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もしこの銀時計が喋れたら
その方は・・・・・
真っ白いハンカチに大事に包んで持ってきた
本体を保護する上蓋が付いたハンターケース型の懐中時計を
「これが これが息子の唯一の形見の品です・・・。」
そう言って僕に見せた。
「これは・・・・・
帝国大学の成績優秀者に対して
天皇陛下からの褒章として卒業式で授与された銀時計なんです・・・
自慢話しに成りますが この銀時計を授与されたのは
東京帝国大学でも三百数十人程しかおりません
故に 周囲からも至高の名誉と見なされ息子は
『銀時計組』と呼ばれておりました・・・。」
「そんな・・・・・
私の 私の自慢の息子は満州で亡くなりましたが
どんな最期だったのかはどなたに聞いても何もわかりません
この銀時計が喋れたら何かわかるのでしょうけれど・・・。」
そう言って蓋を開けた懐中時計のガラスには
大きなヒビが入っていた。