即死魔法≪死≫を使わずに勝ったとかアイデンティティの損失だけど質問ある?
「うがああああ!」
部屋に響くこの悲鳴は、僕のものではない。
もちろんウィリスのでもない。
…さて。
「もういいよウィリス。ありがとう。」
「う、うん。」
ウィリスに使ってもらった魔法は、洞窟に入る時に使ったアレ。
≪発光≫である。
それを、最大出力で使ってもらったのだ。
乗っ取りでも寄生でもなく、他に本体がいる場合。
それが魔法で死体を操っていた場合。
遠隔操作で出来ることは大雑把な事だけだ。
どこかに向かう。何かを壊す。
単純な命令しかこなせない。知性の低い行動しかできない。
しかし、近距離で操るとなると全く変わってくる。
腕の動き。力加減。思った通りに動かすなんて朝飯前。
「それが死体使いなら基礎中の基礎だ。なあ?自称商人さん?」
「…」
反応はない。
商人も、オーガも。
「部屋に突っ込んできたのは道が暗くて見えなかったから。僕を狙ってきたのは、ウィリスの攻撃が死体に効かないのを知っていたから。出口を塞いだのは…まあそのまま逃がさないためだな。そんでもって、今は≪発光≫で目がやられて死体を動かせない…そんなもんだろ。」
「…でもヤギリ。死体を操る理由がない。」
「心配しなくても理由ならある。こいつは、奴隷市に商品を流す役割だったのさ。」
お?じゃあザ・バーンに向かう商人ってのは間違ってなかったのか。
「オーガのゾンビで村を襲って、村のエルフ達が慌てたり対策に追われてたりしている間にどさくさに紛れて攫って行く。…まあゴブリンはゾンビオーガを本物だと思い込んでいたが、洞窟で気づいたんだろうな。」
商人殿が僕らを殺そうとしたことで。
「…」
「まあウィリスを攫ったのがこいつかはわからないが…まあ仲間だろうな。で、今回はウィリスのお母さんを標的にしたと。」
ここで、言葉を返したのは商人だった。
「流石だな…だが、なんでそこまで気づいた。」
「言ってただろうが、さっさと逃げればいいのにってな。最初から怪しかったんだよ。」
まあ、どうやって死体を操ってるのかを考えつかなかったら一生わかんなかっただろうけどね。
…ウィリスがいてくれてよかったぁ。
「っは、そうかよ。じゃあやっぱり死んでもらわねえとなあ!」
どうやら目が見えるようになるまで時間稼ぎをしていたらしい。
しかし、
「ウィリス。」
ズダン。
弓矢が、商人の頭をまっすぐ貫く。
同時にオーガの死体も後ろに倒れた。
横目で見ると、ウィリスはすでに弓を構えていない。
「…ヤギリ。早く行こう。」
「ああ。そうしよう。」
未だ気絶しているウィリスのお母さんをおんぶして、僕らは村に戻った。
途中で目が覚めることがありませんように。
僕は、何故かそう願っていた。
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