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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
128/149

124th BASE

 四回裏、嵐にヒットを打たれてクリーンナップを迎えるピンチを、舞泉は併殺であっさりと切り抜けた。六番から始まる次の攻撃では自身の打順が遠いため、小休止が挟めそうだ。彼女は一旦ベンチに腰掛けてタオルで汗を拭く。


(紗愛蘭ちゃんは追い込まれてからもストレートにタイミングを合わせられてたな。流石だよ。けど私がカットボールを投げられることは知らなかったみたいだね)


 舞泉が紗愛蘭を打ち取ったのはカットボールだった。二年生の春頃に習得し、この大会でもほとんど投げていたため、亀ヶ崎ナインが知らないのも無理は無い。ストレートと球速差が少ないため見分けが付きにくく、これまた厄介な球種となりそうだ。


 両チームに初安打が出て少しずつ試合は動きを見せるかと期待されたものの、五回の攻防は共に三者凡退で終わる。あっという間に六回へと突入し、このまま互いに一点も取れないのではないかとすら思えてきてしまう。


《六回表、奥州大付属高校の攻撃は、九番キャッチャー、亀丘(かめおか)さん》


 九番の亀丘が右打席に入り、六回表が始まる。ここまで舞泉が一安打しか許さない好投を続けているのは、彼女のリードがあってこそ。目立たない役回りでも献身的にチームを支えている。


(いくら舞泉が抑えても、こっちが点を取れなきゃ勝てない。私が出ればこの回で舞泉に回るし、勝負を掛けられるはずだ)


 是が非でもチャンスを作ろうと意気込む亀丘に対する初球、真裕は外角のカーブを投じる。亀丘はタイミングを外された様子で見送った。


「ストライク」


 二球目もカーブが続く。ストレートに的を絞っていた亀丘だったが、追い込まれる前に打って出ようとフルスイング。しかし空振りとなる。


(二球ともカーブか……。さっきまで真っ直ぐ中心だったけど、終盤に差し掛かったから配球を変えたのかな。次は真っ直ぐを挟んでくるか?)


 三球目、亀丘の予想に反して真裕はまたもやカーブを投げてきた。アウトコースのストライクから低めのボールになる変化に、亀丘のバットが出掛かる。


「ボール」


 幸いにもスイングしたとは判定されず。菜々花たちが一塁塁審にバットが回ったとアピールするも認められなかった。亀丘は安堵の息を漏らす。


(……良かった。それにしても三球連続でカーブとは。となれば次こそ真っ直ぐでしょ)


 四球目、今度はストレートが来る。亀丘の太腿付近を通っていたため、彼女は瞬時に両足を引いて避ける。


「ボール」


 これでカウントはツーボールツーストライクと変わったが、亀ヶ崎バッテリーとしては前の二球はボールになっても構わなかった。言わば五球目で勝負を決めるための布石を打ったのだ。


(三球カーブが続いた後に真っ直ぐを見せられたことで、亀丘は速い球も遅い球もタイミングが合わせ辛くなってるはず。追い込まれている時点で基本は真っ直ぐを第一に意識しているだろうし、低めのカーブで空振りかゴロを打たせよう)

(分かった。次は一番に返るわけだし、ここは確実に抑える)


 バッテリーがサイン交換を終わらせる。真裕はこれまでと間合いを変えることなく淡々と投球モーションを起こし、真ん中から沈むカーブを投じる。


 亀丘は投球が手元に来るまで待ち切れず、バットを振り始めてしまった。頭が前に出て体勢を崩されたスイングとなる。


(……何とか、何とか空振りは免れないと)


 辛うじて亀丘はバットに当てた。打ったと言えるのか分からないようなか弱いゴロが、三塁線沿いを転々とする。


「オーライ」


 初めに真裕が手を挙げて処理に向かう。加えてサードのオレスも前へとダッシュにしてきた。


「真裕どいて! 私が捕る」


 オレスの叫び声を聞き、真裕は咄嗟に足を止めて屈む。オレスは素手で打球を掴むと、真裕の頭上を通る送球を一塁に投げる。


「走れ亀! セーフになるぞ!」


 チームメイトの声を背に受け、亀丘は脇目も振らず走る。決して足の速くない彼女だが、打球が打球だけに内野安打となる可能性は十分ある。


(打球の行方なんて見るな! とにかく一塁を目指すんだ!)


 最後はヘッドスライディングでベースへと突っ込んだ亀丘。しかしそれよりも僅かに早く、嵐のファーストミットがオレスの送球を収める。


「アウト」

「うう……、くそっ!」


 亀丘は腹這いで突っ伏したまま、悔しそうに左手で地面を叩く。起き上がった彼女は頬もユニフォームも土で真っ黒に染まっており、スタンドからはその勇姿を称える拍手が送られる。


「……ごめん舞泉。私が出塁すれば舞泉に回せたのに」


 ベンチに戻った亀丘が俯き加減に舞泉に謝る。舞泉は彼女の背中を優しく摩り、気を落とさないよう励ます。


「いやいや、亀が謝る必要は無いよ。あれはサードが上手だったね」


 もしも亀丘の打球を真裕が処理していれば、捕球後に体の向きを変える分だけ送球するまでに時間が掛かっていた。反対にオレスは前進してきた流れで送球でき、そこでタイムロスを防いだことがアウトとなった要因の一つと言える。


「でもナイスファイトだったよ。グッチに期待しよう!」

「……ありがとう。そうだね」


 亀丘の表情が和らぐ。アウトにはなったものの、彼女の執念の力走は奥州大付属ナインに奮起を促せるはずだ。


《一番センター、坂口さん》


 打順は三巡目へ。一番の坂口が静かに闘志を燃やして打席に入る。


(亀のあの姿を見て、何も感じないわけがない。もう三打席目だし、そろそろ柳瀬を捉えるぞ!)


 一球目、真裕の投じたストレートが外角高めへと行く。坂口はこれまでの二打席と異なり、積極的に打っていく。


「ピッチャー!」


 バットの芯に近い部分で弾き返したライナーが真裕の右を襲う。差し出された彼女のグラブを掠め、鋭く二遊間を割っていった。


「おっしゃ! 皆続け!」


 一塁に到達した坂口は、左手で握った拳を自軍ベンチに向けて掲げる。それに仲間たちも呼応し、待望の先制点へ機運が高まる。


 加えて坂口が打ったのはストレート。バッテリーとしてはこれまで抑えてきた球種を捉えられ、配球を練り直さなければならない。


(油断してたつもりはないけど、心のどこかで坂口さんは初球を打ってこないと思いながら投げちゃってたかも。でもクリーンヒットだからどの道打たれていたかもしれないし、切り替えよう)


 マウンドの後ろで返球を受け取った真裕は、腰を二度三度(ねじ)って解す。炎天下での投球が続き、少しずつ体に疲れを感じてきた。しかしまだまだ力のある球が投げられているという感触はある。上位打線を相手にするため山場を迎えそうではあるが、これを乗り越えれば味方の攻撃に良い雰囲気を(もたら)すことができるはずだ。



See you next base……

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