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海を眺めながら冥福を祈る
濃いピンク色の花をつけた枝垂れ桜の下には・・・・・
黄色い菜の花と淡い紫色の花大根が五月の風に揺れていて
その向こうには群れた魚の背びれが陽の光を受けて輝くような
銀色の海とどこまでも青い空が広がっている
そんな高台でその人のお話しを伺った・・・。
「まだ幼かったわたしのことを・・・・・
歳の離れたお兄ちゃんとそのお兄ちゃんのお友達が
代わる代わるに手をひいたりおんぶをしたりだっこをしたりして
そうやってあの坂道を登ってここまで連れてきてくれたんです・・・
そんなわたしが大好きなお兄ちゃんとお兄ちゃんのお友達は
みんな みんなすごく優秀だったから だったから
みんな揃って海軍兵学校に合格して
そしてみんな・・・。」
「毎年・・・・・
この時季ここに来ることにしています
そしてお兄ちゃんとお兄ちゃんのお友達の冥福を祈っています
だって お墓に行ったって誰のお骨もありませんから・・・。」
そう話すその人の眼元が潤んでいた。