表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
126/149

122nd BASE

 四回表、ツーアウトながら舞泉を二塁に置き、姫香の放った打球が三遊間を襲う。


「サード!」


 バットの先で打った少し緩めのライナーが飛ぶ。サードのオレスが横っ跳びで捕球しにいくも、打球は彼女の前を通り過ぎて外野に抜けようとする。


「オーライ」


 そこに立ちはだかったのが京子だ。彼女は三遊間の深い位置まで回り込み、ワンバウンドした打球を半身の体勢で掴む。


「京子、投げるな!」


 送球に移ろうとする京子だったが、ファーストの嵐が腕でバツ印を作っていた。姫香をアウトにすることはできないと判断したのだ。


「一塁は無理か……」


 京子は三塁方向を振り向く。彼女が一塁に送球していれば本塁突入を目論んでいたランナーの舞泉は、慌ててベースへと戻った。


「おっと……」


 記録は内野安打となり、奥州大付属がチャンスを広げる。しかし姫香の打球がレフトに抜けていたら舞泉が生還していた可能性は高く、京子のプレーによってひとまずの失点は防がれた。真裕も少し安堵しながら謝辞を述べる。


「ナイスストップ。ありがとう京子ちゃん」

「追い付けて良かったよ。まだ点は入ってないし、ここ踏ん張ろう」

「もちろん! 京子ちゃんの頑張りを無駄にはしないよ」


 京子に助けてもらったことで、真裕の活力は更に漲る。対する打者は五番の坂壁(さかかべ)だ。


《五番ファースト、坂壁さん》


 右打席に入った坂壁は、バットの先端でホームベースの前後を(つつ)いてから構えを作る。彼女は広角に安打を量産できるバットコントロールに優れており、打点を稼ぐクラッチヒッターとして活躍している。今大会でも自身の前に出塁した舞泉や姫香を還す場面が何度も見られた。ここはまさしくそのシチュエーションになっているので、バッテリーは気を付けなければならない。


(ここで打たれたら京子ちゃんに顔向けできない。必ず抑える)


 真裕は再びロジンバッグに触れてから坂壁への投球に向かう。初球はストレートをインコースに投じる。


「ボール」


 僅かに外れた。坂壁は打ちにいく姿勢を見せながらも手を出さない。


(ボールにはなったけど、ここで初球から内を突いてこられるのは流石柳瀬だな。フォアボールは期待するだけ無駄だし、打たなきゃ点は取れない。好球必打を徹底する)


 二球目、アウトローの際どいコースへのストレートがストライクとなる。これも坂壁は見送った。


(甘い球が来るかは分かんないけど、難しい球を強引に打つ必要は無い。焦らずチャンスボールを待つんだ)


 三球目、坂壁は真ん中のカーブを打ちにいく。しかし予想以上に変化は大きく、投球はスイングの下を潜る。


(良いカーブだな。これで決め球は真っ直ぐになるのか?)


 今日の真裕はストレートを中心的に勝負球として使っている。坂壁の頭にもそれが(よぎ)る。


(奥州大付属は真っ直ぐへの警戒心を強めてきてる。けど誰にも捉えられていない。自信を持って攻めよう)


 菜々花は四球目のサインを出すと、坂壁の膝元にミットを構えた。それに真裕は深く頷き、セットポジションに入る。


(舞泉ちゃんの打球はツーベースになったけど、バッターを詰まらせた真っ直ぐが何度もヒットにされることはない。だから大丈夫だ)


 真裕の心臓が脈を速め、額に光る汗の量も増えていく。彼女は自身の体が熱くなるのを感じながら足を上げ、その熱を解き放つように右腕を振り抜いた。


「おりゃ!」


 ストレートが菜々花の要求したコースを突き進む。坂壁は大振りせず、脇を締めてコンパクトなスイングで打ち返そうとする。バットの上面から掠れた音が聞こえてくる。しかしそれに連なるように菜々花のミットからも音が鳴る。


「バッターアウト」


 投球は一旦坂壁のバットに当たったものの、そのまま菜々花のミットに直接収まった。ストライク同様の扱いとなるファールチップで、三振が成立する。


「くそ……」


 打席の中で天を仰ぐ坂壁。真裕のストレートに振り遅れずスイングできたが、ほんの少し力負けしてしまった。あと数センチほどバットの軌道が高ければ会心の打球を放てていたかもしれないだけに、悔しい結果となる。ただその数センチを投げ間違えないのが真裕の制球力だ。


「ナイスピッチ! よく抑えたね!」


 マウンドを降りようとする真裕に、京子がいの一番に声を掛ける。真裕はにんまりと笑って彼女とグラブを重ねた。


「京子ちゃんのおかげだよ。ありがとう」


 京子の好守備が真裕を救い、ピンチを切り抜けた亀ヶ崎。四回裏はその京子が先頭打者となる。


「京子ちゃん、流れが来てるし、この回で点を取ろう。出塁してよ」

「うん、行ってくる」


 ベンチに戻った後も真裕と言葉を交わし、京子は打席へと向かう。一打席目で三球三振に終わった屈辱を晴らしたい。


 奥州大付属はもちろん舞泉が続投する。ランナーで出ていたためマウンドへと上がるまでに少し時間が掛かったが、その間に水分補給をしてきた。呼吸も整い、野手として動いたことが投球に影響を及ぼすことはないだろう。


(ピンチであと一本を許さないのは流石真裕ちゃんだね。この緊迫感をまだまだ楽しめるのがとっても嬉しいよ)


 真裕の熱投に舞泉の心もどんどん熱くなっていく。だがこの程度では欲は満たされない。彼女は互いの身を削るような真裕との投げ合いを望んでいる。


 京子への初球、舞泉は内角のストレートで空振りを奪う。二巡目だからと言って変化球を織り交ぜることはしない。二球目は真ん中低めのストレート。打ちにいく京子だが、振り遅れてバットは空を切る。


(さっき二塁まで走った疲れとか無いわけ? また三振するのは嫌だし、どうにかしないと……)


 三球目、舞泉の投じたストレートは真ん中高めのボールゾーンへ行く。京子はバットに当てたいという気持ちが強過ぎ、思わず手を出してしまった。頭でボール球と分かった後もスイングを止められず、空振りを喫する。


「ああ……」


 京子はやってしまったと項垂れ、バットを地面に叩き付ける振りをして自らへの苛立ちを露わにする。悔しい二打席連続三振に倒れてしまった。



See you next base……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ