33/218
生きなさいと励まされて
「あれは・・・・・
ちょど今頃のこと・・・
三月の十日の東京大空襲で
住むところも失って頼る人もいなくて
これからどうやって生きていったらいいのか
なんにもわからなくって考えられなくって
いっそのこと死んだ方がよかったなんて
そんなことを毎日心底思いながら
ここに身を寄せていたら・・・。」
「空襲で焼け焦げて・・・・・
幹も折れてもう枯れたと思っていた
そんな桜の木の真っ黒い枝の先に花が咲いて
そのたった一輪だけのその桜の花に私は
『生きなさい』と励まされて・・・。」
そう言ってその人は・・・・・
折れた幹から芽吹いて伸びた枝が
今は新たな幹となって沢山の花をつけている
境内の桜の古木を笑顔で愛でていた・・・。