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遺骨も無いのだから死んだとは限らない
その方の・・・・・
広い庭のある広い家に独りで住んでおられた
その方のお話しを伺ったときにはあの戦争が終結してから
既に三十年以上もの歳月が経っていた・・・。
「私には子供が四人おりまして・・・・・
一番上が女の子でその下は全員男の子なんですが
職業軍人だった夫のことを深く尊敬していた男の子たちは
三人とも何も迷うこともなく陸軍士官学校に入校し
その後職業軍人に成りました・・・。」
「私のことを考えて・・・・・
長女夫婦はここは広過ぎるからいい加減もう手放して
一緒に暮らそうと常々そう言ってくれているのですけれど
ですが 夫と三人の息子たちがいずれ戻って来たその時に
もし この家がもし無かったりしたら可哀想ですから
だって 幾ら戦死したとそんなことを言われても
まだ誰の遺骨も戻って来ていないのですから
本当に死んだとは限りませんよね・・・。」
そう言ってその方は笑った。