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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
114/149

110th BASE

 亀ヶ崎はオレスのホームランで逆転した後も攻撃の手を緩めず、栄輝のタイムリーで追加点を挙げる。


「ボールにしなきゃいけなかったのに……。もう!」


 豊本が脱いだ帽子で腿を叩き、自らの失態への怒りを表す。二球で栄輝を追い込みながら、最後の勝負球が甘くなったのは勿体無かった。ただ彼女の制球力ではこういうことも有り得る。有村はそれを踏まえてリードしたつもりだったが、結果的には裏目に出る。


(ボールでも良いという意思表示をもっとはっきりしなければいけなかった。三点差になったのは痛いが、まだ逆転するチャンスはある。切り替えて次を切るんだ)


 栄輝のヒットで昴は三塁まで進んでおり、亀ヶ崎はランナー一、三塁のまま攻撃が続けられる。鯖江戸にとっては果てなく苦しい時間帯となるが、有村を中心に持ち堪えたい。


「豊、打たれたことは引き摺るな! 良い球を投げられてるのは間違いないんだ。自分を見失わずに投げてこい!」

「は、はい」


 有村の言葉に、豊本がはっとした様子で頷く。常に冷静で淡々と投げていた雪野とは対照的に、豊本は感情の波がやや激しい。そうした点のコントロールも有村には求められる。


《八番キャッチャー、北本さん》


 この回九人目の打者となる菜々花に打席が回る。ここまで無安打の彼女だが、チームが逆転したことで随分と気持ちに余裕を持ってバットを構えられる。


(鯖江戸の心持ちはかなり辛くなってるはず。栄輝のおかげで追加点も入ったし、私は嫌らしくプレッシャーを掛けてみても良いな)


 マウンドの豊本が足を上げて投球モーションに入る。すると菜々花はバントの構えを作った。


「え?」


 ツーアウトのため無警戒だったサードの参藤が慌ててダッシュする。豊本も投球後に前へと出る。投じられたのはストレート。しかし制球が定まっておらずベースの奥でワンバウンドし、有村がプロテクターに当てて左打席の外に弾く。


「ゴー!」


 これを見て一塁ランナーの栄輝は二塁へ進塁。三塁ランナーの昴は少し出たところで帰塁する。


「豊、肩に力入ってるぞ! 相手が何をしてこようと気にせず、さっきまでみたいな投球をすれば良い。バッターをアウトにすれば終わりなんだ」


 有村は肩を回すジェスチャーを見せつつ、再び豊本に声を掛ける。失点を喫することさえ許されない中、それがワイルドピッチともなればチーム全体的に及ぶ精神的ダメージは計り知れない。僅かながらに残っている反撃の気力も失われかねない。


(有村以外は相当バタついているみたいだね。もっと揺さぶっていけば自滅するかも)


 初球の一連の流れから、菜々花は鯖江戸を更に掻き乱そうとする。二球目は少し早めにバントの素振りを見せつつ、野手が動き出したところで打つ構えに戻した。これに惑わされた豊本は手元を狂わせる。


「ボールツー」


 ストレートが大きく高めに外れた。これで打者が圧倒的優位のカウントとなり、菜々花としては引き続き揺さぶりを掛けるだけでなく、ストレート一本に絞って打ちにいくこともできる。


(一塁が空いているから私を歩かせても良いけど、このピッチャーのコントロールじゃ押し出しが怖いでしょ。状況的にもデータ云々なんて言ってられないだろうし、ストライクを取りたいなら真ん中から外の真っ直ぐしかない)


 鯖江戸バッテリーは手詰まりになっている。それを察した菜々花の読み通り、三球目は外角にストレートが来た。ストライクを欲しがった豊本の腕の振りが緩くなっていたため、彼女本来の球威は損なわれている。菜々花は確実にバットの芯に当てることを優先してバットを振る。


「センター!」


 ピッチャー返しの打球が二遊間を割り、外野まで転がっていく。三塁ランナーの昴に続いて二塁ランナーの栄輝も躊躇無く本塁へと向かった。


「バックホーム! 刺せるぞ!」


 有村の叫び声がセンターの片山に届く。彼女は先ほどのワイルドピッチで二塁にランナーが進んだ際に守備位置を前に出しており、より早く打球に近付けた。栄輝の走力を考えると本塁でアウトにするのは難しくない。


「あっ……」


 ところが片山は打球を掴み損ねて後逸してしまう。栄輝はスピードを緩めて楽々ホームイン。加えて菜々花も二塁を陥れる。


「ご、ごめん……」


 急いで追い掛けて捕球した片山だったが、どうすることもできず中継へと返球するしかない。痛恨のエラーも絡んで亀ヶ崎に六点目が入る。


 これで五点差。鯖江戸の微かな希望も消えてしまったか。この惨状に有村は絶句し、降板後のベンチで声援を送っていた雪野も思わず項垂れる。


「ああ……」


 オレスにホームランを浴びた一球の前と後で何もかもが変わってしまった。再三の好守備や好判断で一点を守り抜いてきた鯖江戸ナインだが、今や普通のプレーさえ(まま)ならない。


《九番、弦月さん》


 そして遂に打者一巡。この回の初めに代打で出たきさらが二打席目を迎える。彼女も手を抜くことなくファーストストライクから打っていく。


「サード」


 二球目のカーブを引っ張った打球が三遊間を襲う。参藤が懸命に跳び付くも捕れず、レフトに抜けた。これでまたランナー一、三塁となる。


「はあ……、はあ……」


 マウンドの豊本は肩で息をし始めていた。まだ打者三人しか相手にしていないため投球数は少ない。だが立っているだけで体力を削られる暑さの中、一つもアウトを取れずに点を奪われ続けているとなれば、短時間で疲労困憊となっても何ら不思議ではない。


「ボールフォア」


 一番の京子は四球を選んで出塁。満塁となり、続く二番の嵐はワンボールワンストライクからストレートを叩いた。


「セカン!」


 球足の速いゴロが二塁ベースの右に転がっていく。セカンドの里山が正面に入って回りこんだものの、バウンドを合わせられず腹に当ててしまう。


「くっ……」


 里山は痛みを堪えて数歩前に弾いたボールを拾い、一塁へと投げる。だがしっかりと握れていなかったため本塁側へと送球は逸れ、ファーストがベースから離れて捕らざるを得ない。


 記録はセカンド強襲の内野安打。この間に全てランナーが進塁し、亀ヶ崎にまた一点が入る。


 尚も満塁で、今日猛打賞の紗愛蘭が打席に入った。次のオレスにも回るかと期待されたが、彼女は二球目を力無く打ち上げてショートフライに倒れる。


「アウト。チェンジ」


 長い長い長い亀ヶ崎の攻撃がようやく終了。オレスのホームランの後も四点を加え、合計で七得点を挙げた。



See you next base……

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