁へと向かう。最後の一球も大きく外れていたわけではないが、それなりの確信を持って見極められた。ストレートを七球続けて投げられる中で、かなり目に馴染んでいたのだろう。これがもしも変化球だったならば、若しくはここまでの過程でどこか一球でも挟んでいたならば、また結果は違ったかもしれない。


 女子野球部にとって、この試合初のランナーが出た。しかもまだノーアウト。とにかく先制点を挙げるべく、打席に立った八番の菜々花は送りバントの構えを見せている。


(バントは別に苦手じゃないけど、これだけの速い球、しかもちょっと荒れてるとなると怖いな。けどそんな弱気じゃ、できるものもできなくなる。勢いに釣られて高めのボール球を打ち上げないよう気を付けなきゃ)


 初球、威力のあるストレートが真ん中高めに投じられる。菜々花は冷静にバットを引いて見送った。判定はボールだ。


(よしよし。この高さはまさにバントをしちゃいけないコースだ。バットの位置は予めここら辺に照準を合わせておいて、それよりも低い球をやろう。そうすれば転がすことはできるはずだ)


 二球目。今度は外角低めにストレートが来た。菜々花は膝を柔らかく使ってバットの高さを調節し、一塁側へバントする。


「オーライ」


 すかさずマウンドを降りてきた足立が処理を行う。捕球した彼は二塁に目を向けたものの、真裕をアウトにできないと判断して一塁へと送球。送りバントは成功し、先制のランナーが得点圏へと進んだ。


「サード!」

「オーライ」


 畳み掛けたい女子野球部だったが、一筋縄ではいかない。足立が意地を見せ、次打者はサードフライに打ち取られる。


 ツーアウトとなって打順が一巡。一番に戻って京子が二打席目に臨む。初回の打席は足立の前に為す術無く凡退した。その雪辱を果たし、真裕をホームへと迎え入れたい。


(真裕はあっさりアウトになったウチと違って、打てなくても食い下がってた。その結果がフォアボール。そしてこのチャンスに繋がってるんだ。潰すわけにはいかない)


 一球目、インハイにストレートが来る。京子は鋭いスイングでバットを出していくも、空振りを喫する。


(前の回もこの回も割とたくさん投げてるはずなのに、相変わらずスピードは落ちないな。まだ三回だから当たり前と言えば当たり前か。このくらいでへばってたら、先発なんてやってられないもんね)


 二球目もストレート。今度は外角低めの際どいコースを突かれ、京子は見送るしかない。


「ストライクツー」

「まじ? タ、タイム」


 忽ち追い込まれ、京子は思わず打席を離れる。真裕の時とは別人のような足立の投球に、困惑せずにはいられなかった。


(今のストライクなのか……。何だか私に対しては妙に良い球ばっか来てない? ……ただそうやって嘆いていてもどうにかなるわけじゃない。ランナーを還したきゃ自分で状況を変えるしかないんだ)


 京子が改めて打席に入り、足立から三球目が投じられる。コースは先ほどと同じアウトロー。しかし球種はチェンジアップだった。


「こんにゃろ」


 微妙に沈む軌道に合わせ、京子は右腕を懸命に伸ばしてスイングする。辛うじてバットに当たった打球は、ワンバウンドした後にキャッチャーミットに収まる。


「ふう……」


 ひとまずは危機を脱して吐息を漏らす京子。だが一難去ってまた一難、四球目は初球に空振りしている内角高めのストレートが来た。


「うおっと⁉」


 これも京子はファールにする。ここまで打てそうな球は一球も無し。それでもしぶとく粘れるからこそ、彼女は一番打者を務められるのだ。もちろん一年生の時からできていたわけではない。二年間の紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、地道な鍛錬の末に手に入れられた技術である。


(真裕や紗愛蘭に頼ってばかりなわけじゃない。ウチだってやる時はやるんだから)


 五球目のカーブは外へと抜ける。三球目こそ良かったものの、足立の変化球の精度は京子相手でも良くなっていない。緩急の面からこの直後にチェンジアップを投げてくるのは考えにくく、必然的に次はストレートという流れとなる。


(ピッチャーは真っ直ぐに頼るしかなくなってる。けどウチらはまだそれを打てていない。力勝負を仕掛けられても立ち向かえるようならなきゃ、前には進めないんだ)


 互いに息の詰まる対決は六球目へ。足立は言うまでもなくストレートを投げる。真ん中やや内寄りの投球に対し、京子は右中間にライナーを放つ意識でスイングする。


「くっ……」


 しかし足立の球威が(まさ)った。京子は完全に詰まらされ、バットの根元で打ち返す。


 打球は三塁線際を転々とするも、ファールになる気配は無い。前進してきたサードが素手で掴み、一塁へランニングスローを見せる。


(……まだ諦めるな。ウチの足なら可能性はある!)


 京子は必死に俊足を飛ばす。送球がファーストの手に届く傍ら、彼女も左足でベースを踏む。判定や如何に……。


「セーフ、セーフ!」


 一塁塁審は両手を真横に広げる。送球と京子、それぞれの一塁到達が同時だったのだ。


 野球の規則では打者が一塁ベースに達するよりも前に、ボールを持った野手にタッチされる、或いはベースに触れられることでアウトが成立する。裏を返せば、先述の行為が同じタイミングだった場合はセーフになるということである。


「ナイス京子ちゃん! よく走ったね!」


 三塁ベース上から真裕が大袈裟に手を叩いている。それを目にした京子ははにかみながらも、心の中にはほんの少しだけ嬉しい気持ちが湧いていた。


「どこがナイスなの。恥ずかしいから辞めてよ、もう……」


 京子は足立との力勝負に勝てなかった。ただし結果は内野安打。運が良かったと言えばそれまでだが、そこへ辿り着くまでにはツーストライクから厳しく攻められてもファールで逃れるなど、アウトにならない努力が積み重なっている。彼女が劣勢の中でも自らを奮い立たせ、やるべきことをやり通したからこそ生まれた成果なのだ。


「ボール、フォア」


 この一打が堪えたのか、足立は次打者に四球を与えてしまう。塁上が三人のランナーで埋まり、打席には三番のオレスが立つ。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ