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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
124/149

120th BASE

 二回裏、亀ヶ崎は四番のオレスがセカンドゴロに倒れる。ワンナウトとなり、打順は五番のゆりに回る。


《五番センター、西江さん》


 掴みどころの無いバッティングをするゆりだが、舞泉はそんなこと関係無いと言わんばかりに力で抑え込む。三球連続のストレートでワンボールツーストライクとし、四球目もストレートを投じる。懐を抉られたゆりは懸命に脇を締めてバットに当てようとするも、ミートポイントが把握できず空振りを喫する。


「うう……、そのスピードでそのコースはきついよ……」


 ゆりはお手上げと言った様子で打席から引き揚げる。打者の体と投球の距離が取り辛いインハイは、舞泉の速球が一番活きるコースとなる。きっちりと投げ込まれればバットに当てることすら困難だろう。


「サード!」


 六番の昴は前に打球を飛ばすことこそできたものの、サード正面へのゴロしか打てない。二回裏も呆気無く終わってしまう。


 続く三回も両チーム三者凡退。一人のランナーも出塁しないまま序盤が終了し、あっという間に中盤へと入っていく。前評判通りの投手戦に、観客たちも次第に固唾を飲んで観戦するようになる。


《四回表、奥州大付属高校の攻撃は、一番センター、坂口さん》


 四回は互いに一番からの攻撃となる。この重苦しい展開を最初に破るのは誰か。

 坂口への初球、真裕は外角のカーブから入る。坂口が見送ってストライクが先行する。


(舞泉や折り姫ですら三振するほど、今日の柳瀬は真っ直ぐが走ってる。まずはそれを打ち返さなきゃいけないんだけど、狙っても打てないから困るんだよね。どうにか私がリズムを崩して、流れを変えるきっかけを作らないと)


 二球目はインコースのストレート。スイングしていく坂口だが、空振りとなる。


(内外にきっちり投げ分けられてる上、緩急を付けられてる。そりゃ打てないよなあ……。けど、私に求められているのはここからのバッティングだ)


 三球目のストレートが低めに外れた後の四球目、カーブが真ん中外寄りから曲がる。坂口は体を前に出されながらも、左手一本でバットに当ててファールにする。


「おっけーおっけー! グッチ粘ってけ!」


 ベンチからの声援に、坂口は小さく頷いて応える。仲間たちが少しでも打ちやすくなるため、可能な限り自分の打席を長くしたい。


 五球目。低めへと沈むツーシームに、坂口は一旦バットを出そうとする。しかし外れていると判断して即座にスイングを中断した。


「ボール」

「危ねえ……」


 打ちたくなる球だったが、よく坂口は我慢した。二球で追い込まれながらも、ツーボールツーストライクの並行カウントまで持ち直す。このしぶとさに亀ヶ崎バッテリーも手を焼く。


(坂口はあまり打球を前に飛ばそうとしてないな。これをやられると中々勝負が終わらなくなるから厄介なんだ。真裕の球数が嵩むのも困るし、こういう時は思い切ってこの球を挟んでみよう。ちょっと怖いけど、真裕なら投げ切ってくれる)


 菜々花が六球目のサインを出す。それを受け取った真裕は二度三度首を縦に動かし、ほとんど間を空けずに投球モーションを起こす。


 投じられたのはカーブだった。坂口の肩口から変化し、真ん中付近に入ってくる。


(え? 失投?)


 予期せぬ一球に、坂口はびっくりしながらバットを振り抜く。鋭い金属音が響き、レフトへのライナーが飛ぶ。


「おお!」


 久々に上がる歓声。打ち終わった坂口はバットを置いて急いで走り出す。


「レフト!」

「オーライ」


 ところが打球はレフトの栄輝の守備範囲に収まっていた。彼女は左に移動してから足を止め、顔の前で捕球する。


「アウト」

「ああ……」


 奥州大付属ナインは坂口が打った瞬間にベンチから身を乗り出す者もいたが、打球が栄輝のグラブに収まるのを見て一様に溜息を漏らす。もう少し打球が違う方向に飛んでいたら、若しくは飛距離の長短が違っていたらと思いたくなる惜しい一打だった。


 しかしバッテリーに目を向けると、あたかも計算通りかのように二人揃って平然としている。実は真ん中へのカーブは失投ではなく、真裕が意図して投げ込んだのだった。打った坂口も彼らの様子を見てそれに気付く。


(……しまった。今のは罠だったのか。私が前に打球を飛ばすよう、態と甘いコースに投げたんだ)


 追い込まれてからの坂口は厳しいコースを攻められるものだと思い、とにかくアウトにならないようファールなどで逃げることを一心に考えていた。そこに思いも寄らぬ甘い球が来たため、咄嗟に打ち返してしまったのだ。


 真裕にとっては勇気のいる投球だが、本人は大丈夫だと信じていた。場数を踏んで様々な抑え方をしているからこそ為せる技である。


《二番ショート、横川さん》


 次の打者は二番の横川。第一打席は初球を打ってショートゴロに倒れている。一球目、真裕はアウトコースに外れるカーブを投じる。スイングし掛けた横川は慌ててバットを引っ込めた。


「スイング」


 一度はボールと宣告されたものの、菜々花たちのアピールによって判定が覆る。一塁塁審はバットが回ったと判断したのだ。


「えー、まじ?」


 横川は納得行かない様子で打席を外し、気を沈めるため素振りを行う。菜々花はその姿から目を離さない。


(奥州大付属は折戸の積極性も否定しなかったし、それはきっと横川にも当てはまる。となるとこの後も変わらず打ってくるだろうな。こっちもそのつもりでリードしないと)


 打席に横川が入り直す。バッテリーはすぐにサインを交換し、真裕が二球目を投げる。

外角のストレートが若干高めに浮いた。ボール気味だが、横川は打って出る。


「セカン」


 一二塁間に小飛球が上がる。昴は自らの頭上を舞う打球に、グラブを伸ばして跳び付く。


「はっ!」


 昴は見事に打球を掴んだ。着地時もバランスを崩さず、二塁塁審にグラブの中を見せる。


「アウト」

「おお! ナイス昴ちゃん!」

「ありがとうございます。でもこれくらいは捕らないと」


 笑顔で賛辞を送る真裕に対し、昴は謙遜しながら会釈代わりに帽子の鍔を触る。この回もランナーが出ないままツーアウト。そして真裕と舞泉の二度目の勝負を迎える。



See you next base……


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