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9話 もう一つの記憶喪失

遂にヒロイン登場回。

相変わらず遅い。

チュン……チュンチュン……


カーテンの隙間からは既に光が差し込み、行き交う人々の賑やかな声と鳥のさえずりが耳に入る。

帰宅後そのまま熟睡してしまったキサは昼時まで眠っていたようだ。


「やべ……今何時だ……」


ベッドから体を起こし、キサは時計を確認する。


『13時00分』


「……………」


盛大に寝過ごしたと頭を抱える。

あの後4時には家に帰ることができ、眠っている少女は別室のベッドで横にしてあげた。


どんだけ部屋あるんだと質問した所、友達がよく来るそうであと5部屋はあるとのこと。 もうアパートじゃねぇかと突っ込んだのを覚えている。


そしてそのまますぐ眠りについたことから……


「9時間は眠ってたのか……」


部屋には昨日着ていた服が洗濯されている状態で綺麗に畳まれて置かれており、どうやらイーリルかアスティが気を利かせて用意してくれたようだ。


すぐに着替え、急いでキサはリビングへ出た。



「あっ、やっと起きた。 おはよーキサー!」

「起こすのも悪いから起こさなかったけど随分とお寝坊さんなんだね」


ソファに座っているイーリルとアスティはこちらに手を振りこっちこっちと招く。


「あぁ、まさかあんな泥のように眠るとはな。 申し訳ない……ってあれ?」


向かいのソファに座ろうと向かうと既に先客がおり、見覚えのある人が座っていた。


「おはようですキサさん、夜は自分が迷惑を掛けたようで……貴方が助けてくれたんですね、ありがとですっ」


「もう起きてたのか……!」



肘辺りまで掛かるサラサラの銀髪に、琥珀色で宝石の様に綺麗な瞳。

夜の話は既に聞いているのか、彼女ははにかみながらこちらに笑顔を見せる。


服装も男物の寝巻きから変わっており、美しい金色の刺繍が入った白いワンピースに。

質素な服装なのに絵になる様に綺麗だと感じた。



「まぁキサも座ったらー? フェトちゃんの隣が空いてるし」

「いや〜、凄いね。 キサの時みたいにまた面白い事になりそうだよ」


「へぇ〜、フェトって言うのか。 良い名前だな、呼びやすい」


キサはソファに座り片肘をつきながら彼女に顔を向けるがどうやら微妙な顔をしていた。


「……多分、なんだけどね?」


「ん?聞き覚えがあるなそのワード、自分の名前に多分も何もないだろ?」


「キサ、その子記憶喪失だよ」


「………………えっ?」


「ごめんなさい……」


フェトは申し訳なさそうに謝る。


「き、記憶喪失……?」


全世界を探してもないのではという記憶喪失の共有者の登場に、キサは目を大きくして口が閉じなくなっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




お互い自己紹介を済まし、キサは今までの話の内容を説明してもらった。


朝、フェトが目覚め夜の出来事を伝え、魔結晶から生まれた存在にも関わらず、過去の記憶を持っていた。


しかしその殆どを失っており、自分に関しては名前ぐらいしか覚えていない。

だがこの世界に関しては熟知した知識を持っており、王国ラストリアの全体図を参考無しで描けるほど。


そして一番不思議なことが……



「どうやら彼女、精霊が見えるみたいなんだよね」


「は……っ!?俺と一緒じゃねぇか!?」


「っ!!キサさんも精霊が見えて……!?」


フェトは予想以上に驚く。


「あ、あぁ。 そうだけど……なんでそんな驚く?」


「い、いや、何でもないですっ! ……ちなみにあの壁にかけられた花瓶の辺りに精霊は見えますか?」


「おう、見えるぞ。 えぇと、4匹いて……色は赤、緑、ピンク、青だな」


「……人間なのに見えるなんて……」


「ん?何か言ったか?」


「な、なんにもっ!」


焦った様に手をぶんぶんと振る。

何かあったのだろか?



「ま、変な運命の巡り合わせみたいだけど、だからと言って何か出来るわけでもないしフェトちゃんにも店で働いてもらう事にしたから、先輩として見てあげてね」


なんでそのセリフを俺に向かって言う?


「だってさアスティ、先輩として頑張れよ」


「いや、アスティじゃなくてキサに言ってるんだよ?」


何言ってるんだこの生娘は。


「……俺まだ仕事内容すら知らないけど」


「ちゃんと何でも出来る様に教育してあげてね」


「ほんと馬鹿なのか!? なんで知識ゼロの奴が知識ゼロに教える図が出るんだよ!?」


「ゼロから1を生み出す為に頑張って!」


「どう考えてもゼロが二つあってもゼロにしかならねぇよ」


「でも可能性は何千倍にも膨れ上がるよ?」


「結局ゼロだよ馬鹿」



イーリルは睨むキサを完全に無視してソファから立ち上がる。


「まっ! 難しいことはほっといて、全員揃ったしご飯にしよっ! 今日は私が作るからね〜!」


軽い足取りでタッタッとキッチンへ姿を消す。


「ほんといつ見ても楽しそうだなあいつは……」


「……二人が来てからはずっとあんな感じだよ」


アスティは嬉しそうにキッチンの方を向いている、


「んっ?俺らが?なんでやねん」

「自分は何もしてないけど……」


キサとフェトは疑問を交えつつ否定を重ねる。



「実は二人が来る前はイーリルと僕の二人でこの広い家でずっと暮らしててさ。 知り合いもそんな多い方じゃなくて……寂しかったんだよ、僕も含めて」


過去を思い出す様に苦笑う。


「でも二人が来てさ、静かだったリビングもこんな賑やかになって、心の底から嬉しいんだ、僕も、イーリルも。 だから、ありがとね」


純粋な笑顔がアスティにも咲く。


「ははっ、何言ってんだよ。 助けられてるのはこっちだってのに。 もっと偉そうにしてくれなきゃ居候として立場がねぇよ」


「自分も助けてくれた皆に恩返しがしたいから、何でもいってね」


「ふふっ、召喚して来てくれたのがキサで良かったよ。 そこまで言うなら、これからどんどん頼りにしちゃおうかな?」



悪戯に微笑むアスティ。

そんなひと時を、キッチンからの爆発音が台無しにする。


「うわー!ねぇアスティー! なんか食パンが爆発したー!」


「どうやったらその状況が作れるの!? イーリル!もう何も触らないでっ! 今僕がそっちにいくから!」


「あっ、ごめん、なんかオーブンが発光し始めてる。 魔力強すぎたかな? …………あっ」



ドカァァァァアアアアアアンッッ!!


「もーっ! イーリルはキッチンに出入り禁止ーーっ!!」


しばらくイーリル主催の爆発祭が開かれ、終わった頃には焦げなのかなんなのか、黒過ぎて元が何かも分からないような暗黒物質が昼食で出てくるのだった。

電子レンジにプラスチック製のコップ入れてしまいドロドロに溶かした事がありました。

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