表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
13/149

12th BASE

 足立と嵐の勝負は二桁十球目に突入。足立の右腕から放たれた投球は、一度高めのボールゾーンに抜けたように見える。ところがそこから放物線を描いて落ちてきた。


(……カーブか!)


 今日初めて足立から投げられた山なりの変化球に、嵐は咄嗟にバットを出す。ファールにしたかったものの、タイミングを狂わされて前へと飛ばしてしまう。


 高く上がったフライが足立の真上を越えていく。勢いこそ無いが意外と飛距離が出ていたため、浅めに守っていたセンターの間宮はやや急いだ様子で背走する。


「抜けろー!」


 女子野球部ベンチからは打球を後押しするべく大声が飛ぶ。落ちれば長打になることは確実だ。


 しかし、少女たちの願いは届かなかった。もう一伸びというところで打球は失速。最後は間宮が後ろを向きながらもグラブに収める。捕球後に少しバランスを崩したものの、右手に掴んだボールは離さない。


「ああ……」


 ベンチの声は一転して溜息に変わる。打った嵐は既に一塁を回っていたが、走る速度を緩めてベンチへ帰ろうとする。


(しっかりスイングできたわけじゃないのに結構遠くまで飛んでたな。カーブでこれなら、真っ直ぐを捉えればきっともっと飛ばせるはずだ)


 足立攻略への足掛かりは見えてきている。続く打者が凡退して二回裏も無得点に終わるも、(いく)らか収穫のある攻撃はできた。


「ストライク、バッターアウト」


 二回裏。良くなりつつ流れを断ち切るわけにはいかないと、真裕が本領を発揮する。一人目の打者をサードゴロに打ち取り、その後は二者連続で三振を奪う。初回は二安打を浴びるなど苦労したが、この回はそれが嘘だったかのように僅か九球で抑え込んだ。マウンドを降りる途中で京子と言葉は交わす際には、楽しそうに笑顔を弾けさせる。


「ナイピッチ。ギアを上げたみたいだね」

「いやいや、これくらいは普通だよ。最初がちょっぴり躓いただけ。さて、次の回で先制するよ!」


 そう息巻く真裕はベンチに戻ると、グラブを置いてバットを手にする。三回表は彼女からの攻撃だ。


(初回は物凄い投手が相手だと思ったけど、紗愛蘭ちゃんや嵐ちゃんの打席を見てると何とかなりそうな気がしてきたよ。私が初ヒットを打って勢いを付ける!)


 右打席に立った真裕は、バットのグリップを顔の位置まで上げて大きな構えを作る。その打撃フォームからは彼女が投手であるとは微塵も思えず、紗愛蘭やオレスにも劣らぬ強打者の風格さえ仄かに漂っている。


 一球目。足立の投げたストレートを、真裕は果敢に打ちに出る。しかし高めにボール二個分ほど外れており、これではいくらバットを振っても当たらない。


「スイング」

「あ……、いけね」


 咄嗟にバットを止めた真裕だったが、球審にはスイングしたと判断される。足立にストライクを一つ献上してしまった。


(打ちたいからって明らかなボール球を振るのは駄目だ。嵐ちゃんやオレスちゃんによるとコントロールは良くないらしい、こっちが助けないようにしないと)


 真裕は頭を小突いて自らを戒める。如何に強打者に見えても、やることが伴わなければ意味が無い。


 二球目もストレート。今度は真裕の(へそ)付近を通過し、彼女は腰を引いて避ける。


「ボール」


 続く三球目も外れ、ツーボールワンストライクとバッティングカウントとなる。投手はストライクを取りたいため、真裕にとって打ち頃の球が来るかもしれない。


(真っ直ぐで押してくるとは思うけど、コースがどこに来るかが問題だな。真ん中付近だったら思い切って振っていくよ)


 四球目、真裕の読み通り、足立はストレートを投じる。コースは真ん中低め。打ちにくくも打ちやすくもない微妙なところだ。真裕は打ちたくなる気持ちを堪え、手を出さない。


「ボールスリー」


 球審は若干低いという判定を下す。これで三球連続ボール。初球も真裕がスイングしていなければボールだったため、実質的には四球続いている。嵐の粘りの効力か、単純にスタミナが切れてきたのか、理由は分からないものの、足立はこれまで以上に制球を乱している。


(他のバッターの時はもう少しストライク入ってたよね。これが本性なのかな? どっちにしてもチャンスだ。フォアボールを取りにいくことはしない。打てる球とそうでない球をきっちり選択して、打ちにいく)


 あくまでも打つ姿勢を貫く真裕。四球を狙うことも悪いことではない。ただノーストライクやワンストライクでそれをやると、打者によっては体が固まっていざという時にバットが出なくなり、絶好球を見逃してしまうなんてことも少なくない。そうなればショックも相まって一気に追い詰められた気分になるだろう。反対に投手は精神的に楽になり、それがきっかけで瞬く間に立ち直ることもある。


 たった一球で打者と投手の立場が一変、更には試合展開を左右しかねないところが野球の恐ろしさ。だからこそ、打者は基本的にツーストライクを取られるまではヒットを打ちにいかなければならない。


 試合の命運を握るかもしれない五球目、足立のストレートがアウトコースのやや高めに来る。真裕はフルスイングで応戦したが、バットは空を切った。


 しかしこれで良い。もちろんヒットが出るに越したことはないが、今の一球で最も大事なことは勝負に挑んだか否かである。

 真裕は打てると思って打ちにいった。結果としては空振りになったものの、それは足立の投げた球が良かったから。できることをやろうとして上手くいかなかっただけなので、決して悲観する必要は無い。少なくとも勝敗を決する一球にはならないだろう。それにまだチャンスは残っている。


 六球目はインローのストレート。際どいコースだったため真裕は手を出していく。右足を引いてスイングしやすい空間を作り、どうにかバットに当てて一塁側へファールを打つ。

 たかが一球、されど一球のファールだが、フルカウントの状況下ではこれが投手に大きなダメージを与えるものだ。とりわけ今の足立には絶大な効き目があるだろう。真裕もそのことをよく理解している。


(私が投手だったとしても、このファールは辛いよ。真っ直ぐは余程のことが無い限りバットに当てられるから、このままだと堂々巡りになる。変化球は不安があるんだろうけど、そろそろ博打を打ってくるかもね)


 真裕の頭に変化球が(よぎ)る七球目、足立は尚もストレートを続けてきた。五球目と同じようなアウトハイを突いている。真裕は少々反応が遅れながらも、カットしようとバットを動かす。


(いや待て。これは……)


 ところが真裕は突如としてスイングを中断。高めに外れていると感じたのだ。


「ボール、フォア」

「え、振った振った!」


 キャッチャーが一塁塁審にスイング判定を仰ぐが、結果は変わらず。真裕は四球を勝ち取った。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ