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いつも下ばっか向いて歩いてた
「オレはよう・・・・・
戦災孤児だったんだよ
あの戦争で両親も兄妹も親戚も
それこそ皆おっ死んじまってよう
だから 戦後の方が大変だったんだぜ
戦時中よりもよっぽど・・・。」
「ヤクザの下っ端に・・・・・
尻を蹴られながらこき使われて
煙草の吸殻や釘なんかの金物を拾って
そうやって生き延びてたんだよ
だからよう・・・。」
「あの当時は・・・・・
いつも下ばっか向いて歩いてた
だってよ 上を向いて歩いてたってよ
一文にもなりゃしねえからな・・・。」
指が焦げるほど短くなった
そんな煙草を吸いながら
その人はそう言った。