3話 雑貨店"ラグナロク"
この小説の下地になっているゲームがあり、そのほのぼの感を作り出したいがために作られました。
まぁそのゲーム自体はほのぼのでは無いんですけど……。
イーリルの興奮も収まり、ようやく会話できる状況が整った。
「んで? 結局こいつらはなんなんだ?」
「精霊だよ。 世界中の至る所にいて、魔力を司る生き物。 それが精霊」
「やっぱりまんま精霊だったのかこいつら……でもなんでそんな驚かれたんだ俺? もしかして普通はこいつら見えないのか?」
今も尚辺りをふよふよ浮かれて視界不良過ぎる。
「普通は……っていうか、今まで精霊を見れる人なんて今までで一人ぐらいしかいなかったよ?」
「……一人!? いやでもお前ら精霊の存在知ってるし二人の側にいる精霊は見えてんだろ?」
「人は生まれた時に1匹の精霊と共に生まれるんだ。 だから自分の精霊だけは見えるんだよ。 そして人は精霊を通して魔法を扱い、精霊は人によって魔力を貰う。 そういう共存関係で成り立っててね」
「ファンタジーかよ……」
キサはいきなりの情報量に頭を抱える。
「ちなみにその唯一精霊を見えていた人物っていうのが6年前、数百メートルを超える巨獣を討伐したとされる英雄"クジョウ"って人だよっ!」
「しかもそんなすげぇ人と唯一同じなのかよっ! やめろよ!記憶は無いけど絶対俺そんな大層なことを成し遂げる奴じゃなかったよ!」
「これが謙遜って奴なのかアスティさん……」
「流石……英雄ともなると格が違うね……」
「本心だよ! 心の底から俺は大した奴じゃないよ!」
あれっ、なんだろう。
自分で言ってて悲しくなってきた。
「でも精霊が見えるって言っても何か出来るわけじゃないんだ?」
「そうだよ、俺が触れようとしてもふよふよと避けてくし全く理解が出来ないわ。 ……何故か凄く好かれてるみたいに漂ってくるけど」
「でもきっとその視える力には何か秘密があるんだろうね。 "霊視"とでも言うのかな?」
「いや、"唯一神の眼"と呼ぼう」
「……僕はそれでも構わないけどいちいちその痛い設定を口に出すのは君だからね?」
呆れるようなジト目でこちらを睨むアスティ。
キサは自らのネーミングセンスに酔いしれているように"めっちゃかっこいいじゃん"と呟いている。
「でもこれから俺どうすりゃいいんだ? そもそもここはどこなんだ? イーリルとアスティの店ってことは分かったけど、どこかの村か?それとも国か?」
「あぁ、そういえばこの国の案内もまだだったね、ほらついてきて!」
そう言ってイーリルに連れて行かれ外へ出る。
気づかなかったがもう時刻は夕方であり、日が殆ど落ちていた。
「もう遅いからこの国の案内は明日するけど、取り敢えずこの国がどんなものか見るだけでもして欲しいな!」
店から出て中世のような街並みをしばらく歩き、とある場所でイーリルとアスティは足を止めた。
「ぉお!これは凄いな!」
辿り着いたのはこの国を見渡す展望台であった。
大きな王城が中央にそびえ立ち、その周囲を囲むように城下町がずっと続いていた。
展望台でも見きれない程大きな国。
キサは夕焼けに照らされ、街灯が光り出す暖かい光景に目を奪われていた。
「ここは王国"ラストリア" この世界で一番大きな国だよ!」
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しばらくその光景を眺め、日がもう暮れちゃうからと家へ帰路を辿った。
「予想以上にでかい国なんだな。 しかも二人が経営してる店の辺りは人通り良いだろ。 随分繁盛してるんじゃないか!?」
「「………………」」
キサは笑顔でそう尋ねるが何故か二人は謎に顔を逸らす。
「……随分繁盛してるんじゃないか!?」
聞こえなかったのかなと更に大きな声と笑顔で二人に尋ね直す。
「「…………………………」」
「おいまさかお前らの店……」
「超絶繁盛してて困っちゃうほど繁盛してるよ」
「絶対嘘だろ」
イーリルがこちらを振り向かず棒読みで話している時点で嘘だとわかる。
そしてその頭痛が痛い理論はやめろ。
「んっ? そういや普通に考えればこの時間帯はまだ店も営業してるはずだよな? お前ら店をほっといて大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だよ、だってどうせ来な……あっ」
「………………おい」
「い、いやいや違う違う! 今日は……えと……そう!定休日!定休日なんだよ今日はっ!」
イーリルが自ら掘った墓穴を埋めようと必死になっている。
「……昨日の来客数は?」
「ねぇアスティ、昨日ってお客さん来た?」
「いや、昨日は一人も来てないよ」
「おいお前ら本当に大丈夫なのかッ!?!?」
キサは二人の経営状況を本気で心配し始めた。
「流石にあの人通りの多い繁華街の道端に店が立ってりゃ数人くらい来店するだろ!? お前ら一体何売ってんだ!?」
「そう!そうなんだよキサくん! あんな目立つ所に店を構えてるのに誰も私の発明品を買ってくれなーー」
「そういうことかーい!」
今の一言で大体察したキサ。
そのタイミングで丁度家にも着き、店の看板がドカンと書かれている。
アイテム雑貨店"ラグナロク"
この看板で全てを察したキサ。
「ちょっと店内を見せてくれるか?」
「いいよ!自慢の発明品を見てってね!」
カランと来店のベルを鳴らし店内に入る。
すると予想通りという光景がキサの目の前に広がる。
「ここはなんの店だ……」
先程物置部屋で見かけた様な瓶や謎の器具が綺麗に棚や壁、テーブルに並べられている。
キサの第一印象は外装はとても綺麗だが商品がオーパーツすぎるリサイクルショップというイメージ。
「なぁアスティ……お前なら止めることが出来たんじゃないか? あんたは俺の中で相当常識人のポジションだったんだが?」
「いや……私もこれは売れないんじゃないかなとか助言しようとしたけど……まぁイーリルが楽しそうならいいかなって……」
「保護者かよ!甘過ぎる程までに保護者かよ!」
この惨劇に頭を抱えるキサ。
「あと一つ聞きたい、この店名誰が考えた」
「私だよっ!」
「だろうなっ!お前しかいないよなイーリル! なんでアイテムショップで"終焉"の名をつけるんだよっ! 不吉すぎて立ち寄らねぇよ!」
「えっ!? カッコ良ければみんな来るかなと思って!」
「相性を考えろバカ!」
ツッコミが追いつかず息を切らす。
深呼吸し落ち着いて店の良いところを探そうと飾られている商品に触れようとする。
「あ、その商品素手で触れると触手で縛られるよ」
「先に言って!?ってやめろやめろもう嫌だあの絶望感を味わうのは嫌なんだ助けてぇぇえええ!!」
触手に包まれたキサを解放する頃、既に夜の帳が下りていたのだった。
ちなみにヒロイン枠はまだ登場してないです。