表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第二章 日本一を目指すということ
10/149

9th BASE

 攻守が入れ替わり、ベンチから真裕が駆け出す。マウンドへ上がった彼女はロジンバックに触れて気持ちを整える。


(……さてと、行きますか)


 踏み慣れたマウンドではあるが、試合で使うのは久しぶり。そのため真裕は入念に感覚を確かめながら投球練習を行う。足立よりも少し時間を掛けて規定の八球を投げ込んだ。


(新入生も見てるって思うと緊張するね。でも調子は悪くない。今日は四イニングって決まってるし、初回から飛ばしていくよ!)


 一回裏、男子野球部は一番の廣田(ひろた)が右打席に入る。菜々花のサインに頷いた真裕は、ワインドアップポジションから一球目を投じた。


 内角へのストレート。これを廣田が果敢に打ち返す。


「ピッチャー!」


 打球はライナーとなって真裕の左を破り、センターへと抜けていった。廣田は一塁をオーバーランして止まる。


「まじか……」


 真裕は驚いたように下唇を噛む。まさか初球をヒットにされるとは。ピッチャーが登板直後にランナーを背負うというのは、たとえ一塁だとしても大ピンチに等しい。その日の自分の調子やそれにマッチする配球、投げるテンポなどを探す余裕が無くなるからだ。加えてどうしてこんなあっさり打たれるのかなど普段なら考えない余計なことも頭に浮かび、そこからリズムを崩されてしまう。


 とはいえ真裕も場数は踏んでいるので、こうした展開でもそれなりの対処はできる。外野からの返球を受け取ると再度ロジンバッグを触り、僅かながらも時間を置いてから次打者と対峙する。


(一番の子は初球のストレートを狙い打ちって感じだった。試合の第一球を変化球から入ることなんてほとんどしないから山を張りやすいけど、それをちゃんと捉えてくるのは立派だよ。私としてはランナーを出しても点を与えなきゃ良いんだ。切り替えよう)


 男子野球部の二番打者は左の鴨志田(かもしだ)。送りバントでランナーを確実に進めてくることも考えられるが、打席でバットを構えた時点ではその素振りは無い。キャッチャーの菜々花は彼の一挙手一投足を観察し、相手がどんな策を講じてくるか予想を立てる。


(真裕が相手だし、早めに点を取りたいと思うなら送りバントだけど、一番がヒットを打った勢いに乗るならエンドランとかも有り得る。こっちのカウントを不利にしちゃうと向こうも動きやすくなるから、まずはストライクを先行させよう)


 初球はアウトコースへのストレート。鴨志田は打つ姿勢のまま見逃す。


「ストライク」


 バントなどの指示は出ていなかったようだ。ランナーの廣田にも特に変わった様子は無い。


(あんまり打つ気配が感じ取れなかったし、様子見だったのかも。なら次はカーブで早めに追い込んじゃおう。そしたら攻撃の幅は大きく減るし、真裕なら三振も狙える)


 二球目。菜々花は真ん中からインローに曲がっていくカーブを要求する。真裕はそれに従って投げ込んだ。打者にとってはスイングが窮屈となる厳しいコースだ。

 ところが鴨志田はそれを諸共(もろとも)せず、難無くバットの芯に当てて弾き返した。打球を一二塁間の上空を越え、ライトの紗愛蘭の前に落ちる。


 二者連続安打でノーアウトランナー一、二塁。これには堪らず菜々花がマウンドへと駆け寄る。


「いやいや、こんなに初っ端から連打されるとはね。受けてる感じだと真裕の球は悪くないし、ちょっとびっくりだよ」

「うん。私も自分の状態が良くないとは思えない。それだけ相手のレベルが高いんだね。けどそっちの方が戦ってて面白いし、良いんじゃないかな」

「そうだね。何より私たちのためになる。ひとまずはここを切り抜けることを考えなくちゃね。次のバッターも二番までみたいに普通に打ってくることもあるし、バントだってしてくるかもしれない。色んな可能性を頭に入れて対応していこう」

「分かった。いきなり点を取られるのは嫌だし、絶対に抑えるよ」


 真裕と菜々花は互いに微笑を浮かべて頷き合う。どんなに苦しくても前向き思考で戦うことが彼ら、そしてチームの信条。小さくても希望を持ってプレーしていけば、必ず良い方向に向かっていけるはずだ。


 菜々花がマウンドから離れ、試合再開。右打席に三番の吉岡(よしおか)が入る。彼は最初からバントの構えを見せており、菜々花は素直に受け取って良いものかと思索する。


(如何に三番とはいえ、ワンナウトでランナーを三塁に進めたいと思うはず。だったらバントは不思議な作戦じゃない。一球探りを入れるか)


 初球、バッテリーは低めのボールになるカーブで相手の出方を伺う。吉岡はバントの体勢は変えず、バットを引いたのみで見送った。ワンバウンドした投球を菜々花が前方へと弾くも、ランナーは自分たちの塁へとそれぞれ戻る。


(反応を見る限りはバントをやりにきてたな。ならそっちの線を第一に考えて守ろう)


 次の投球へ移る前に、菜々花は内野陣にサインを伝達する。ファーストを前進させるバントシフトを敷くこととなった。


 二球目はアウトコースへのツーシーム。真裕は投球を終えると、三本間へと走る。ランナー二塁でのバントは三塁側に転がすことが定石なので、そちらのフォローをするためだ。

 一方の吉岡は引き続きバントを試みる。今度は投球がストライクのためバットに当てた。


「ファール」


 しかし狙った場所には転がせず、ボールが菜々花の後ろを転々とする。ファールでカウントはワンボールワンストライクへと変わる。


 吉岡は女子野球部の守備隊形に構わずバントをしてきた。となれば次の継続してくる可能性が高いだろう。バッテリーも同じように考える。


(セオリー通り三塁線付近を狙ってるやり方だったな。それならアウトローの真っ直ぐで攻めて、もう一回ファールにさせよう。真裕の球威なら押されてフライを上げさせられるかもしれない)

(了解。まあ私のところに転がってきたら、三塁で刺すけどね)


 真裕は二塁ランナーに目を配ってから三球目を投じる。その後マウンドを降り、再び三塁側へと移動した。


 刹那、吉岡は寝かせていたバットを立てる。バントからヒッティングへと切り替えたのだ。


「えっ?」


 バッテリーは揃って虚を()かれた。吉岡は外角低めのコースに逆らわず流し打ち、快音を響かせる。痛烈な打球が一塁側を襲った。



See you next base……


PLAYERFILE.6:北本菜々(きたもと・ななか)


学年:高校三年生

誕生日:6/7

投/打:右/右

守備位置:捕手

身長/体重:156/53

好きな食べ物:味噌串カツ、味噌田楽


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ