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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
132/149

128th BASE

 六回裏、亀ヶ崎は三人で攻撃を終える。真裕を三振に仕留めて三つ目のアウトを取った舞泉は、彼女に目をやることなくマウンドから走り去る。


(下位打線ではあったけど、私はちゃんと抑えたよ。真裕ちゃんも付いてきてね。それでもう一度対戦しよう)


 舞泉は攻撃前の円陣に加わる。そこでは彼女の希望とは相反するように、真裕を打ち崩そうという号令が一番を打つ坂口から下る。


「悪い流れだったけど、舞泉のピッチングが引き戻してくれた。一点でも取れれば舞泉が守り切ってくれる。何としても得点して、裏を抑えて勝とう!」

「おー!」


 七回表、奥州大付属は五番の坂壁から始まる。彼女の巧打はランナーを還すだけでなく、時としてチャンスメイクもできる。


 しかし真裕は坂壁を寄せ付けなかった。初球にインコースのストレートでストライクを取ると、二球目は外角のツーシームを引っ掛けさせる。


「ショート」

「オーライ」


 真裕の右を転がっていったゴロを京子が軽やかに捌く。送球も嵐の胸元へと投じてしっかりとアウトにした。


「ナイショート!」

「うん。この回をさっさと終わらせて、サヨナラにしよう!」


 ボール回しで自身に巡ってきたボールを、京子が真裕に投げ渡す。坂壁をあっさり凡打に仕留めた真裕は、後続の打者もテンポ良く打ち取る。


「アウト、チェンジ」


 円陣で気合を注入した奥州大付属だったが、心意気も虚しくものの数分で七回表の攻撃を終えた。舞泉は喜ぶことこそしないながらも、内心では嬉しさを感じつつ七回裏のマウンドに上がる。


(ありがとう真裕ちゃん。これでまだまだ投げ合えるね)


 一点でも取られれば即座に奥州大付属の敗北が決まる。だが舞泉は自分が失点を喫することなど考えていなかった。それを覆して勝利を掴むべく、亀ヶ崎の円陣、及び中心に立つ紗愛蘭の声にも熱が入る。


「あとは点を入れるだけだよ。打順も一番からだし、皆で声出して、力を合わせて攻撃しよう!」

「おー!」


 この回で試合が決まるのか。それとも昨年と同じく延長戦へと入るのか。その命運をにぎる先頭打者として、京子が打席に入る。


「お願い京子ちゃん! 京子ちゃんが出れば得点できるよ!」


 ベンチから真裕が大きな声援を送る。ここまで二打席連続三振を喫している京子が、幼馴染の期待に応えて舞泉に一矢報いたい。


(去年みたいに負けるわけにはいかないし、真裕の泣き顔はもう見たくない。そのためにウチが突破口を開くんだ)


 初球、外角のストレートを京子はバットに当てる。打球はバックネットに直撃してファールとなる。


(まだ振り遅れてはいるけど、少しはタイミングを合わせられるようになってきたかな。次も真っ直ぐなら打てるぞ)


 京子の表情に仄かな自信が灯る。二球目、彼女は低めに外れたストレートをきっちりと見極めた。こうして少しずつ球筋を追えるようになってきていることはマウンドの舞泉にも分かる。


(三打席目ともあって目が慣れつつあるのかな。この状況だと先頭は絶対に出しちゃならないし、ちょっと慎重になっておこう)


 三球目、舞泉は一球目と同じアウトコースに投じる。やや球速が抑えられていると感じた京子は、力強くバットを振って打って出る。


「ピッチャー!」


 打球はセンター返しとなった。ところが設計図でもあったかのようにワンバウンドで舞泉の胸元へと行ってしまい、彼女のグラブに収まる。


「ああ……」


 俯き加減で走り出す京子を傍目に、舞泉は余裕を持って一塁に投げる。送球がファーストの坂壁へと渡ってアウトが成立。走る速度を緩めて一塁を駆け抜けた京子は、首を傾げながら引き揚げる。


(……今の、真っ直ぐじゃなかったな。真裕のツーシームみたいにちょっとだけ変化してバットの芯を外された。小山はあんな球も持ってるのか)


 京子が打ったのはカットボール。舞泉はストレートだと思わせて彼女にスイングさせておき、紗愛蘭の時と同じくバットの下に引っ掛けさせたのだ。


「京子、ちょっと良い?」


 ベンチに帰ってきた京子を、次の次の打者として待機していた紗愛蘭が呼び止める。京子の打ち方を見て、彼女は即座に自分が併殺打を打った球と同じものだと気付いていた。


「京子が打った球って、真っ直ぐじゃなかったよね?」

「だと思う。ちょっと変化してたから、ツーシームかカットボール辺りじゃないかな」

「やっぱりか。数は多くないだろうけど、いざと言う時に投げられたら厄介だね。頭には入れておかなくちゃ」


 京子との会話を終え、紗愛蘭がネクストバッターズサークルに向かう。それまでは自分への一球しかカットボールが投げられていなかったため存在自体が半信半疑だったが、京子の話を聞いて確信に変わる。


(京子にあの球を投げてきたってことは、三巡目に入って真っ直ぐだけじゃ抑えられないと小山が感じ始めているのかも。一点でも取られたら負けるわけだし、大事に行きたい気持ちが芽生えても不思議じゃない。そうだとしたらそこに付け入る隙があるはずだ)


 打席には二番の嵐が入る。四回の第二打席では亀ヶ崎初にして唯一の安打を放っている。先ほどは直後の併殺でチェンジとなってしまったが、後を打つ紗愛蘭が攻略の糸口を見出しかけているだけに、出塁できれば大きなチャンスが生まれるかもしれない。


(ここも小細工せず、真っ直ぐに絞ってどんどん打っていこう。思い切ってバットを振れば前に飛ぶことは分かったんだ。私がランナーとして出て、サヨナラのホームを踏むぞ)


 嵐に対して舞泉が一球目を投げる。彼女の右腕から放たれたのは直進するストレートではなく、山なりに弧を描くカーブだった。タイミングを外された嵐は無様にもヘルメットが傾くような空振りを喫する。


(格好なんて気にするな。次も手を出していくぞ)


 二球目も嵐はストレートに合わせてスイングする。ところがまたもやカーブが投じられ、彼女のバットは空を切る。


 舞泉に手玉に取られるようにして追い込まれた嵐。ストレート狙いを貫きたいが、これでは自然と迷いが生じる。


(……惑わされるな。次は流石にストレートのはず。それを打てば良いんだ)


 三球目、舞泉の投球は内角低めを真っ直ぐ進む。ストレートだ。嵐はこれまで通りバットを振り抜く、……ことができない。


「ストライクスリー、バッターアウト」


 嵐は見送ってしまったのだ。結局カーブの残像を拭い切れず、ストレートのスピードに差し込まれて手が出なかった。


「くう……」


 信条を貫けずに三振に倒れ、嵐は打席の中で力無く項垂れる。舞泉はそんな彼女に全く興味を示さず、野手がボール回しを行う間に後ろを振り返ってロジンバッグを軽く触っていた。



See you next base……

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