42/218
当時の便所の落とし紙は
「アメリカさんのB29が・・・・・
空から大量にばらまく爆撃を予告するビラは
『拾ったら読んじゃいけない届けろ』って言われてて
憲兵に全部渡すことになってたんだけど・・・。」
「その空襲予告のビラは・・・・・
当時あたしらが手に入れることが出来るどの紙よりも上等で
裏なんてなんにも書いてないから帳面にしたいくらいの代物で
でもそんなのを持ってるところを誰かに見られたりしたら
それこそ非国民だと言われスパイと疑われかねないから
だからそれをそのまま使うことなんか出来ないから
だからどこの家でも一枚二枚だけ憲兵に渡してさ
残りは手でよく揉んで便所の落とし紙として
ないしょで使ってたんだよ・・・。」
「そうやって・・・・・
あの戦争をしたたかに生き延びたんだよ
だからあたしらの世代はおにいちゃんたちよりもさ
それこそよっぽど生きる力が強いんだよ・・・。」
そう言ってそのおばちゃんは声高に笑った。