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人間は社会性動物だ。だから、自然破壊にあまり興味がない

 人間は社会性動物だ。だから、人間関係をとても重要視する。

 流行やファッションに気をかけ、財力や権力を手に入れようとし、スポーツや勉学やゲームでの優秀な成績を誇示したり。

 人間はそうやって社会的成功を収めて来た者達が生き残り、繁殖して来たんだ。遺伝的アルゴリズム。進化心理学。猿達が地位の向上を目指して喧嘩をするのと本質的には同じ。とても複雑にはなったけど、今もそれを受け継いでいる。

 そしてだから、その為の情報にも注目する。例えば、誰と誰が恋人同士だとか、今は何々のビジネスが熱いだとか、隣の国が軍事力を増強しているだとか。

 ところがこの僕は、どうも皆ほどには社会性が強くはないらしい。そういった事柄にそれほど興味を抱けないのだ。

 多分、それは、僕が変で、間違っているからだろう。

 だって皆、それで当たり前だって言っているのだもの。

 ただ僕は、その代わりなのか、皆よりも自然破壊には興味があった。

 

 「このまま自然破壊が進行すれば、地球の生態系や大気のバランスにどんな影響が出るか分からない。絶対に食い止めなくてはいけないはずだ。

 そして、実は世界にはそれだけの資源が充分にあるんだ。例えば、世界の軍事費の総額は2016年で約1兆6860億ドルと推計されている。それに対して、砂漠の進行を止めるのに必要な費用はたったの60億ドル。

 つまり、人間達が少し和平を深めて、軍事費を節約すれば、簡単にそれくらいの資源は確保できそうなのだね」

 ある時、僕はある友人にそう語った。ところが、その友人はそれを聞いて「考えが甘い」とそう言うのだった。

 「軍事費を減らせば隣の国が攻めて来るぞ。仮にそうならなくても、軍事力ってのは他の国を威圧するのに役に立つんだ」

 僕はそれを聞いて頭の上にクエスチョンマークが浮かんでしまった。

 何故なら、僕からしてみれば、「考えが甘い」のはその友人の方だと思っていたからだ。

 このまま自然破壊が進めば、地球規模の環境悪化で凄まじい被害が出るだろう。どれくらいの人が犠牲になるか分からない。はっきり言って、戦争の為なんかに貴重な資源を使っている場合じゃないんだ。

 「相手が攻めてくればもちろん、外交で弱い立場になっても、国民は苦しむんだぞ?」

 彼はそうも言った。

 何故か彼は、軍事力で負けるのは駄目でも、自然環境の悪化で国民が苦しむのは別に構わないらしい。

 分かっている。

 つまり、ボス猿が他のオスを威圧して、メスを独り占めしようとするのと似たような本能を彼は働かせているのだ。

 だから、勝負に拘る。プライドに拘る。相手より上の立場に立とうとし、征服し支配しようとする。

 だけど、その時僕は何も言わなかった。

 言っても無駄だと思ったからだ。

 多分、変なのは僕で、間違っているのも僕の方なのだろうから。

 だって、“正しい事”は、皆が決めるものなのだもの。

 

 風の力の源は、地球の熱エネルギーだ。

 だから、地球温暖化が進めば、台風がより強力になっていくと予想されている。

 もっとも、これには反論がある。

 より正確には、風の力の源は“熱の差”だ。赤道と北極や南極といった極地の温度差が開いていけば、だから風の力は強くなるが、温暖化が進めば極地の気温はより高くなる。もしかしたら、温度差は開くどころかむしろ縮まってしまうかもしれない。

 ならば、台風が強力になるなんて現象は起こらないのではないか?

 がしかし、少し考えると、その考えには欠落した視点がある事に気が付く。

 確かに赤道と極地の温度差は開かないかもしれない。だけど、地球表面と宇宙との温度差は開いてしまうだろう。少なくとも上昇気流は強くなるはずだ。上昇気流が強くなれば低気圧が発達する。低気圧が発達すれば、台風はより強力になるはずだ。

 ならば、やっぱり、地球温暖化は、台風被害の甚大化をもたらすのじゃないか?

 

 「いくつかの堤防が決壊し、死者数は68人になり、行方不明者も……」

 テレビのニュース番組が、台風の被害状況を伝えている。ここ数年で、台風の勢力は急速に拡大している。人間社会はそれに対応できていないのだ。

 もしも、もっと前から地球温暖化対策を本格的にし始めていたなら、きっとこれほどまでの規模にはならなかっただろう。そして、きっと、まだまだこんなものは序の口なんだ。これからもっと酷い災害がやって来る。

 一応断っておくと、地球温暖化対策の為に金を使っても経済は成長する。それだけ通貨の循環量が増えるからだ。

 僕に「考えが甘い」と言った友人は、大規模な台風の被害がニュースで流れても何も言わなかった。

 恐らくは、それでも軍事力の勝負に勝つ方が彼にとっては重要なのだろう。

 間違っているのは、相変わらずに僕の方。

 だけど、本当にそれで良いのか?

 僕はちょっとばかり落ち込んで、憂鬱になっていた。

 これから先、僕らの社会は、一体、どうなってしまうのだろう?

 

 「いやぁ、昨今の台風の被害は凄まじいな。俺は大いに興味があるよ」

 

 そんな事を思っていたある日、僕は別のある知り合いからそう話しかけられた。彼は僕が台風の勢力拡大を以前から心配していたのをどこかで耳にしたらしい。

 「そうだろう? これは、無視しちゃいけない問題なんだ」

 僕はちょっと嬉しくなってそう言った。少しは僕と同じ様に心配している人もいるらしいと思って。ところがそれから彼はこう言ったのだった。

 

 「もちろんだ。これから先は、きっと防災グッズが売れるようになるぞ! 非常食とか毛布とかブルーシート。非常用電源としても活用できる、太陽光発電と蓄電池の組み合わせも見逃せない!

 ビジネスチャンスだ!」

 

 僕はそれを聞いて言葉を失った。

 人間は社会性動物だ。だから、自然破壊にあまり興味がない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] オチが秀逸で好き。ちなみに「環境問題に人類全員で取り組まなければならない」ってスタンスには反対。人は自分の好きなことでしか力を発揮しきれない。こうだって、決めつけてしまうと可能性を消してし…
[一言] よその群れが苦しんでても、助けなきゃいかんなんてルール自然界に存在しないからな 食うに困った群れが近隣の群れに戦争仕掛けて食料その他の資源を得ようとするのも 他の群れに攻め込まれて皆殺しに…
[一言] 文学としては良いんじゃないですか。 きれいな所だけ見て。 世の中の本当のところを考える必要はないですから。
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