7話 森の妖精 モリゾーさん
元ネタが分かるのは明らかに同世代です。
「あっ!ねぇねぇアスティ! こっちに開けた場所があるよ! そこにいるんじゃないかな?」
「あ、確かに湖みたいなのが広がってるね。 早速行ってみよう!」
社会的死亡の足音が刻一刻に迫っていた。
「ど、どうする……どう隠す……?」
その心境は悪いテストを隠そうとする子供。
あの二人なら話せば分かってくれたのではと気づくのは後の祭りであった。
「…………そうだぁ!!!」
何か閃いたのか、キサはそそくさと準備を進めるのだった。
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遂に二人はキサの足跡を見つけ出し、その通りに開けた湖へと辿り着いた。
「っとぉ! やっと開いた場所に出れた! あ、あの人影は!おーい!キサーー………。…………キサ?」
「…………何やってんだい君は」
二人はとある物をじっと見つめ呆れ果てる。
「フォッフォッフォッ! よく来たのじゃ若人達よ! わしは……えと……。 この森を見守る妖精、モリゾーさんじゃ!」
「「……………………」」
「…………モリゾーさんじゃ(威圧)」
深紫色の何かがモゾモゾと動きながら何かしてる。
そして側には風邪をひかないように男の寝巻きを着た銀髪の美少女が一人。
本人は妖精に化けているつもりらしいが、側から見れば完全にローブコートを被ってうずくまってるだけだ。
しかし、おまけ程度にロープコードの側面には落ち葉で両目と口が描かれていた。
「……何やってるのキサ?」
「わしか!? わしはモリゾーさんじゃ」
「いや、どう考えても君だよね?何?この状況?」
「わしか!? わしはモリゾーさんじゃ」
「…………モリゾーさん?」
「……っ!! そうっ!わしはモリゾーさんなのじゃ!!」
得体の知れない妖精はもぞもぞと動き喜びを表現する。気持ち悪い。
「ねぇイーリル、確実にキサがこの子に手を出してないのだけは分かるけどなんなのかなこの状況」
「………………」
「イーリル?」
「も、森の妖精さんだぁぁああ!!!」
「イーリルっ!?!?」
どう見ても布切れの塊を信じてしまう純粋過ぎるイーリルに驚きを隠せないアスティ。
「わ、私妖精っていないものかと思ってましたっ! 凄いっ!本当にいるんだ! あ、握手していいですか!」
「キェェェェエエエエエエエイ!!!」
「「!?!?」」
近寄ろうとするイーリルに対して威嚇の奇声を上げるモリゾーさん(笑)
「すまんの……妖精は人と一定以上近寄ると消滅してしまうのじゃ……だから5メートル……いや、あまりわしが見えない位置まで離れて欲しいのじゃ」
「……今君のそばに可愛らしい女の子が倒れてるけどそれは大丈夫なのかい?」
「…………これはうちの子じゃ」
「どうやったらこの不気味な化け物からこんな美少女が生まれるの!? 設定ガバガバ過ぎない!?」
「アスティ!妖精さんに設定とか言っちゃ駄目だよ! 失礼極まりないよ!」
「いや、そもそもキサなんだけど……」
「わしか!? わしはモリゾーさんじゃ」
「キサなんだけどなぁ……」
頭を痛くするアスティ。
しかしその側ではウキウキのイーリルがモリゾーさんに質問を投げる。
「モリゾーさんっ! その子は一体どうしちゃったんですか!? こんな森の中で眠っているなんて何か事件にでも巻き込まれたんじゃ……」
「そう、わしが君達の目の前に現れたのはこの娘を託す為だったのじゃ」
「……? 一体なにが……-?」
いつまでこの茶番に付き合えばいいんだと後ろでアスティは腕を組み指をトントンしている。
出来るだけアスティの方は向かないようにモリゾーさんは話を続ける。
「実は先程わしもこの湖に訪れての。 そしたら何ということか!綺麗な石が落ちている!拾おう!拾った!あれ!?なんか石から美少女出てきた!やばい!誰か来た!とりあえず服を着せよう!…………という感じなのじゃ」
「いや、さっき我が子って……」
「という感じなのじゃ」
「「……………………」」
「っ!! ほ、ほんとなのじゃ!! そんな"何言ってんだこいつ"みたいな目でわしを見ないでほしいのじゃ! 信じるのじゃっ!!」
必死にローブコートをはためかせ説得するモリゾーさん。
「いや、本当のことを言ってるみたいだから尚更意味が分からないんだよキサ」
「モリゾーさんじゃ」
「…………」
なんでここまで折れないんだとアスティはキサの心の強さに感服する。
「そういえばずっと気になってたことがあったんだけどモリゾーさん質問していい?」
「も、もちろんじゃ! わしはモリゾーさんなのじゃからなんでも答えるぞっ!」
「そっかぁ!じゃあさーー」
なんで彼女はキサの寝巻きを着させられてるの?
「…………………」
「あれ?どうしたのモリゾーさん?なんで何も言わないの?」
「ほらモリゾーさん、なんでも答えてあげなよ」
ニヤニヤと笑うアスティに謎の威圧を感じるイーリル。
(あれっ? もしかしてこれ気づかれてる?)
何故バレないと思ったのか。
「……実はもう一人青年が来ての、その時に服を借りたのじゃ」
「でもそうなるとその青年は裸でうろつくことになるよね? それに……服を着せたってことは少なからず見たってことだよね?」
イーリルの威圧ゲージが徐々に上がっていき、その威圧にモリゾーさんはプルプルと震え、右目としてつけていた落ち葉がポロリと落ちる。
「そ、その……青年は……その……ぉ……」
「んー?はっきり言わないと分からないよー?」
「……………食べたのじゃ」
「ぶふっ!!」
アスティが耐えきれず腹を抱えて笑い出す。
「へぇ〜青年を食べて服を奪い、その服をこの可愛い女の子に"着替えさせてあげたんだ"」
「い、いや! 着替えさせたと言っても裸じゃ可哀想じゃったし! それにほとんど目を瞑ってたからあらかた見えてないのじゃ!!」
「そういえばこの森を見守ってる森の妖精なんだっけぇ? あー私この森の名前忘れちゃったなー? なんていうんだっけなーモリゾーさーん?」
「も、"森へいこうよ森"じゃ……」
「あ、思い出した!ここは"レーツェル森林"って言うんだった! ……っで?今なんて言った?」
「回文で遊ぼうとした年寄りのジョークなのじゃ……」
「全然回文になってないけど?」
「…………ほんとじゃ」
繰り広げられるキサの悲劇に"笑い過ぎて苦しい……"ともはや耳を塞ぐアスティ。
どうも助け舟は期待出来ない。
「そ、それじゃわしは彼女を託したしそろそろ失礼するのじゃ……キサ君は後で吐き出しておくのじゃ……」
そそくさとローブコートを引きずり素早くその場を去ろうとするモリゾーさんだったが……
ガシッ
イーリルに体を掴まれる。
「あー安心してよモリゾーさん」
「な、何がじゃ!? 妖精に触れるなんて恐れ多いことをするではーー」
「もうキサは見つけてるからさーーーっ!!!」
「ギャャァァァアアアアア!!!」
そのまま相当な威力の雷魔法を放たれ、こうなるなら最初から包み隠さず話しとくんだったと後悔しながら全身を巡る電流に耐えるキサなのであった。
ヒロイン、まだ寝息しか立てていません。