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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
109/149

105th BASE

 試合は六回表へ。チャンスの打席で凡退した有村だが、すぐさま切り替えて守備に集中する。


(狙い球でなかった以上は打つべきじゃなかったか? いや、見逃せばストライクだっただろうし、フルカウントになれば私だって追い込まれる。結果的に良い当たりを飛ばせたわけだから、やったこと自体は悪くない。ハードラックだったと考えよう)


 残すは二イニング。戦況がより苛烈になっていく中、一つのプレーを長々と振り返ってはいられない。目の前のワンナウト、目の前の一球に神経を注がなければ、一瞬にして敗北の沼に引きずり込まれてしまう。


《六回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、九番、笠ヶ原さんに代わりまして、バッター弦月さん》


 亀ヶ崎は九番から攻撃が始まり、上位打線へと返っていく。ランナーを出して大きな山場を作れれば、クリーンナップで勝負を掛けることができる。その道を拓くべく最初に打席に立つのは代打のきさら。今大会で目覚しい活躍を見せている一人であり、この場面でも期待が掛かる。


(好投の祥さんを降ろしてまで与えられた打席なんだ。絶対に塁に出る!)


 気合十分のきさらは打席で深呼吸をしてからバットを構える。もちろん彼女の好調ぶりは鯖江戸も把握しており、有村はその情報と元々持っているデータを絡めて配球を練る。


(楽師館戦でのタイムリーは真っ直ぐを捉えていた。映像を見た限りではインコースを攻めようとしたのがやや中に入った感じだったな。三回戦で放ったタイムリーも真ん中付近に入ってきた変化球を打っていたし、甘い球をミスショットせず仕留めているのが好調の要因か。まずは変化球で反応を見よう)


 初球は外角のスライダー。低めに外れてボールとなる。きさらはバットを振る準備はしていたものの、ほとんど動かすことはなかった。代打で出てきたからには積極的に打ちにいきたいだろうが、しっかりと我慢する。


(ボールの見極めはできているようだな。一番は雪野が投げミスしないことだけど、全ての投球をストライクゾーン一杯に投げるなんて無理に等しい。弦月は緩急に弱い一面があるし、そこを突いてフォームを崩したい。そうすれば多少コースが甘くても打ち取れる)


 二球目、有村はアウトローへのストレートを要求する。雪野は求められたコースにきっちりと投げ切った。バットを出していくきさらだったが、空振りを喫する。


(うん。今のは良いボールだった。ここまでも丁寧に投げてきてる雪野だけど、この回は一段と意識が強くなってる。ターニングポイントだと分かっている証拠だ)


 有村はミットを二度三度叩いて雪野を称える。勝負所のイニングに入り集中力が増し、投球の精度も上がっている。


(これならインコースに突っ込んでも良さそうだな。この球で弦月の体を動かせれば、次の緩い球が打ち辛くなる。追い込むのはその時で良い)


 三球目、有村は内角低めにミットを構えた。雪野の投じたストレートは、それより更にきさらの方に食い込んだコースに行く。


「おっと……」


 きさらが背中を向けて避ける。ボールにはなったものの、鯖江戸バッテリーとしては狙い通りか。


(厳しいとこ攻めてくるなあ。きっとこれはコントロールミスじゃない。私の腰を引かせる目的で態と投げたんだ。とすれば次はカーブとかチェンジアップでタイミングを外してくるんじゃないかな。バッテイングカウントだし、緩い球一本に的を絞ろう)


 有村たちの狙いを、きさらは完全に読み切る。四球目、雪野は当初の目論見に従い、真ん中低めへと沈むカーブでストライクを取りにきた。


(来た!)


 きさらは躊躇い無くバットを振り抜いて打ち返す。放たれた速いゴロが、サードの右を抜けようとする。


「サード!」

「オーライ!」


 サードの参藤は半身の体勢で腰を落とし、左足を大きく横に踏み出して打球を掴みにいく。捕る直前でバウンドが少し変わったものの、瞬時にグラブを動かして対応。捕球した彼女はステップを踏んでから一塁に投じる。


「アウト」


 きさらの全力疾走も及ばず。サードゴロに倒れた彼女は一塁を駆け抜けた先で眉間に皺を寄せ、悔しそうに呻き声を上げる。


「くう……」


 狙い球に対してフルスイングするまでは良かったが、ミートポイントが微妙に上側へと外れてしまった。そのため打球が上がらずにゴロとなり、参藤の守備範囲に収まったのである。


「おっし! 参ちゃんナイスプレー」


 マウンドの雪野が参藤に向かって親指を立てて見せる。有村はその姿を目で追いながら、マスクの奥でふと息を漏らす。


(弦月は私の配球を読んでたのか。そしてそれを狙って迷わずスイングできるんだから、本当に調子が良いんだろうな。ただ雪野もきっちり低めに落としたし、あれをフライやライナーにするのは難しい。あとは参藤が上手に捌いてくれた)


 打者に狙われていたからと言って、確実にヒットを打たれるわけではない。相手の苦手や厳しいコースへと投げ切れば、アウトにできる可能性は十分にあるのだ。雪野の制球力が好調なきさらを封じる。


《一番ショート、陽田さん》


 打順は三巡目に入る。今日は一、二番が塁に出られておらず、ここまで無得点の一因となっている。当人たちにも自覚はあり、このまま大人しくしているわけにはいかない。



See you next base……

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