ぼっちと妄想
「っへへ。そうだね〜。」
「ってか、今日の提出大丈夫なのか?」
教室の隅。2人きりの会話。此処には2人しかいないのではないかと錯覚してしまう。
視界に中心にいる少女は、声に出してしまいそうなほど可憐で、可愛さと美しさが相まみえる、「美少女」と喩すには勿体無いほどの美貌であった。
「................。」
まあ...そうですよね...。夢ですよね...。知ってました。はい。
視界の中心にあるノートは、驚くほど真っ白で、日付とテキストのページ数が鎮座する、まさに「余白の美」と表すにはもってこいの産物であった。
今はテスト前の自習タイム。苦手な数学の時間、教師も教卓でガチ寝とあれば、こちとらうたた寝の一つでもしなければやっていけないのである。
それにしても、夢に出てきたあの美少女...。絶妙なドストライクだったなぁ...。
これは新手の明晰夢と言っても過言ではないのでなかろうか。
ちなみに、女子と最後に会話を交えたのは中学校である。
思い返せば死にたくなるのは必然だが、ここは回想シーンとして....
ノートに貼るプリントが配られたとき、隣の席の子が話しかけてきた。
「ちょっとのり貸してくんなーい?」
「...え?あぁいいけど。」
「いや君じゃないから。てか誰。」
「...あ、ごめんなさい...」
俺を跨いだ隣の子に話しかけてきたのだ。
そりゃ真ん中にいるんだから反応しちゃうでしょ!
てか借りるという点なら俺でもよくない!?誰とか言う必要ないくない!?
人の親切心を馬鹿にしやがって...っ...
...とか言ってるから変われないんでしょうね。反省します。
徐に時計を眺めると、まだ授業時間の半分も過ぎていないようだった。
つまらない時間ほど、時が進むのが遅いと言うが、そもそもそんな理論を持ち出さなければこんなことをいちいち意識することはなかったのだ。
『熱いストーブの上に手を置くと、1分が1時間に感じられる。でも、きれいな女の子と座っていると、1時間が1分に感じられる。これが、相対性なのです。』
まさに「退屈な時間ほど進むのが遅く感じられ、楽しい時間ほど・・・」や「光の速さで移動すれば・・・・」などで有名すぎるほどのアインシュタインの言葉だ。
随分と両極端な話だが、これすらも俺には共感できない。
なので、検証のために絶世の美少女と1時間いさせてください。お願いします。
あ、ストーブは嫌ですよ?
周りに目を向けると、みんな揃ってペンを走らせていた。
こんな意味のわからない思考を巡らせているのは俺だけと言うわけか。
妄想にも近しい夢を見ていたが、男子学生であれば、一度は頭の中で超人となり世界を救う救世主になっているはずだ。
その内容こそに個性が出るだろう。ダーク系に憧れた拗らせやら超能力系に憧れた拗らせやら。
中二病に陥ったことがないという人間もいるが、自分を特別だと感じていればそれはよもや立派な中二病である。
そのまま朦朧と時間が過ぎ去るのを待つと、長針が10を指したところで授業終了のチャイムが校内に響き渡った。
「では、自習の進行具合の確認と通常のノート提出も兼ねて見るので教卓へ置いておくように。」
いつの間に起きたのか、教師がノートの提出を促した。...促した......。
...ノート提出?
え、ちょ。え?いや、進行具合って...、
呆然としていた脳が一気に覚醒。したところでもう意味がなかった。
時すでに遅し。
諦めて、半ばやけくそ気味にノートを教卓に放り投げた。
本日のノート進捗:ひづけかいた