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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
117/149

113th BASE

 亀ヶ崎が逆転して迎えた六回裏。反撃に出たい鯖江戸はツーアウトを取られると、三番の平も空振り三振に倒れる。


「おし!」


 結は無意識に白い歯を零し、小走りでマウンドから引き揚げる。ランナーを許さなかった上に二つの奪三振。ベンチの期待を超える圧倒的なピッチングで、鯖江戸打線を封じ込めた。


「まだだ! まだ攻撃は残ってる。まずは次のイニングを守り切ろう!」

「おー!」


 しかし鯖江戸も諦めない。有村を筆頭に各選手が全力疾走で守備位置へと向かう。


 七回表、豊本が落ち着きを取り戻し、本来の実力を発揮する。ランナーを一人許したものの、亀ヶ崎に得点を与えない。守備陣もアウトにできる打球を確実にアウトにした。


 そして迎えた七回裏。少なくとも六点を取らなければならない鯖江戸は、四番の片山から攻撃が始まる。ベンチでは選手全員が身を乗り出し、がむしゃらに声を()らす。


「こんなところで終わりたくないぞ! もっともっと勝って甲子園に行くんだ!」

「片山、何でも良いから塁に出ろ!」


 一打で逆転できる点差ではないため、一人一人が地道に後続へと繋いでいかなければならない。安打でも四死球でも、もしくは相手のエラーでも、しぶとく出塁しようとする姿勢が求められる。


 亀ヶ崎は結を続投させる。イニングを跨いでも投球の質を維持できるか。


(この回を抑えたら勝てるぞ! ……いやいや、そういうことを考え出したらおかしくなるって、真裕さんも春歌さんにも言われてたんだった。目の前のバッターを打ち取ることに集中しないと)


 片山への初球、結は低めのストレートを投じる。外れはしたものの、腕の振りの力強さは先ほどと全く変わっていない。それに気圧されたのか、片山の見送り方に迷いが感じられる。


(今のがストライクなら打つべきなのか? ここまで様子を見る限り、変化球を狙った方が打てる確率が上がりそうな気はする。……けど四番の私が真っ直ぐを打てないようじゃ、一イニングでこの点差をひっくり返すのは無理だろ)


 二球目、片山はアウトコースのストレートを打ち返す。バットの上に乗せた飛球がライトに上がるも、フェアゾーンからは大きく外れていた。打球はそのままスタンドに消える。


(気持ち早めにスイングしたつもりだったのに、まだ振り遅れてしまってる。次からはもう一呼吸早く始動するべきだな)


 片山は腰を捻る素振りを見せてから打席に入り直す。ここまでの二球はいずれもストレートを使っている亀ヶ崎バッテリーだが、次はどうするのか。


(結の真っ直ぐに片山でさえ差し込まれてる。それでも四番として打線に火を点けようと思うなら、他の球は狙わず真っ直ぐにタイミングを合わせてくるんじゃないかな。たとえそうなったとしても、結には真っ直ぐで勝負してもらいたい)


 三球目、菜々花は片山が待っていると予測していながら、敢えて結にストレートを投げさせようとする。挑戦的な配球ではあるが、結はさぞ当たり前かのようにすんなりと受け入れる。


(こんなに真っ直ぐで押させてくれるとは、菜々花さんも太っ腹ですねえ。ピッチャー冥利に尽きますよ。四番バッターにどれだけ私の球が通じるか、勝負だ!)


 水を得た魚の如く、結の目が輝く。彼女は愉快気に振りかぶり、菜々花のミットが構えられたインコースを目掛けて投球を行う。


「はっ!」


 短い唸り声と共に放たれた結のストレートは、片山の鳩尾(みぞおち)付近を抉る。負けじと片山も脇を締めながら腰を素早く回転させ、巧みに対応する。


「ショート!」

「オーライ」


 ところが飛んだのはショート右へのゴロだった。片山は打球の行方に目もくれず必死に走ったものの、京子の安定した守備でアウトにされる。


「やった」


 結が小さく拳を握る。主砲相手にも気後れせず、片山との真っ向勝負を制した。


「まだまだ! 師崎、打ってくれ!」


 残されたアウトが二つに減った鯖江戸だが、下を向いている暇は無い。すぐさま切り替えて次打者の師崎に声援を送る。


 初球は外角のストレートが外れた。二球目も同様のコースへのストレートだったため師崎は見逃したものの、今度はストライクと判定される。


(皆が口を揃えて言ってるけど、真っ直ぐには力があるな。片山も真っ直ぐで押して抑えたわけだから、私にもきっと同じことをしてくる。それを打ってやるんだ)


 師崎は速くなる心音に呑み込まれないようにしながら頭を働かせ、狙い球を絞る。敗北が間近に迫った中での打席は普段以上に重圧が掛かり、バットを振ることすら怖くなる。だがただ立っているだけでは何も起こらない。


 三球目、結の投げたストレートが真ん中やや内寄りに行く。師崎は勇気を出してバットを振り抜いた。


「おお!」


 快い金属音が響き、鋭いライナーが放たれる。これには鯖江戸ベンチだけでなく、観客席からも歓声が湧く。


「センター!」


 左中間を襲った打球をセンターのゆりが追い掛ける。そのスピードは徐々に緩まり、やがて彼女は正面を向いて立ち止まる。


「アウト」


 師崎の打球は惜しくもセンターライナーに終わった。歓声が溜息へと変わる。


「ああ……」


 追い詰められた鯖江戸。それでも希望を捨ててはならない。望みを繋ぐべく、代打の喜田(きだ)が右打席に立つ。


 喜田は初球からストレートに張って打ちに出る。ところが結から投げられたのはカーブだったため、バットは空を切る。


「喜田、空振りは気にするな! どんどん打っていけ!」


 ベンチの選手たちは喜田のスイングを支持。ボール球はなるべく振らない方が良いが、代打として出てきたからには積極性を失ってはならない。結の投球がこれだけ勢い付いているともなれば尚更だろう。


(皆の言う通り、一回の空振りで怖気づいていちゃ駄目だ。打てると思ったら手を出していこう)


 喜田は弱気になりそうな自分に活を入れる。二球目、高めに来たストレートを、彼女はフルスイングで弾き返した。


「おりゃあ!」


 高く打ち上がった打球が結の頭上を越えていく。しかし球威に負けて飛距離は出ない。落下地点に入ったゆりが大きく手を広げ、他の野手を制する。


「オーライ」


 打球が無情にもゆりのグラブに収まる。勝敗は決した。



See you next base……

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