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自分のルーツを辿るその術も無い
「私は戦災孤児だったんです・・・・・
本土空襲で孤児になってしまったんですけれど
けっこう大きな家に住んでいたこととか
そこに父と母と姉と兄がいたこととか
薄っすらと覚えているんですけれど
なにせ当時の私はまだ幼くて
それがどこかも未だに全く
思いだせません・・・。」
「だから私の名前は・・・・・
私の身元がわかるような物は何も無かったそうで
育った孤児院の施設長がつけてくれました・・・
他の家族はどうなってしまったのかと
今でもよく考えます・・・。」
「この間お墓を買いました・・・・・
もちろん家族のお骨はありませんけれど
それでも墓誌には私が考えた父と母と姉と兄の
それぞれの名前と戒名を彫ってもらいました・・・。」
そう言うとその人は じっと中空を見つめた。