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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
137/149

133rd BASE

 九回表の奥州大付属の攻撃。タイブレークのランナーと坂口の安打で全ての塁が埋まった。二番の横川は三振に倒れてワンナウトとなるが、打順は三番の舞泉に回る。


《三番ピッチャー、小山さん》


 最高潮と思われた第三打席を悠に上回る大歓声が球場を揺らす。互いにこの瞬間までの野球人生で培った全てを注ぎ、真裕と舞泉は雌雄を決する戦いに臨む。


(あんな中途半端な形じゃ真裕ちゃんも納得できないよね。私が快音を響かせて、清々しく終わりにしよう)


 舞泉の体内が沸騰しそうなほど熱くなる。高揚感を抑えられない彼女は、打席の中で幸甚に満ち溢れた笑みを浮かべてバットを構える。対する真裕もアドレナリン全開だが、舞泉とは違いほんの少し口角を持ち上げるだけ。絶体絶命とも言えるピンチのため、楽しむ気持ちはあっても隙は見せられない。


(やっぱりきちんとした三振を取って終わるべきだよね。振り逃げは無い状況だし、余計なことを気にせず勝負できる)


 亀ヶ崎の内野は前進せずに二塁で併殺を取るシフトで守る。だが真裕はそれと関係無く三振を狙うつもりだ。最後はスライダーで決めにいくことはほぼ確定のため、どのようにして舞泉を追い込むところまで持っていくかがポイントとなる。


(舞泉ちゃんはスライダーを打ちたいだろうけど、現実的に追い込まれるまでは違う球に狙いを定めてくるはず。待つとしたら真っ直ぐなのかな?)


 横川に対してはカーブ二球で追い込んだ真裕だが、基本的な投球の軸はストレートとなる。それを舞泉が狙うのも自然なことと言える。真裕と菜々花はどんな配球を組み立てるのか。


(横川に投じたような真っ直ぐなら、小山でも差し込めるかもしれない。けどそれができるのは一球だけだろうな。だとしたら初球の入りは……)


 一球目、菜々花はカーブを要求する。真裕はアウトローへと投げ込んだが、僅かに外れてしまった。


「ボール」


 舞泉はと言うと悠然と見送り、ストライクであっても打ちにいったかと問われると微妙だ。菜々花もカーブは狙われていないと判断する。


(小山がここで駆け引きしてくるような人間とは思えない。素直に真っ直ぐ待ちと考えて良さそうだな。なら次もカーブで行こう)

(分かった)


 二球目もバッテリーはカーブを続ける。ところが真裕の投球はすっぽ抜けてしまった。ほとんど変化せず、舞泉の顔の高さに浮いてボールとなる。


「いかん……」


 真裕は若干眉を顰めて嫌悪感を示す。ここに来て疲労感からコントロールが乱れてきた。試合時間は二時間を超えようとしており、この炎天下でそれだけ長く投げ続けているので当然の流れではある。


「真裕頑張れ! 打たせていこう!」


 ショートの京子が声を飛ばす。それに反応して振り返った真裕は、薄らと表情を和らげて応える。たった一言だが、こうして幼馴染に励まされれば活力が漲るものだ。


(……大丈夫。ここから立て直せる)


 真裕は青空に目をやって一息()き、それから菜々花のサインを確認する。要求されたのは低めのツーシーム。これでストライクを取ってカウントを整える算段だ。ところが、真裕は首を振る。


(え?)


 菜々花は一瞬固まる。舞泉がストレートに張っているだろうことは真裕も勘付いており、カーブを続けた今であればツーシームが効果的であることも理解できるはずだ。スリーボールにできないため制球できていないカーブを選ぶわけにもいかず、スライダーを除けばストレートしか残っていない。


(ここで真っ直ぐを使いたいってことか……。でも小山は確実に狙ってる。それでも真裕には打たれない自信があるのか?)


 菜々花はマスク越しに真裕と視線を合わせる。目は口ほどに物を言うことを体現するかの如く、真裕は力強い眼差しで菜々花に訴え掛ける。


(大丈夫! 私は打たれないよ)

(……分かった。でも投げるとしたらこのコースだけだよ)


 エースの熱意に(ほだ)された菜々花は、舞泉の胸元にミットを構える。試合開始当初と比べて球威の落ちている状態では、低めだと掬い上げられて外野まで運ばれてしまう。反対に高めであればスイングの際に腕が縮こまるため大きなフォロースルーをし辛く、フライを上げようとしても力を伝えられず飛距離が出にくい。理想は内野フライでアウトにすることだが、ファールや空振りでストライクを稼げれば十分だ。


 だが少しでも真ん中に入れば長打を食らう危険は高い。真裕にはしっかりと指に掛けて投げることはもちろん、狂いが生じ掛けている制球力も求められる。


(信じてるよ、真裕。自分で言ったんだから投げ切ってよね)

(当然!)


 サインが決まる。真裕は頬を膨らませてもう一度息を吐き出し、セットポジションに入る。舞泉はバッテリーの予想通りストレートに照準を合わせていた。


(もうカーブなんて見たくないし、投げてもこないでしょ。ツーシームが来ても力で押し切れる。だから私は真っ直ぐを弾き返すことだけを考える)


 力と力がぶつかり合う三球目。唸り声と共に真裕からストレートが投じられる。


「はあ!」


 投球が舞泉の懐を抉る。フルスイングで応戦する彼女のバットが刹那の金属音を発する。


「ファール」


 球審が咄嗟に両手を広げる。打球はバックネットに当たるファールとなったのだ。この力勝負は真裕に軍配。カウントはツーボールワンストライクとなる。


「くっそお……」


 舞泉は一度バットを離して宙に浮かせ、芯の下を左手で持ち直す。その取り方には悔しい胸の内が分かりやすく表れている。


(もう少し球が低かったら捉えられてたんだけどなあ。まあそうならないコースに真裕ちゃんが投げ切ったってことだよね。けどまだ私にチャンスはある。次も真っ直ぐなら仕留めるよ)


 まだバッティングカウントであることに変わりはない。真裕としては一難去ってまた一難。舞泉は引き続きストレートを狙って思い切ったスイングができ、次はより重要な一球となりそうだ。


 一転してバッテリーが手早くサイン交換を済ませる。真裕は先ほどと比べてどことなく落ち着いた表情で投球モーションに入り、四球目を投じる。

 球種はストレート。コースも三球目と同じところに来ている。


(またストレート。今度は逃さない!)


 舞泉が再びバットを振り抜く。閃光のようなスイングから、大飛球が放たれる。



See you next base……

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