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赤ん坊をとりあげる度毎に
その方は・・・・・
そのとき既に絵に描いたような老婆だったけれど
話すことは誰よりもしっかりしておられた・・・。
「私は産婆でした・・・・・
この手で今まで何百人もの赤ん坊をとりあげてきたんです
そして戦時中も何十人もの赤ん坊をこの この手で・・・
でも 戦時下にとりあげた赤ん坊たちの殆どが
男の子たちの大半は戦地に赴いて
女の子たちも大勢が空襲で
亡くなりました・・・。」
「戦時中・・・・・
赤ん坊をとりあげる度毎に私は
人は死ぬ為だけに産まれてくるわけではないのに
なのにあと何万人何十万人何百万人の尊い命を
戦地に送り込めばこの戦争は終わるのだろう・・・
そんなことを赤ん坊をとりあげる度毎に
産婆をしながら私は思っていました・・・。」
老婆は僕にそう語った。