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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
131/149

127th BASE

 六回表、ツーアウトランナー一、三塁で四番の姫香と対した真裕は、ワンボールツーストライクからスライダーを空振りさせる。しかし投球はまたもや菜々花のミットに届く前で地面に跳ねる。


(真裕が信じて投げてくれたんだ。何としてでも止める!)


 菜々花は体を少し内側に向けてブロックしようとする。プロテクターに当たって弾かれたボールが三塁側へと転がった。


 振り逃げの出塁を狙って姫香が走り出す傍ら、菜々花はマスクを取って素手でボールを掴む。それから何歩がステップを踏み、落ち着いて一塁へと送球する。


「アウト、チェンジ」


 今度は三振が成立。真裕は菜々花に右親指を立てて見せる。


「菜々花ちゃん、ナイスストップ!」

「真裕もナイスボール! よく投げたね」


 真裕と菜々花が互いに称え合う。エースの信頼感が扇の要に勇気を与え、二人は大きなピンチを脱する。


 対する奥州大付属は二者残塁でまたもやチャンスを逸した。一塁を力無く駆け抜けた姫香は膝に手を付いてがっくりと項垂れる。


(くっそお……。思ってた以上に切れがあったし、変化も大きかった。あんなスライダー見たことないよ……)


 姫香も真裕のスライダーを捉えることができなかった。だが彼女以上に悔しさを感じている者がいる。他でもない、舞泉だ。


「舞泉さん、どうぞ。飲んでください」

「ああ……、ありがとう」


 ベンチ前へと引き揚げてきた舞泉に、チームメイトがコップ一杯のスポーツドリンクを渡す。彼女はそれを半分ほど飲んで喉を潤すと、口元を二の腕で軽く拭ってからグラブを受け取る。


(延長まで試合が続けば、もう一度真裕ちゃんと勝負できるかもしれない。ここで終わってたまるか)


 自身への怒りも混じった捲土重来の想いを胸に、舞泉は六回裏のマウンドに登る。その感情をボールに乗せ、まずは先頭の栄輝を力()くで抑える。


「ショート」


 二球目のストレートに押し込まれた弱いフライが舞泉の後ろに上がる。これを小走りで前へと出てきた横川が危なげなく掴んだ。


 ピンチを乗り越えた流れを攻撃に活かしたい亀ヶ崎だが、今の舞泉が相手ではそう思い通りに事は進まない。しかし一人でも塁に出られれば上位へと繋がる。菜々花と真裕のバッテリー二人でチャンスを作りたい。


《八番キャッチャー、北本さん》


 先に打席に立つのは菜々花。初球、彼女はアウトコースのストレートを強振していくも、バットは空を切る。


(そんなに大振りしてちゃ私の真っ直ぐには当たらないよ。まあそうじゃなくても当てさせないけどね)


 舞泉は菜々花のフルスイングを見ても一切動じない。寧ろそれでは打てる訳が無いとある種の安心感さえ覚える。


 二球目も舞泉はストレートを続け、真ん中高めへと投じる。一球目と同じスイングで打とうとする菜々花だが、これまた空振りとなった。フォロースルーの反動でバットが腰に巻き付き、バランスを崩し掛けた彼女は一旦打席の外へと出る。


(思い切りバットを振ったは良いけど、やっぱり当てるのすら難しいなあ。かと言ってスイングを小さくすれば当てられるような球じゃない。それなら……)


 菜々花は体勢を立て直し、改めて打席に入る。すると舞泉は彼女にこれ以上考える時間を与えぬよう、間髪入れずに投球を行う。


 三球目、ストレートがアウトハイへと行く。見送れば三振のため手を出すしかない菜々花だが、彼女は打つとは違う行動に出た。セーフティバントを仕掛け意表を突いたのだ。


「ピッチャー!」

「オーライ」


 ところが球威に押されてフライとなってしまった。マウンドの右に上がったボールを舞泉が他の野手を制して処理に向かう。落下点に入り切れず走りながらの捕球となったものの、難無くグラブの中に収める。


「アウト」


 敵も味方も誰もが想定していなかったであろうツーストライクからのバントとあって、菜々花のアイデアは悪くはなかった。しかし転がせなければ何かが起こる可能性は非常に低くなる。舞泉としても慌てることなく対処できた。


《九番ピッチャー、柳瀬さん》


 ツーアウトとなり、打順は九番の真裕に回る。舞泉の本意は打者として彼女にリベンジすることだが、その前に投手として抑えることで一つ借りを返しておきたい。


(真裕ちゃんはバッターとしても侮れない。悪いけど、全力で抑え込ませてもらうよ)

(舞泉ちゃんがさっきの三振を悔しがっているなら、きっと私のことは真っ直ぐで捻じ伏せようとしてくる。それを弾き返せれば気持ちの面で結構なダメージを与えられると思うし、ツーアウトからでもチャンスを生み出せるはずだ)


 一球目、舞泉が外角低めのストレートを投じる。真裕は積極的に打ちに出る。


「ファースト」


 一塁側のファールゾーンに高いフライが上がる。ファーストの坂壁が追い掛けるも、打球はフェンスに当たってから彼女の元に落ちていった。


 二球目も外角のストレート。しかし高めに浮いてボールとなった。真裕は打ちたい気持ちが先行しかけたものの、自らを律して思い留まる。


(舞泉ちゃんの球ぐらい威力があると、高めの方が力負けしやすい。ボール球なら尚更押し込まれる。打つならベルト付近の高さに来た球だ)

(真裕ちゃんは真っ直ぐ一本に絞ってるみたいだね。……良いよ、私も変化球なんて使う気無いし、真っ向勝負と行こうか!)


 三球目、舞泉は当然の如くストレートを続ける。ただしコースは真ん中やや外寄りと、前の二球に比べて甘くなった。真裕はこの絶好球を逃さまいとバットを振り抜く。


「ピッチャー」


 一瞬の金属音と共に打球が前に飛ぶ。しかし勢いは無く、マウンドすら越せないような飛球となった。舞泉は一歩たりとも動かず、その場でグラブを下から上へと乱雑に振ってキャッチする。


「アウト、チェンジ」


 狙った高さの球を打ち返した真裕だったが、それでも舞泉の球威が勝った。彼女はバットを持ったまま下唇を噛み、悔しさを滲ませる。


(甘く入ったと思って打ったのに詰まらされちゃった。ただ次の回は一番からだし、京子ちゃんたちが何とかしてくれるはず。私は信じて守り切ろう)


 亀ヶ崎は結局この回も三人で攻撃を終える。そして試合はスコアレスのまま最終回へと入る。



See you next base……


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