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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
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10th BASE

 一回表、男子野球部がノーアウトランナー一、二塁のチャンスを掴む。迎えた三番の吉岡が、バントの構えからヒッティングに切り替えて三球目を捉えた。


 痛烈な打球が一塁側を襲う。外野へ抜ければピンチ拡大、下手をすれば二塁ランナーが帰ってくるかもしれない。


 しかしそんな窮地を一人の野手が救う。ファーストを守っていた山科(やましな)(らん)である。


「オーライ!」


 バントを警戒して前に出ていた嵐だが、至近距離から飛んできた打球も冷静に対処。逆シングルになりながらも左手に付けたファーストミットで確実に捕球してみせた。一度は勢い余って尻餅を()いたものの、素早く立ち上がって三塁に投じる。


「アウト」


 この送球をオレスが受け取りワンナウト。彼女は続けて一塁へと転送し、併殺を成立させる。


「ええ……。嘘だろ」


 打った後は懸命に全力疾走していた吉岡だったが、無情にもアウトとなり天を仰ぐ。決して彼のバッティングは悪くなかった。寧ろ真裕たちの意表を突く見事な攻撃だったと言える。それを嵐の守備が上回ったのだ。


「ナイス嵐ちゃん! よく捕ったね!」

「それほどでもないよ。これくらいできなきゃ、私が守ってる意味が無いからね」


 嬉々として称賛する真裕に対し、嵐は謙遜しながら微かに柔和な表情を浮かべるのみ。彼女にはこの程度なら(こな)せて当然という自信と自負がある。


「まだこの回は終わってないよ。次の打者を打ち取って、無失点で切り抜けよう」


 そう檄を飛ばし、嵐は自らのポジションへと戻っていく。真裕たちと同い年だが、他の同級生と比べて少し大人びた一面がある。故に彼女を姉のように慕うチームメイトも多い。


 元々、嵐はキャッチャーとして女子野球部に入部してきた。ところが持病の腰痛が悪化したことでコンバートを余儀なくされ、昨夏の大会も怪我でメンバー入りすらもできず。この二年間まともにプレーできた期間の方が少なく、野球選手として地獄のような苦労を重ねてきた。

 それでも現在のチームとなってからはファーストのレギュラーに定着。最も求められる捕球能力はキャッチャー時代に磨き上げられており、ショートバウンドなど内野陣の送球ミスはほぼ完璧にカバーしている。腰の状態も今のところは良好で、最終年で一花咲かせるべく順調に歩んでいる。


 嵐のファインプレーによって局面は一気にツーアウト二塁へと変わる。だがまだ気を抜いてはならない。男子野球部の打順は、四番の間宮(まみや)に回る。


「よろしくお願いします」


 間宮は落ち着いた声色で球審に短い挨拶をすると、左打席に入ってバットを構える。彼を一見して目を引くのは、一八〇センチを優に超える身長である。他の男子野球部一年生は比べ物にならず、上級生を含めても一番高いかもしれない。体付きに関してはまだ発展途上のため、その背丈が一層際立っている。


(おっきいなあ。あれで一年生なんだよね。どうやったらあんなに伸びるの?)


 真裕はあんぐりと口を開けて驚きを隠せない。周りよりも高い位置にあるマウンドになっているはずなのに、間宮を見る目線は上向きになっているように思えてしまう。


(真裕、大きいからって気後れする必要は無いよ。どんなに打ちそうに見えても、抑える方法はいくらでもあるはずなんだから)


 眼前で間宮の壮大なスケールを感じていた菜々花だが、その圧迫感に臆することはない。すぐさま彼女は打ち取るための配球を練っていく。


(背の高いバッターは高低差をどうやって利用するかが肝だ。まずは低めに対してどんなアプローチをするか見たい)


 一球目、バッテリーは内角低めに沈むツーシームを使う。間宮は風を起こすほどの豪快なフルスイングで打ちに出る。


「ファール」


 タイミングこそ合っていたものの、僅かに変化した分だけバットの芯を外れた。打球は一塁側ベンチの前を弱々しく転がる。


 ファールにはなったが、一年生にして他校の主砲に引けを取らないスイングスピードであった。これを見ただけでも一流スラッガーになる素質を秘めていることが分かる。しっかりと捉えることができれば、軽々スタンドインできそうだ。


(良いね良いね。こういう選手と対戦できるのは楽しいよ)


 真裕は金の卵を相手にする喜びを噛み締める。初回にして高揚感は頂点に達しそうだ。

 一方、菜々花は沈着として間宮の打者像を分析していた。難しいコースに関わらず初球から手を出してきたということは、低めは好きなのかもしれない。


(次はどれくらいボールを見極められるかだ。ストライクからボールになる球に引っかかるなら与しやすい)


 二球目、菜々花はアウトローのカーブを要求する。真裕の投球はやや真ん中に入ってきたものの、高さは間違えていない。打ちに出ようと力強く踏み込んだ間宮だったが、バットを振るまでには至らなかった。


「ボール」


 間宮はきっちりと打つべきボールを選別。これには菜々花を感心する。


(低めに関しては選球眼も良いってことか。なら緩急への対応力はどうかな?)


 三球目はインコースへのストレート。間宮は再びフルスイングしてきたが、若干タイミングが遅れて空振りを喫する。


「おっとっと……」


 バットを振った反動で、間宮の体勢が少々崩れる。ずれたヘルメットから露わになった顔立ちはあどけなさを残しつつも綺麗に整っており、坊主頭ながら「爽やかイケメン」という表現が似合う。おそらく異性からも同性からも人気を呼ぶだろう。


 ともあれカウントはワンボールツーストライク。バッテリーが追い込んだ形となる。


(カーブの後ってのもあるけど、内角の真っ直ぐに詰まらされてたな。その辺りはウイークポイントになってくるかもね。胸元を攻めたらもっと押し込めそうな気がするけど、今は得点圏にランナーがいるわけだし無難な手を打とう。スライダーで行くよ)

(お、もうスライダーを投げちゃいますか。まあ今日は何打席も対戦するわけじゃいもんね。個人的にも間宮君がどんな反応するか見てみたい)


 真裕は菜々花のサインをあっさりと承諾。セットポジションに就くと、尚も加速する心音を抑えつつ間宮への四球目を投じる。


 投球は真ん中から少し打者の膝元に寄ったコースを進む。間宮はスライダー回転だと気付いたものの、中々曲がり出さないため打ちにいくしかない。変化の着地点を予測し、どうにかバットに当てようと先ほどまでよりもコンパクトにスイングする。

 しかしその予測を超えていくのが真裕のスライダー。間宮のバットに当たってたまるかと言わんばかりに、スイング軌道の更に内側へと鋭く曲がる。


「バッターアウト」


 空振り三振。この勝負は真裕に軍配が上がった。



See you next base……


PLAYERFILE.7:山科嵐(やましな・らん)

学年:高校三年生

誕生日:11/22

投/打:右/右

守備位置:一塁手

身長/体重:159/57

好きな食べ物:ナシゴレン


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