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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第八章 私たち
122/149

118th BASE

 一回表、真裕が奥州大付属の攻撃を三者凡退に抑える。三番の舞泉に至っては見逃し三振に仕留めてみせた。


(真っ直ぐ一本で決めにくるとはね。驚いちゃって体が反応できなかったよ。サインを出してるのはキャッチャーだろうけど、真裕ちゃんも首を振らなかった。それだけバッテリーで真っ直ぐに自信を持ってるってことか。良いねえ。……にしても、もうちょっと打席を楽しみたかったなあ。三球で終わったのは残念だよ)


 一回表は三者凡退で終了。舞泉はバットをグラブに持ち替え、マウンドへと上がる。亀ヶ崎ナインは自軍のベンチ前から彼女に視線を送りつつ、紗愛蘭を中心にして円陣を組む。


「小山は以前と比べ物にならないくらい成長してる。二年前のピッチングを覚えてる人もいると思うけど、その記憶は捨てた方が良いかもしれない。まずはチーム全体で真っ直ぐに的を絞って、速球に振り負けないようにしよう」

「おー!」


 マウンドでは舞泉が投球練習を始める。彼女が一球投げる毎に、観客から感嘆の声が聞こえてくる。

「おお……、やっぱ速いなあ」

「こんなん高校生が打てるんか?」


 日本の女子野球界では、未だ一三〇キロを計測した選手はいない。そんな中で舞泉は常時一二〇キロ中盤から後半の速球を投げることができ、日本人初の一三〇キロ到達者は彼女になるのではないかと期待されている。


 今大会の舞泉は二試合に登板し、失点は一点のみ。被安打も与四死球も少なく、非常に安定した投球で相手打線を圧倒している。


《一回裏、亀ヶ崎高校の攻撃は、一番ショート、陽田さん》


 機先を制したい亀ヶ崎は、先頭の京子が打席に立つ。彼女は一昨年の大会でベンチ入りこそしていたものの、試合への出場機会は無し。そのため舞泉とは初対戦となる。


 一球目、舞泉がセットポジションからゆったりと左足を上げ、軽く溜めを作ってから右腕を振り抜く。オーバースローから放たれた真ん中外寄りのストレートに対してスイングしていく京子だったが、空振りを喫する。


 ただいまの球速は一二六キロ。初回から舞泉のエンジンは全開のようだ。これには京子も自然と目を丸くする。


(小山の球って打席で見るとこんなに早く感じるんだ……。スピードだけじゃなく、球質も良いってことだよね。そりゃ打たれないわけだ)


 二球目も外角のストレートが続く。今度は若干高めに浮いたため、京子はバットに当てることができた。しかし球威に押されて前に飛ばせず、ファールで早々に追い込まれる。


(小山は真っ直ぐの他にも大きく変化するカーブとフォークがある。映像だとこの二つでたくさん空振りを奪ってた。ウチにも使ってくるのかな?)


 京子はバットの握りを少し余す。変化球を警戒しながら、安打を放つよりもできるだけ多くの球数を投げさせようと切り替える。


 ところが三球目、舞泉が投じたのはストレートだった。内角低めの際どいコースに来ており、京子としては見逃すわけにはいかない。


「バッターアウト」


 急いでバットを出した京子だったが、それで舞泉の速球が打てるわけがない。空振り三振であっという間にワンナウトとなる。


(全部真っ直ぐ……。変化球を追いながら打てる球じゃないし、追い込まれても真っ直ぐにタイミングを合わせておくべきだった)


 ベンチに戻った京子は一旦適当な席に腰掛け、バッティンググラブを外す。すると真裕が舞泉の状態について尋ねてきた。


「舞泉ちゃんのボール、どうだった?」

「凄い、……なんてもんじゃないね。二年前からめちゃくちゃレベルアップしてると思う。とにかく真っ直ぐをある程度弾き返せるようにならないと始まらないね」

「そっか……。流石だね、舞泉ちゃん」


 真裕が舞泉を見やる。その舞泉は既に、二番の嵐への投球に移っている。


「ストライク」


 初球は低めのストレート。嵐が見送ってストライクとなる。


(この真っ直ぐがあれば変化球なんて要らない気さえしてくるな。序盤はきっと押せるところまで真っ直ぐで押してくる。できるだけ早めに一本出して、ピッチングを変えさせないと)


 二球目。嵐は自らの臍の前を通るストレートに手を出すも、バットには当てられない。京子と同様に二球でツーストライクを取られてしまう。


 続く三球目、ボール気味の外角へのストレートが来る。選球眼には定評のある嵐だが、これだけ早いと見極めが追い付かず、打ちにいかざるを得ない。そしてバットは虚しく空を切る。


「おお!」


 球場が(どよ)めく。二者連続の三球三振。まだ始まったばかりだが、舞泉は観客の期待通り、いや、それを上回る投球を見せる。


「す、凄い……。まさしく怪物っすね……」


 感銘を受けているのは観客だけではない。舞泉を初めて生で見る結もまた、彼女の投球に魅せられる。


「真裕さんがウルトラ凄いのは言うまでもないですけど、小山さんもウルトラ凄いですね……。ね、春歌さん」


 結は鼻息を荒くしながら、隣にいた春歌に共感を求める。しかし春歌はまるで興味が無いかのように、抑揚の無い声で「別に」と答えるだけだった。


《三番ライト、踽々莉さん》


 打席には紗愛蘭が入る。彼女はチームで唯一舞泉との対戦経験があり、その時はサードゴロに倒れた。共に一年生から一線級で活躍している二人とあって、この対決にも注目が集まる。


 紗愛蘭は初球から打って出る。アウトコースのストレートに対して巧みにバットを合わせたが、タイミングは差し込まれていた。フェアゾーンからは遠く外れた三塁側へのファールとなる。


(予想通り、真っ直ぐに質は遥かに良くなってる。もう一呼吸も二呼吸も早く始動しないと前には飛ばせないぞ)


 二球目、紗愛蘭が内角寄りに来たストレートを捉えきれず、再びファールにする。だが打球の飛んだ方向は本塁の真後ろであり、初球と比べてタイミングを修正してきた。それはマウンドから見ている舞泉にも分かる。


(たった一球で対応しつつあるのか。けどそれでこそ紗愛蘭ちゃんだね)


 舞泉は真裕との投げ合いだけでなく、紗愛蘭との対戦も楽しみにしていた。そのせいか球審から投げられた新しいボールの捕り方も、心()しか愉快気だ。


 三球目は外角高めにストレートが外れ、紗愛蘭が見極める。目で追う分には舞泉の速球にも付いていけている。


(もし今のがストライクでもカットはできそうだ。変化球を交ぜられると分からないけど、とりあえず真っ直ぐだけなら何とかできる)


 四球目もストレートが続く。紗愛蘭はこれもファールで逃れた。


(粘ってくるねえ。紗愛蘭ちゃんには真っ直ぐだけじゃ駄目かな)


 紗愛蘭は前の二人の打者のようには抑えられない。そう感じた舞泉は、五球目に今日始めての変化球となるカーブを投じる。ストレートとは似ても似つかぬ緩やかに大きな弧を描く軌道に、流石の紗愛蘭も対処できない。


「ショート」


 辛うじてバットに当てた打球は、ショートへの凡フライとなる。横川が定位置よりも前に出てきて捕球し、スリーアウトとなった。


See you next base……


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