1話 ここはどこ?
ほのぼの日常系を書きたくてっ!
「…………これは……随分と冷たく……高反発なベッドのようで……」
とある一室で、木造の床にチョークで描かれた魔法陣の上に寝そべる青年が1人、そこにいた。
「ん……違う……それは……おれじゃなくて……まりもだぞ……まり……まりもが……襲って……こっちに来て……」
「う、うわぁぁぁぁあああああ!!!」
何の夢を見ていたのか、随分な悪夢に捉われていた彼は体を起こしながら目を覚ます。
「ん……なんだ夢か……、あと少しでマリモに吸収されるとこーーってどこだここ?」
青年は立ち上がり、辺りの状況を確認し始める。
「なんかやたら液体の詰まった瓶やら用途不明な形状をした器具がまばらに置いてあるが」
六畳ぐらいの部屋にまるで物置のように様々な物が収納されている。
そして床には大きな魔法陣のような物が大きく描かれていた。
「なんだこれ、黒魔術サークルにでも招かれたのか? それに……」
青年の視界には沢山の色を帯びた光の集合体、まるで精霊のような存在がたくさんふよふよと宙を舞っていた。
「なんだこれ……?」
触れようとしたらふよふよと避けられる。
「まるで生きてるみたいだな」
触れるのを諦め状況確認に戻る。
「えぇと……んっ? おいおいやべぇな……」
青年は一人で気づき一人で顔を青くする。
「そもそも俺って誰だっけ……?」
記憶喪失の青年は、
思い出せないことを思い出した。
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「まぁまずは落ち着け、随分と頭の整理はついた。 一つずつ問題を追ってくとしよう」
息を切らしながらふと彼は冷静になる。
しばらく頭が混乱しており、思い出せることを振り絞りオットセイの真似をしたりアンパンのヒーローの真似をしたりと、側から見れば頭のおかしい人の様な真似を続け理性を取り戻した。
「まず記憶喪失と言っても全部忘れた訳じゃないな、自身に関する記憶だけが唯一思い出せないのか」
オットセイやヒーローの真似は出来たがどうしても自分が今までどう過ごしたかはおもいだせないようだった。
それは自分自身の名前も例外ではない。
「そしてここ……ガラクタが置いてあるような物置部屋のようだが……」
扉を発見して出ようとしてみたが、どうやら鍵が掛かっており何をやっても開かなかったようだ。
「こいつらも何したいか分からないし……ずっと俺の周りに集まってくるし」
周りに漂う光も青年に興味津々の様子で周りに付き纏う。
「害も無いし考えるだけ無駄か、無視しよう」
遂に青年は考えることをやめ、いずれ誰かがやってくるだろという期待を込めて周囲の器具に触れ始めた。
世はこの行為を現実逃避と呼ぶ。
「なんか色々なもんあるから気になってたんだよなぁ、この結晶とかなんだ?」
手にすると結晶は光り輝き、部屋がいつのまにか幻想的な海の中に早変わり。
「おぉ!すげぇ! これ投影器具だったのか! すっご、本当に海の中にいるみたーーゴンっ。 痛い、ここ壁だった」
結晶から展開された海中の幻想に惑わされ壁に衝突する青年。
「どんな技術なんだろ、最近の技術はすげぇな。 どれ、他にはどんな物が……」
結晶を元の位置に置き投影は収まり、他に何かないか辺りを探る。
そして青年は獲物を見つけた様で目を輝かせガサゴソとガラクタを漁った。
「おぉ! これは絶対にかっこいいやつだろ!」
彼が取り出したのは剣の柄の部分の様な物。
しかし小さく謎のスイッチがあり、青年はこれはまさかと手にしたようだ。
「このボタンを押すと……例のライトセイバーの如く刃が現れるのではなかろうかッ!」
期待を込め、スイッチを押したがそれは後悔へと変わってしまった。
「……あれっ?」
刃が出てくるはずの隙間からは刃とは言い難い触手の様な物が現れ、彼に気づいた様で触手はそのままーー
ーー青年を縛り上げた。
「おぉぉおおい!! なんだこれ!?用途が分からんわ! ってまじで身動き取れねぇ! あ! そういうこと!? 拘束武器だったのこれ!?」
触手の様にウネウネと動く不思議な力で構成された縄は青年を完全に動けなくなったら動きを止め、そのままとなった。
「いや解けよッ! おい触手!お前使用者に矛先を向けるとか教育がなってねぇな! このまま解かなかったら噛みちぎるぞ!いいな! …………硬い!何これ! 歯が砕ける!」
すると目の前にハラリと一枚の紙が落ちてくる。
「んぁ?なんだこれ……」
ーー這い寄れ触手君の解除方法
「うわ、絶対この道具のことだこれ」
可愛らしい文字で書かれた説明書が運良く目の前に落ちてきた。
「こうなれば話が早い!どうすれば解けんだ!」
ーーもし事故で拘束されてしまった場合、何かのモノマネをして下さいっ。 そうすれば解ける可能性がありますっ。
「な訳ないだろ馬鹿かッ!!」
一人説明書に突っ込む青年。
しかし説明書は続きがあった。
ーーでもモノマネしないと解けないですよ?
「いや、モノマネしても可能性があるだけなんだろうが! どんくらいの確率なんだよ!?」
ーーざっと4%です。
「極端に低いっ! てかなんで俺は説明書と会話してんだ!」
まるで拘束された人の気持ちを見透かしているような説明書を全身使って弾き飛ばす。
そうしてどうするかと悩む青年だったが、考えるように押し黙り、触手に向かって声をかける。
「モノマネをしたら……解くかも知れないんだな?」
すると触手は先端を頷く様にコクコクと下げる。
そして……彼は覚悟を決めるのだった。
「オットセイ、やります」
彼は先程の混乱の最中目覚めた野生の本能を解き放った。
「おうおうおうおうおうおwwwwwwwwwwww」
パァンッパァンッ(ヒレを叩く音)
「おうおうおうおうおうおおうおうおうおうおうおwwwwww」
パァンッパァンッ(ヒレを叩く音)
「おうおうおうおうおうおwwww」
ーーガチャ
「なんか物音がしたんだけど誰かい……る……」
「どうしたのアスティ何かあった………」
「おうおうおうおうwwwwおうおw……ぅ…………っぱぁあん……っぱぁあん(ヒレを申し訳程度で叩く音)…………」
「「……………………」」
「……………………」
鍵を開き心配して入ってきた二人の少女と、
触手に拘束されながら本気のオットセイの真似をしている変態の出会いがここで始まった。
「い、イヤァァアアアアアアアア!!!」
「凄い特殊プレイしてる人がいる! 練度が高すぎる特殊プレイをしてる人が人の家の物置で何かしてるっ!!」
「いやっ、違ッ!! 待って! 弁護をっ!せめて弁護をさせてぇぇええええ解いてえええぇぇぇ……」
逃げてく少女達を背に青年は縛られたまま取り残され、数十分その場で精神もろとも崩れ去ることしか出来ないのであった。
引用「オットセイの真似」です。
明らかに分かる人には分かるネタでしたね。