即死魔法で女の子を救ったけど質問ある?
奴隷市会場は思っていたよりもあっさりと潜入することができた。
場所自体は、ギルドの方が見つけてくれていたからだ。
場所を聞いたとき、じゃあ僕じゃなくてもよくない?と思ったが、ギルドや国の騎士団は顔がばれているらしい。
言わずもがな実力も必要になるだろうが、相手がこちらを知らない。という情報戦でのアドバンテージが大切だったのだろう。
そして今、会場の外にいるわけだが。…今日売られる奴隷が檻に入れられている。
一番近く、見られやすい場所に入れられているのは、エルフの少女だった。
服だけは小綺麗になっているが、髪はガサガサで表情は暗い。怯えているのが伝わってくる。
綺麗ごとかもしれないが、≪死≫を使っているから…
いや、≪死≫を使っているからではない。
≪死≫でいろいろな生物を殺してきたからこそわかる。
命は平等だ。
重いなんて僕が言えたことではないけど、軽くもてあそんで良いものではない。
僕は、この少女にこう声をかけるしかなかった。
「大丈夫。絶対助けるから、待っていてほしい。」
「…」
この言葉が、この少女にどう届いたのか今の僕にはわからない。
ただ、この少女のような人たちをこれ以上増やしてはいけない。
そう思った。
「皆様ごきげんよう!今宵も奴隷市開催になります!」
サーカスで使うテントのような会場内で、奴隷市はオーナーの一言で開始された。
会場は拍手の嵐が起きている。
「まずは本日の目玉から!小さく可愛らしいエルフでございます!ガルラハンド森林にすんでいた所をほぼ無傷で捕まえました!これまでに類を見ない上物ですよ!」
命を商品としか見ていないもの言いは、気分を悪くさせる。
先ほどの少女は手錠で拘束され、うつむいた顔を上げない。
今ここで、≪死≫を使って少女を助けることは簡単だ。
しかし、それでは奴隷市は続く。
奴隷売買を止めるならば、今出てはいけない。
今では、恐怖が足りない。
「ではまず、200万から!」
300万!400万だ!
450万! 500万でどうだ!
「500万!お客さんに決ま「1000万だ」
「…え?」
「1000万」
会場がざわつく。
「…わかった!1000万のお兄さん!あんたに決まりだ!ちょっとこっちに登ってきてくれ!」
いわれるがままに、台の上に登る。まだだ。あと少し。
登るときに少女と目が合った。
エルフの少女は光のない眼でこちらを見ていた。
結局お前も…そんなことを思っていそうな目だ。
「超絶お金持ちのお兄さん!いったい何者!?」
「いやいや。大したものでは。」
「それだけお金持ってて大したことないわけないでしょ!」
ここだ。今しかない。
わざわざ右手をオーナーに向け、ニヤリと笑う。
「お兄さん、この手は?」
「ただの、転生者だ」
「へ?」
「≪死≫!」
あれだけ喋っていたオーナーは、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
数秒の静寂の後に、会場は混乱状態になった。
もう少したてば、この騒ぎを聞きつけたザ・バーンの騎士が集まって来るだろう。
僕は、オーナーの死体を漁りながら少女に聞く。
「怖がらせちゃってたら申し訳ないんだけど。大丈夫だった?」
「…はい。…その、ありがとうございます。」
よかった。話してくれた。≪死≫を使ったから怖がって無視されるかと思った。
「ちょっと待っててね。多分持ってると思うんだけど…お、あった。」
探し当てたモノを持って、少女へ振り向く。
「…何をしてたんですか?」
「鍵だよ。手錠の鍵。」
「!」
がちゃっと少女の手錠を解く。
「じゃあここで待ってれば、騎士団の人たちが来て保護してくれると思うから。」
「…あの」
「?」
「…その。…本当にありがとうございました。」
少女は、笑ってそう言った。
なんだか、それだけでよかったと思えた。
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