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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
127/149

123rd BASE

 四回裏、ピンチを凌いだ流れに乗りたい亀ヶ崎だが、先頭の京子が二打席連続三振を喫する。


「どんまい京子ちゃん。次だよ次。それに京子ちゃんには守備があるからね」


 ベンチに引き揚げてきた京子を真裕が励ます。守備面では非常に良い動きを見せているので、打撃面で結果が出ていないことが響かないようにしてもらいたい。


「分かった。切り替えるよ」


 京子は真裕の言葉に頷く。バッティンググラブを外すなどして一息吐くと、気を取り直して次打者の嵐を応援する。


「嵐、ウチに代わって塁に出て!」


 嵐も一打席目は三振に倒れている。京子の二の舞になることは回避したい。


(私にも真っ直ぐで押してくるだろうな。打つべきか見極めてからスイングしてちゃ間に合わない。明らかに外れている球以外はどんどん手を出していこう。三回バットを振れば何かしらはできるはず)


 初球は低めのストレート。嵐のスイングは投球の下を通過する。


(空振りは気にするな。バットを振らなきゃ当たらないんだ)


 群を抜くスピードのストレートを本当に打ち返せるのかと挫けそうにもなるが、嵐は必死に食らい付こうとする。二球目のストレートに対してもバットを振っていった。


 しかし聞こえてきたのはキャッチャーミットが弾ける音だけ。舞泉は嵐もテンポ良く追い込む。


(やっぱり真っ直ぐで空振りを奪うのは快感だね。見たところバッターはタイミングを掴めていないみたいだし、最後も真っ直ぐで仕留めちゃおう)


 三球目も舞泉は迷わずストレートを投げる。コースは内角。嵐はバットを体に巻き付けるようにしながらスイングする。


「痛……」


 嵐は腕の痺れを感じる。打つことこそできたものの、当たったのはバットの芯から外れた中央部分。それでも彼女は体ごと回転させてバットを振り切る。


「うりゃあ!」


 喉奥から出したような声と共に、平凡なフライが上がる。だが野手のいない一塁後方に飛んでおり、セカンドの姫香が右斜め後ろに走って追い掛ける。

 ライトやファーストも動いてはいるが、落下地点に姫香が一番早く落下地点に辿り着きそうだ。落ちてくる打球に、彼女は懸命に左腕を伸ばす。


「フェア」


 しかしもう半歩のところで届かなかった。打球は地面に弾み、亀ヶ崎の初安打が生まれる。嵐は一塁をオーバーランして二塁を伺う。だがカバーに回っていたライトが打球を捕ったのを見て帰塁した。


「おお! ナイスポテンヒット!」

「嵐ちゃん良いね!」


 賑わう亀ヶ崎ベンチ。打った嵐は仄かに頬を赤らめ、小さく笑みを浮かべる。


(胸を張れるようなヒットじゃないけど、見栄えなんて気にしてられないからね。とにかく紗愛蘭たちの前に塁に出られて良かった)


 三回スイングすると決めて打席に臨み、それをやり切ったことが良い結果に繋がった。誰しもが上手く行くわけではないが、嵐のこうした初志貫徹の姿勢は舞泉攻略のための参考にできるはずだ。


《三番ライト、踽々莉さん》


 嵐の出塁を狼煙に先制点を挙げられるか。打席には三番の紗愛蘭が入る。


(小山の速球は回転数が多い分、反発力も大きい。嵐みたいにバットを振り切れば芯じゃなくても外野まで飛んでいくんだ。そのことが他の皆に見せられただけでも意味がある。私も続いてチャンスを広げよう)


 初めてのランナーが出たタイミングでクリーンナップに回り、亀ヶ崎にも良い流れが来ていると言って良い。ただしここから奥州大付属バッテリーの配球が変わってくるかもしれないので、その点は改めて対応していかなくてはならない。


(真っ直ぐ打たれちゃったかあ。紗愛蘭ちゃんやオレスちゃん以外にも良いバッターがいるんだね。ちょっと安心したよ。じゃあ少し気合を入れていこうかな)


 嵐に安打を許した舞泉だが、動揺は全く無い。寧ろ気が引き締まって更なる力を発揮しそうだ。


 一球目、舞泉が外角にストレートを投じる。打ちに出た紗愛蘭のバットは空を切った。


 舞泉はランナーを背負っての投球となるが、投げている球の質に変化は無い。常にセットポジションからの投球にしたことで、状況に左右されない安定感が保てている。


 二球目は内角低めのカーブがボールとなる。続く三球目は再びストレートが投じられた。インコースに来たため紗愛蘭のスイングは窮屈になり、バットに当てることができない。


(カーブとの緩急を使われると真っ直ぐがとんでもなく速く感じられる。……小山が本当に凄いのはこういう部分なんだ)


 舞泉は決して球速が速いだけの投手ではない。変化球を効果的に交えた投球術も巧みなのだ。ストレートを打てたのは序の口に過ぎない。


(決め球は真っ直ぐか、それともカーブか。フォークの可能性だってある。タイミングは真っ直ぐに合わせるとして、変化球は空振りしないよう対処していこう)


 ワンボールツーストライクからの四球目、舞泉の投球は外角寄りの真ん中低めへと行く。そのスピードからストレートと思われたため、紗愛蘭はセンターから左方向への打球を意識してスイングする。


(……え?)


 ところが投球は微妙に内側へと曲がった。紗愛蘭のバットの引っ掛かるようにして当たり、ゴロが転がる。


「セカン!」

「オーライ!」


 打球はマウンドの右を通り、予め二塁ベースに寄って守っていた姫香の元に飛ぶ。彼女は体の正面で捕球すると、横川にトスして二塁でまずアウトを取った。それから横川が一塁へと送球する。


「アウト」


 まさかの併殺で一気にチェンジとなる。一塁を駆け抜けた紗愛蘭はヘルメットを脱ぎ、腰に手を当てながら首を傾げる。


(今のは何だったんだ……? 真っ直ぐがちょっと動いたような感じだったけど、小山があんな変化球を投げてるところなんて記憶に無いぞ)


 舞泉の持っている変化球は、カーブもフォークも変化量が大きいことで知られている。そのため紗愛蘭としては小さく変化する球は全く頭に無かった。結果的に彼女は、バッテリーのゴロを打たせる策略に嵌められたのである。


「折り姫、ナイスゲッツー!」


 颯爽とマウンドを降りた舞泉は、後から引き揚げてきた姫香にグラブを差し出してハイタッチを求める。姫香は声を弾ませ、無垢な笑顔で自身のグラブを合わせる。


「えへへ、やりました! 舞泉さんがこっちに打たせてくれたおかげです」


 嵐にヒットを打たれてクリーンナップを迎えるピンチを、舞泉はあっさりと切り抜けた。



See you next base……

PLAYERFILE.17:小山舞泉(こやま・まみ)

学年:高校三年生

誕生日:7/5

投/打:右/左

守備位置:投手(外野手)

身長/体重:173/68

好きな食べ物:クレープ(クアトロショコラチョコレート)

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