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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
113/149

109th BASE

 六回表、オレスの値千金のスリーランホームランで亀ヶ崎が三点を獲得。一発で試合をひっくり返した。


 鯖江戸は一瞬にして追う立場に変わる。これにはここまで沈着冷静だった有村もショックを隠せない。打たれた雪野に声を掛けることを忘れ、茫然自失としている。


(そんな……。ネイマートルはホームランを打てる力を隠し持ってたのか? いや、普通に考えてそんなことするわけがない。できるならとっくに打ってるはずだ。ということはまさか、この試合、この打席でできるようなったとでも言うのか……?)


 鯖江戸のデータが間違っていたわけではない。実際に一、二年前までのオレスではホームランは打てなかった。しかし亀ヶ崎に入って成長を遂げる内に、形さえ良ければホームランにできる力を身に付けていたのだ。


 今の今までオレス本人も気付いていなかったが、今日の試合で持ち味を潰されて為す術が無くなり、それを打開するための最後の手段として引っ張ってみたところホームランになった。皮肉にも鯖江戸がオレスを徹底的に調べ上げ、追い詰めたが故に、彼女の秘めたる力を引き出してしまったのである。


《五番センター、西江さん》


 亀ヶ崎の攻撃は終わっていない。二点をリードしたものの、次のイニングから投手が変わること、膠着状態から点が入って試合が動きやすくなったことなどを考えると、決して安心はできない。良い流れに乗って可能な限り追加点を取っておきたい。


 ゆりの初球、内角へのストレートが来る。だがそれほど窮屈なコースではなく、ゆりはスムーズにバットを振り抜くことができる。


(お、甘い。ラッキー)


 鋭く引っ張り込んだ打球はライナーとなって飛んでいく。レフト線沿いに弾んだ後も勢いは衰えず、あっという間にフェンスまで転がる。


 ゆりは悠然とした足取りで二塁に到達。ホームランでランナーのいなくなった亀ヶ崎だったが、すぐにチャンスが再来する。


 先ほどの一球、鯖江戸バッテリーは外角でストライクを取ろうとしていた。ところが雪野が引っ掛けたため逆球となってしまい、ゆりにとっては苦も無く打ち返せたのだ。


(……何やってるんだ私は。ショックで呆けている場合じゃないぞ)


 有村は我に返る。本当はマウンドに行って間を置きたいが、この回は既にタイムを取っているため無闇に回数は費やせない。仕方無くその場から声を掛ける。


「雪野、まだ私たちの攻撃は二回残ってる。絶対に逆転できるから踏ん張ろう!」

「う、うん。もう点は与えない」


 そう答える雪野だが、顔付きは若干やつれているように見える。この回まで必死に無失点に抑えながらも逆転を許し、一気に疲労感が押し寄せた。それでもこれ以上点差を広げられないよう、何としても後続を切りたい。


《六番セカンド、木艮尾さん》


 打席に昴が入る。有村は仕切り直してデータを思い起こし、配球を組み立てる。


(木艮尾は得点圏にランナーを置いた時は、逆方向を狙って合わせるバッティングが多い。初球はボールになっても良いから内を突いて、前の打席みたいに差し込みたい)


 一球目、有村は昴の膝元にストレートを要求する。雪野は指示通りのコースに投げ切ったものの、僅かに外れる。


「ナイスボール。焦らず丁寧に投げれば大丈夫だ」


 有村がそう言いながら返球する。雪野の球威は落ちているが、コントロールさえ良ければ何本もヒットは続かない。


 しかし二球目、そのコントロールが乱れた。サインは外角のスライダーだったが、雪野の投球は真ん中高めに行ってしまう。昴はこれを逃さない。大事に当てにいくのではなく、しっかりバットを振り抜いて打ち返す。痛烈な打球は瞬く間に一二塁間を破った。


「ストップストップ」


 速い打球であったため、ゆりは三塁を回ったところで止まる。得点こそできなかったものの、亀ヶ崎がチャンスを広げる。


 雪野は二者連続で失投を捉えられる。全体的に投球が真ん中付近に集まってきており、体力的にも精神的にも限界を迎えているのかもしれない。鯖江戸ベンチも同様の見方をしていた。


《鯖江戸高校、選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー、雪野さんに代わりまして、豊本(とよもと)さん》


 雪野はここで降板。有村はマウンドに向かい、彼女を労う。


「雪野、ここまでよく投げてくれた。勝たせてあげられなくて済まない」


 有村が申し訳無さそうに言葉を掛ける。あと一息のところでオレスに逆転ホームランを献上し、その後も立て直せなかったことに責任を感じている。


「有村のせいじゃないさ。寧ろ私がここまで投げられたのは有村のおかげだし、最後まで期待に応えられなくてごめん。逆転を信じてベンチで応援してるから、後は頼んだよ」

「……ああ、分かった」


 雪野からボールを受け取った有村は悔しそうに奥歯を噛み、ベンチへ引き揚げる彼女を見送る。それから代わってマウンドに上がった豊本にボールを渡した。


「豊、苦しい場面だけど、ここを抑えたらまたこっちに流れが来る。雪野みたいに細かなコントロールは気にしなくて良いから、思い切って腕を振って投げてくれ」

「分かりました。リードに関しては有村さんに任せます」


 二年生右腕の豊本は雪野とは投球スタイルが異なり、制球よりも球威で押すタイプの投手である。持ち味はオーバースローから繰り出される伸びのあるストレート。これには分かっていても詰まらされる打者が多い。


《バッターは、七番レフト、野際さん》


 豊本の投球練習が終わり、打席に栄輝が立つ。その初球、外角低めにストレートが決まった。栄輝は差し込まれた見送り方をする。


(良い真っ直ぐを投げるな。確実にエースよりもスピードは出てる。振り遅れないように気を付けないと)


 栄輝はバットを少し早めに出そうとする。だが二球目に来たのは縦に割れるカーブ。タイミングを外された栄輝はスイングできない。


「ストライクツー」


 ピンチでの登板は萎縮してしまう投手も多いが、豊本は順調に栄輝を追い込めたこともあって溌剌とした表情をしている。受ける有村も手応えを感じる。


(豊の調子は良さそうだ。野際は真っ直ぐに意識があるようだし、次はボールになるカーブで空振りを誘う。見極められてもその後に真っ直ぐを使えば詰まらせられる)


 カーブのサインを出した有村はミットで地面を叩く。豊本はその指示に従って三球目を投じる。


 カーブが真ん中高めから落ちていく。ところがバッテリーが思っているよりも変化が小さく、バットの届くゾーンに収まってしまう。栄輝は少し前のめりになりながらも、上手く掬うようにして打ち返した。


「セカン!」


 ゆったりとした小飛球がセカンドの頭を越える。そのままライトの前に弾み、三塁ランナーのゆりが右拳を上げながら四点目のホームを踏む。


「やったー! 追加点!」


 ホームランの後も亀ヶ崎は攻撃の手を緩めず、三連打で追加点を挙げる。リードを三点に広げた。



See you next base……

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