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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
125/149

121st BASE

 四回表。一、二番を打ち取った真裕は、舞泉と二度目の対戦を迎える。


 第一打席では真裕がストレート三球で見逃し三振を奪った。この打席もランナーがいないため、思い切った攻めができる。


 初球はインコースのストレート。バッテリーの目的はストライクを取るよりも舞泉の胸元を抉ることだった。思惑通り舞泉は仰け反りながら見送る。


「ボール」


 競った試合展開で終盤まで行けば、勝敗を分ける場面で舞泉を相手にすることとなるかもしれない。この打席は結果以上に、(きた)るべき時に備えた配球を菜々花は組み立てる。


(小山だって内角を攻められ続ければ、どうしてもそっちに意識が行くはず。ここはヒットを打たれても構わない。それよりも後の打席で少しでもこちらが優位に立てるようにしよう)

(分かった。私としては引っ張って強い打球を飛ばされないようきっちりコーナーに投げ切らないと)


 二球目も内角のストレートが外れる。これには舞泉も微動だにしなかった。


(躊躇無くインコースを突いてくるねえ。でもボールじゃ打てないし、そっちが苦しくなるだけじゃない? ここからどうするかな)


 舞泉としては打ちたい気持ちはあるものの、ボール球を無理に打とうとしてフォームが崩れれば後の打席にも影響が出かねない。菜々花たちがそれを狙っていることは分かっているので、舞泉は誘いに乗らないよう我慢する。


 三球目、またもや真裕は内角に投じる。球種はストレートではなくツーシーム。僅かに真ん中へと入る変化をしたが、低めに来ていたため舞泉は手を出さない。


「ストライク」


 未だ打者有利のカウントだが、バッテリーは一つストライクを取ることができた。簡単に四球を出して良いわけではないので、次の一球で建て直したい。


(小山はフォアボールで出塁することは考えてない。打てると思った球は必ず振ってくるぞ。ここはカーブでタイミングを外してみようか)

(……それも良いけど、まだカーブは見せたくないかな)

(そう? じゃあこれで行ってみようか)


 菜々花が改めて出したサインに真裕が頷く。舞泉は真裕が一度首を振った意図を汲もうとする。


(真裕ちゃんの性格なら、ランナーのいないこの場面で真っ直ぐのサインに首を振ることはない。真っ直ぐはまだ誰にも捉えられてないし、私に対しても押せるところまで押したいんじゃないかな。コースもきっと内を突いてくる)


 真裕がワインドアップポジションから四球目を投じる。舞泉の読み通り、内角へのストレートが来た。彼女は迷い無く打ちにいく。


 バットから鈍い音が出る。差し込まれているが、舞泉は左手で押し込んで打球を前へと飛ばす。


「セカン」


 風に乗った羽毛の如くふんわりと舞った小フライが、セカンドの定位置付近に上がる。昴は直前の横川の打球と同じようにジャンプして捕ろうとするも、今度は届かない。


「くっ……」


 打球が地面に弾む。昴は腹から倒れこんだため起き上がるのに時間が掛かり、処理に向かうのが遅れた。それをカバーするべく、長打をして後ろ目に守っていたセンターのゆりとライトの紗愛蘭が急いで前に出てくる。


(外野の二人はまだ捕球できない。二塁まで行ける!)


 守備陣の動きを見た舞泉は一塁を蹴って二塁を狙う。先に追い付いたゆりが素手で打球を拾い上げると、走る勢いを利用して二塁に投げる。送球が京子に渡る直前に舞泉がスライディングを開始する。


「アウトだ!」


 舞泉の足先に素早くタッチした京子が大きな声を上げてグラブを掲げる。対する舞泉も両手を広げてセーフを主張する。


「セーフ! セーフ!」


 紙一重のタイミングだったが、二塁塁審は舞泉が触塁していたと判定を下す。ようやく両チームを通じて初めてのランナーが出た。打ったのが舞泉ということもあり、球場が一気に盛り上がりを取り戻す。


(来る球は分かっていたのに詰まらされちゃった。ちょっと悔しいけど、ヒットになったから良しとしよう。捉えて打つのは次の打席のお楽しみだね)


 舞泉は若干の不満を胸に抱きながら足のレガースを外す。確かに思い描いたバッティングではないかもしれないが、チームメイトが打ちあぐねる中でコントロールミスではない真裕のストレートをヒットにしただけでも価値がある。他の選手にはない力と技を兼ね備えているからこそ打てたのだろう。


《四番セカンド、折戸さん》


 ツーアウトながら舞泉を得点圏に置き、四番の姫香に打順は回る。突如としてピンチを背負った真裕は、一度ロジンバッグを触ることで状況整理のための時間を作る。


(あの打球でヒットになったのなら仕方が無い。完全試合をやろうとしてるわけじゃないんだ。次を抑えて点を与えなければ良い)


 心の奥には舞泉に打たれたことへの意識はあるが、真裕はそれが表に出てこないよう唾を飲んで押し込める。とにかく自分のすべきことだけを考えた。


「折り姫、どんなヒットでも還ってくるから、頼んだよ!」

「分っかりましたあ!」


 二塁ベース上の舞泉から声を掛けられ、姫香はバットを掲げて応答する。この展開であれば先制点の重みがとてつもないことは言うまでもない。奥州大付属はそれを得られる最初のチャンスに主砲が打席に立つのだから、またとない巡り合わせとなる。


 初球、カーブが外角に外れる。姫香はバットを出す素振りをしながらも見送る。


(さっきみたいな空振りを期待したんだろうけど、流石にそこは振らないよ)


 この場面でも姫香は冷静なようだ。お転婆な外面とは対を成す落ち着きぶりは、亀ヶ崎バッテリーを惑わせる。


(これくらいのボール球なら手を出すかと思ったけど、そう易々とこっちの思い通りには動いてくれないみたいだね。一打席目は真裕の真っ直ぐに遅れていたし、それでストライクを一つ取りたい)

(了解)


 二球目、真裕はストレートを投じる。アウトハイから僅かにシュート回転が掛かって更に外へと流れた。しかしバットは十分に届きそうだったため、姫香は打ちに出る。


「てやっ!」


 フルスイングから短い金属音が繰り出される。打球は三遊間を襲った。



See you next base……

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