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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第七章 私に限界は無い!
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102nd BASE

お読みいただきありがとうございます。

そして明けましておめでとうございます!


2023年最初の『ベース⚾ガール!』は、年明けと同時に更新です!

物語は終盤に差し掛かり、これから更なる盛り上がりを見せていきますので、どうぞご期待ください!

今年も『ベース⚾ガール!』シリーズ、並びにドラらんをよろしくお願いいたします。

 四回裏。ノーアウトランナー一塁から四番の片山が放ったライナーは、左中間を襲う。


(こりゃまた物凄い打球が飛んできたね。でもさっちが頑張ってるんだ。絶対に捕る!)


 ゆりは打球の落下点を予測し、その少し手前に向かって走る。レフトの栄輝も追い掛けてくるが、高く手を挙げてそれを制する。


「はっ!」


 最後は軽くジャンプしてグラブに打球を収めた。着時の反動ですぐには止まることができなかったものの、掴んだボールは離さない。


「おー! ナイスキャッチ!」


 祥は頭の上でグラブを叩いて拍手する。ゆりは笑顔で人差し指を掲げて応えた。


「いえーい! ワンナウト!」


 バットの芯で捉えた打球ではあったが、思いの外伸びず。最初は全力疾走で追っていたゆりも、捕球する直前は打球との距離感を図るため少し速度を緩められていた。祥のストレートが片山のスイングを押し込んだのだ。


(危ない危ない……。結果的に四番を抑えられたのは嬉しいけど、やっぱりクリーンナップ相手にカウントを悪くするのは怖い。ここから整え直すぞ)


 祥は安堵感を覚えつつも、片山への投球内容を反省して再び気を引き締める。ただこのアウトは非常に大きな意味があった。四番打者が力勝負に負けた姿を見せられた鯖江戸は、チーム内にどんよりとした空気が漂う。それを敏感に感じ取っていたのが有村だ。


(先頭が出て、直後の片山にはボールが先行。私たちにとって良い流れになりかけていた。そのチャンスを逃したのは痛いぞ……)


 打席には五番の師崎が入る。その初球、祥は彼女の膝元へと曲がるスライダーを投じる。


「ストライク」


 二球目は外角のストレート。片山を抑えた感覚のままに祥はしっかりと腕が振れており、その分だけ球威も向上している。打って出る師崎だが、差し込まれて本来のバッティングができない。


「セカン!」


 一二塁間に転がったゴロを昴が正面に入って掴む。彼女は体を反転させて二塁に送球し、まずは一塁ランナーの参藤をアウトにする。その流れのまま京子が一塁へと投げる。


「アウト。チェンジ」


 二遊間の二人が軽やかに併殺を完成させ、一気に二つのアウトを取る。鯖江戸は三番から始まる好打順だったが、祥が結局三人で抑え切った。


「オッケーオッケー。ナイスピッチだよ」


 ベンチの選手たちが引き揚げてきたチームメイトを出迎える。普段なら投手に対する声掛けが多いが、今回はゆりにも賛辞の言葉が掛けられる。


「ゆりもナイスプレー! よく捕れたね」

「いやいや、それほどでもあるかな。何たって西江のゆりちゃんですから!」


 ゆりは得意気にピースサインを作る。本気なのか冗談なのかは分からないが、彼女の回答にチームは和む。その後ゆりはベンチの奥に入って守備用の手袋を外すと、スポーツ飲料の入ったペットボトルを手に取る。それを口に運ぼうとする彼女の元に、オレスが近寄ってきた。


「……ゆり、さっきはありがとう。助けられたわ」


 オレスはゆりと目を合わさず、申し訳無さそうに礼を述べる。普段の雄々しさは影を潜め、声にも覇気が無い。


「へ? 何のこと?」


 ゆりは真面目に何を言っているのか分からなかった。オレスは奥歯を噛んで喉元から湧き上がる屈辱を押し潰し、話を続ける。


「内野安打になった三番の打球、私がちゃんと動き出せていればアウトにできていた。だからあれは私のミスよ。四番の打球が抜けていたからどうなってたことか……」

「あー、そういうことか。……いや、だとしても私に礼なんか言わないでしょ。ちゃんオレらしくもない」

「……そうね」


 オレスは伏し目がちに力無く呟く。“ちゃんオレ”と呼んだことに彼女が全く噛み付いてこないため、ゆりは背中がむず痒くなる。


「ちょっとちょっと、ちゃんオレには辛気臭い顔は似合わないって! こういう時こそ笑わないと。ほら、スマイルスマイル!」


 ゆりは思い切り口角を持ち上げて笑顔を見せる。そこでようやくオレスがゆりの目を見たが、彼女と同じように笑うことはない。小さな溜息を漏らすだけだった。


 ここで試合は中断し、グラウンド整備が挟まる。このインターバルの間に鯖江戸ベンチでは円陣が組まれ、主将の有村が他の選手たちを鼓舞する。


「苦しい流れが続くけど、試合は私たちがリードしてる。このまま終盤に行けば亀ヶ崎は確実に焦ってくるはずだ。だからこっちが慌てることはない。一人一人ができることを丁寧に熟していこう」

「おう!」


 有村に勇気付けられ、チームの沈みかけた空気も少し和らぐ。選手たちの気持ちも心()しか軽くなり、五回表の守備に向かう際の顔付きも随分と精悍(せいかん)になった。


(崩れそうで崩れない。この粘り強さと根気強さが他のチームとは一味違うところだ。流石は亀ヶ崎と言ったところか。こういう展開になるのは分かっていたけど、いざやってみると思った以上に苦しいな)


 試合に出ている仲間たちが出払ったのは確認した有村は、一度深く息を吐いてからマスクを被ってベンチを出る。三回戦までの相手には自慢のデータ野球で序盤から点差を広げ、試合を有利に進めることができていた。だが今日はそうならない。有村は今、亀ヶ崎のような強豪と戦い、そして勝とうとする難しさを痛感している。


 しかし有村自身も言っていたように、現状では鯖江戸がリードしている。虎の子の一点を最初から守り抜こうとするのは危険だが、イニングが重なるとたったの一点が二点、三点の重みを持ってくる。それを活かして亀ヶ崎にプレッシャーを与え続けられれば、一対〇で勝ち切ることも十分に可能だろう。


《五回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、六番セカンド、木艮尾さん》


 前の回が紗愛蘭の盗塁死で終わったため、五回表は昴が改めて打席に立つ。鯖江戸バッテリーは外角のスライダーで初球にストライクを取ると、二球目は内角のツーシームで詰まらせる。


「ピッチャー!」


 バットの根元で打たされた打球は、雪野の前を転々とする。これを捕球した彼女は慌てることなく送球に移り、一塁をアウトにする。


「ナイスピッチ!」


 有村は雪野の方を向いて頷く。どんなバッテリーにも例外無く言えることだが、先頭打者を打ち取ることでそのイニングを落ち着いて守ることができる。


「ライト!」


 七番の栄輝も凡退し、打順は八番の菜々花に回る。最低でも次の攻撃が一番から始まるよう出塁したかったが、彼女は五球目のチェンジアップに泳がされてライトへの浅いフライを打ち上げる。


「オーライ」


 前進してきた師崎が難無く捕球してスリーアウト。亀ヶ崎は反撃に転じられそうな流れをものにすることができなかった。一方の鯖江戸は見事に嫌な雰囲気を断つ。



See you next base……

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