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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
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106th BASE

 六回表、亀ヶ崎は先頭のきさらが倒れ、打席に一番の京子が立つ。


(相手がどれだけデータを用いてこようと、自分自身の力で打ち破れる。それを祥は証明してくれた。私だってできるはずだ)


 鯖江戸の内野陣はファースト以外が左に寄る。加えてサードの参藤は内野安打を警戒して若干前へと出てきた。極端なシフトではないものの、京子の特徴的なヒットコースを塞ごうとする。


(さっきよりもちょっと一二塁間が広くなったかな。一塁線を締めたのはそこを抜かれたくないってことなんだろうし、イニングを考えればできるだけ長打の可能性を消したいと思うのは当然か)


 初球、カーブが真ん中から曲がり、外角低めに構えられた有村のミットへと収まる。京子は手を出さず、ストライクとなる。


(もう少し中に入れば引っ張って一二塁間に打てるんだけど、ピッチャーもそうはさせないように投げてきてる。コントロールミスを待ってたって駄目だ。ウチ自身の力で相手の上を行かないと)


 京子は引っ張りたくなる気持ちを抑え、普段からヒットを多く打っているセンターから逆方向へのバッティングを心掛けようとする。ところがそんな彼女の胸の内を見透かしたかのように、二球目はインコースに食い込むツーシームが来た。京子は跳ねるように両足を引いて見送る。


「ボール」


 鯖江戸バッテリーは巧みなコーナーワークで京子を惑わす。追い込まれる前に打って出たい京子にとっては次のストライクが重要となるが、的を絞ることができるか。


(このシフトを敷いていてインコースを続けることなんてある? ましてやカウントを考えれば次の球でストライクを取りたいはず。二球目がウチを踏み込みにくくする目的なら、腰が引けたところを外の真っ直ぐで差し込みたいんじゃないかな)


 京子は外角のストレートが来ると予測。左中間へのライナーを放ち、あわよくば長打にしたいと考える。しかし、それは有村に読まれていた。


(陽田はインコースを攻められた後でも、アウトコースを難無くヒットにしているデータが出ている。おそらく山を張って打ってる部分もあるだろう。確かにバッテリーからすれば二球連続でインコースは突きにくい、私たちもこの場面ではやり辛い。ただそれ以外でもやりようはある)


 有村は京子が狙っていると分かっていながら、外角を要求する。頷いた雪野は特に表情を変えずセットポジションに入り、三球目を投じる。


 投球はサイン通りのコースを真っ直ぐ進む。京子は打つというよりも球威を利用して跳ね返すイメージでバットを振り抜いた。


「セカン!」

「あれ?」


 打球はワンバウンドして雪野の脇を抜けていく。本来なら二遊間を割りそうなコースに転がったが、そこにはセカンドの里山が守っていた。彼女は二塁ベース付近で打球を掴むと、右足を軸に踏ん張って強い送球を投げる。俊足の京子だが、一塁ベースの二、三歩手前でアウトとなる。


(真っ直ぐじゃなかった……。途中まで真っ直ぐに見えたけど、手元でちょっと変化してたんだ)


 京子は首を傾げてベンチに引き揚げる。雪野が投じたのはフォーク。ストレートだと思って打ちにいった京子は変化に気付かず、バットの芯を外されてしまったのだ。有村としては計画通りの打ち取り方だった。


(陽田は打つと決めたら積極的にバットを振ってくる。故に今みたいに狙いと違う球でも、そのまま打ってしまう。それをさせるためには、雪野のフォークは最適だったな)


 勝負のイニングとなる亀ヶ崎だが、有村の配球と雪野の隙の無いピッチングの前に早くもツーアウトを取られてしまう。まずはランナーを一人出したいところで、打席には二番の嵐が入る。


(私の後には紗愛蘭やオレスに回る。一点差ならここからでも同点や逆転できるはず)


 初球、チェンジアップが低めのボールゾーンに沈んでいく。嵐はほとんどバットを動かさず見極める。


(山科はこういう場面での対応が難しい。一打でチャンスに繋げようと長打を狙ってくることもあれば、より確実に出塁するため軽打に徹することもある。初球の見逃し方を見ると長打は狙ってないように思えるが……)


 有村は嵐の動向を探る。対する嵐も有村の配球を読み解こうとする。


(一球目からチェンジアップを使ってきたか。これはデータどうこうより、私がどんなバッティングをしてくるか見定めたかったのかもな。それに対して私はほぼ反応しなかった。とすると軽打を意識してると思われたんじゃないか?)

(山科が長打を狙っていないなら、一球内角を突きたい。けれどもそれをするなら並行カウントにした後だ)

(有村は多分インコースを使いたがる。でもきっと次じゃない。カウントを整えるためにも、先に外でストライクを取ってくる)


 嵐は狙い球を、鯖江戸バッテリーはサインをそれぞれ決める。二球目、雪野から投じられたのは、外角のストレートだった。だが少々高めに抜けている。


(高いか? いや、せっかく読みが当たったんだ。バットの届く限りは打つ!)


 見逃せばボールになりそうだが、嵐は構わず打ちに出る。投球にバットを覆い被せるようにスイングし、右方向へと弾き返す。


 低い弾道の飛球がライト線沿いに上がる。ライトの師崎は予め定位置から右に寄って守っていたものの、ノーバウンドでは捕れそうにない。ただし打球にスライスが掛かっているため、ファールとなる可能性もある。


「入れ!」


 嵐が走りながら叫ぶ。打球が地面に弾み、奥まで追っていた一塁塁審が判定を下す。


「フェア」

「よし!」


 打球の落下点は白線を掠めていた。嵐は思わず声を上げて一塁を蹴る。師崎はクッションボールを待って処理し、中継へと返球する。その間に嵐は二塁へ到達。少しオーバーランしたところで止まる。


「おー! ナイスバッティング!」

「チャンス来たー!」


 沸き立つ亀ヶ崎ベンチ。きさらと京子が立て続けに凡退したことで意気消沈しかけていたが、一気に活気を取り戻す。


 一方、同点のピンチを背負った鯖江戸バッテリーは、一度有村がマウンドへと赴き、雪野に一声掛ける。


「雪野、どんまいだ。今日はかなり神経を使ってるからきついだろうけど、あと少し踏ん張ろう」

「ああ。ここまで来たんだ。守り切る」


 今日の雪野は意図した時以外は高めへ浮くことがなかった。しかし嵐に打たれた一球は紛れもない失投。一点差をずっと守り抜いてきたことを考えれば、そろそろ疲れが出てくる頃合いだ。その点は有村も憂慮している。


(次のバッターは踽々莉か……。長打は無いと言っても、二塁ランナーが還れる場所に打つことは造作も無いはず。しかも今日は二本ヒットを打たれてる。今の雪の状態で、これまで抑えられなかったバッターとまともに勝負させるのは果たして適切な判断なのか?)


 有村は葛藤を抱きながらマウンドを後にする。そして打席に、紗愛蘭を迎える。



See you next base……

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