鍛冶屋で紹介されたのはイロモノ?
鍛冶屋には心当たりがあった。家の近く、というか向かいに鍛冶屋がある。
ガレーの鍛冶屋。
ガレ爺のところにはよくお手伝いに行っていたので今でもよくお話をする。でも挑戦者になってからは会っていないから実は久しぶりだったりする。
ガレ爺はとても頑固で有名だ。僕がミトーおばさんに拾われた時とかミトーおばさんが叱られていた。そんなよくわからないやつに構うんじゃないとよく言われていたな。それが正常な思考だと僕も思う。ミトーおばさんは優しすぎるんだ。それで僕は助けられたから僕は何も言えないけど。
それからガレ爺は僕を監視するかのようによく家に来ていたな。その度にミトーおばさんは何もないよって怒っていたけどその自身はどこからいていたのだろう。1ヶ月経って僕が出回るようになってから僕がパン屋のお手伝いをしているところをみてガレ爺は自分のとこに手伝いに来させるように言った。自ら僕を追い出そうとしたらしい。ただその時は頭もはっきりしていなかったし、通常であっても気づけたかどうかはわからない。ガレ爺のいびりに気づかず淡々と仕事をこなしていると、ガレ爺は途中から優しくなった。というか最初の頃はガレーさんって呼んでいたのに急に「ほれ、ミトーのことはおばさんと呼んどるだろう?わしのことも爺と呼んでみろ」それからガレ爺って呼び始めて仲良くなっていったなぁ。今では本当のじいちゃんみたい。なんで急に優しくなったのか混乱していた僕に鍛治仕事を楽しそうにやるお前をみていたらそんな気は無くなっていたと恥ずかしそうにいっていた。ヒューヒューって馬鹿にしたらお尻叩かれたけど。
ガレ爺の店は始まりの街では有名な店だ。名実ともに一番の鍛冶屋だと言える。この街にはギルド横のギルドと提携している鍛冶屋とガレ爺の鍛冶屋の二つある。提携鍛冶屋は初心者から高LVまで幅広く対応している。ただどちらかというと初心者の方が強いかな?イメージはチェーン店。どの町のギルドの横には必ずあるらしい。その代わりその町のLVに合わせた武器を安く提供できる。その代わり鋳造が多く性能はボチボチといったところ。それに対してガレ爺はしっかりとした町鍛冶屋。鋳造も鍛造もしっかりとやる。作り置きからオーダーまでこなす代わりにお値段はそこそこする。
僕がここに来るのは実はもう少し時間が経ってからだと思っていた。しかし今回はいい装備をということなのでガレ爺のところで装備を見積もりその値段を目標にしてみようと思い今向かっている。当たり前だがオーダーではない。それはさすがにお小遣いで稼げるわけないので作り置きで見積もりをする予定だ。
それに、攻撃手段についても相談したい。当てられやすい武器がないかとかも聞いてみたいしね。
~ガレーの鍛冶屋~
ガレ爺のお店は相変わらず物が乱雑としている。僕がお手伝いに来た時はよくお掃除をしていた。店構えもボロボロで開店しているのか不安になる程だ。ガレ爺には綺麗にしないとお客さん来ないよっていったことがあるけど、そもそも武器の製造はギルドからの紹介がないと受けてないそう。それ以外はご近所さんの包丁や鍋などの金物を修理して家計をつないでいる。あとは提携鍛冶屋に一定数の武器を納品したりとかがメインなので店構えは二の次だそうだ。
この時間は店の奥で鍛治仕事をしているはずだ、夜には音の問題でできないので昼間のうちに仕事を終わらせなきゃいけないからな。
「ガレ爺ー。きーたーよー「ガッン」.....」
ガレ爺ーーーーー!言わんこっちゃない!店構え気にしなさすぎて扉の立て付け悪くなってるじゃん!ちょ。これ本当に開かないんだけど!?
ガタッガンガンガン!
ガタン!ガ!ガ!ガ!
ドンドンドン!
「かー!誰じゃうるさいのう!そっちの扉は立て付け悪くなってるから横の扉から入れい!」
あ。なんだ。反対の扉は開くのか。引き戸だから反対とかあるけど普通のドアだったらこれ開かなくなってるぞ...それにこっち側も半分しか開かないじゃないか!
「ちょっとガレ爺!だからいったじゃん!ちょっとは店がま「坊!坊じゃないか!お前挑戦者になったらしいな!?もう今更危ないからやめろなどと水臭いことは言わん。だがなぜわしの店に来ないんだ!お前の装備くらいわしが揃えてやるというのに!しかも最初の戦闘で死にかけただと!?わしの装備ではなくギルドのやっすい借りものなんて持っていくからだ!ほら!こっち来い!今から採寸して最強の装備をわしが作ってやる!」ちょちょちょっと待ってガレ爺!今日は装備の話に来たのは会ってるけどそうじゃないから!それはダメだから!」
「なんじゃい。どうせ買うのならわしがプレゼントしても同じだろうに。それに坊はぶきっちょだからなぁ。どうせ戦闘の時も無理に動こうとして転んだんだろう?無理に動こうとするからそうなるんじゃ。お主は高い防御に任せドンと構えておくしかやりようはないじゃろ。違うか?」
「うっ!そ....その通りです。」
「だったらさっさと寸法とるぞ!今から作るには時間がかかるから急がないとな。」
「え!?オーダーなんてお金払えないよ!」
「金じゃと?そんなもんはいらん!爺が孫にぷれぜんとするんじゃあ。金などいらん!」
「それはダメだよ!僕はもうちゃんとした挑戦者になったんだから!対価はちゃんと払うよ!」
「貰えるものはもらっておけ。チャンスを利用できる能力は挑戦者に必要な技能じゃぞ?」
「爺こそ。そんなお金取らないとか爺の装備もその程度の信頼しかないといっているようなものだよ。僕は僕の命を預けられるようにちゃんと信頼の置けるものにしたい。」
「むう。お主はわし以上に頑固じゃからなぁ。あの心配性のミトーを説得しただけのことはあるわい。まあいいじゃろうただしオーダーメイドは譲らんぞ!」
「嫌だよ!?だから払えないってば!」
「じゃったら昔みたいにうちで手伝いしていけ。それでチャラにしてやるわい。」
「だからー。それじゃダメなんだってー。ちゃんとお金払うから出来合いのもので見積もり出してよ。」
「あーもう、うるさいわい!これ以上は譲らん!信頼云々言うならちゃんと信頼を置ける装備になるようにしっかりと手伝いせい!」
「あーもう!ガレ爺は頑固なんだから!」
「こっちのセリフじゃわい!」
ガレ爺の頑固を舐めててた。て言うかこんなことで喧嘩になるとは思っていなかった。これは覚悟しないとなんか他にもありそうだな。でも信頼できないといったがガレ爺の装備なら誰のものよりも信頼できる。だからこそ少し高くついてもガレ爺のところで装備を揃えたかったんだから。
「で?欲しい装備は決まっておるのか?せっかくのオーダーじゃ。望み通り作ってやるぞい。」
「望みって、さっきガレ爺が言った通りだよ。防御重視でカウンター狙い。」
「なんじゃ本当にあっておったのか。なら武器はどうじゃ?希望とかないんか?」
「武器は....ね。僕武器とか振ったことないから当てられる自信ないから、できるだけ簡単な武器がいいな。」
「そんなものあるかい。強いていば棍棒とかメイスは振りやすいがおぬしは重さに振られて戦いどころではなさそうだしな。」
「えー。ねえ爺ー。諦めないでなんとかしてよー。僕の挑戦者人生がかかっているんだからー。」
「結論を急ぐでない。まだ案がないとは言っておらんじゃろう?ようは武器を振ろうとするから振られるんじゃ。なら武器を使わなければいいと言うわけじゃ。」
「武器を使わない?って言うことは素手ってこと?でもただでさえ攻撃力ないのに武器持たなかったらもっと低くなっちゃうよ?」
「素手と言うか徒手戦闘じゃな。一応ガントレット、金属製の手甲をつけて敵を殴るんじゃ。確かに他の武器に比べたら攻撃力は高くないが、武器と違って使うのは自身の体じゃ。他の武器より戦いやすくなるだろう。」
「ふーん。確かに、殴るくらいならできるかな?でも射程がちょっと心配かも。」
「何言っておるんじゃい。そもそもお主は攻撃されていることが前提じゃろう。なら射程など気にせんでも、常に接近しておるからきにする必要はない。」
「でも手甲って武器なんだよね?武器装備したら盾を装備できなくなるよ?」
「確かにな。普通ならフル装備して一発受ける間に倒せるのじゃがおぬしはそれができるか微妙じゃのう。ならどおする?一応片手でもガントレットは装備できるぞい。片手に盾片手にガントレットを装備して、LVが上がって盾がなくなっても耐えられるようになったら両手をガントレットに変えても良いぞ?」
うーん。選択肢は両手にガントレットか片手に盾を装備するかの2択か。ガレ爺の装備なら盾がなくても一定の母ぎょ力は期待できる。だから理論上はガントレットだけでもいい。だがその代わり先に進んだ時に防御が少し心配になる。それに一度命の危機にあっておいて、防御を削ると言う選択は取れそうになれない。
ん?防御を削る?それにこの組み合わせを見るともしかして.....
「ねえガレ爺。もしかして盾って両手に装備できるの?」
「そりゃできる。片手に持てばいいものを両手に持つだけだからな。それに両手で持つ大きな盾とかもあるからのう。本人は戦えなくなるが。ってまさか!?」
「うん。両手を盾にしようと思う。その方が防御力高くなるしね。」
「バカを言うな。両手に盾はパーティーだからできるんじゃ!おぬし話を聞く限りパーティーくん取らんじゃろ!それじゃ攻撃できなくてただのカカシと一緒じゃ!」
「いや盾装備していても殴れるでしょ?なら大丈夫だよ。」
「何が大丈夫じゃい!素手と手甲ありとは天と地ほどに差があるわい!そんなもの焦げ気力皆無と言っても過言ではないぞ!相手は腐ってもモンスターなんじゃ!」
「素手じゃないよ。盾がある。盾で殴ればそこそこの火力は期待できる。それにガレ爺がオーダーで作ってくれるんでしょ?それなら盾で殴っても大丈夫なように作ってよ。」
「こやつ!簡単に言いおって!それにさっきまでオーダーはやだと言っておったくせに急に頼りおって!カー!じゃが面白い!やってやろうとも!かわいい孫の頼みじゃ!叶えてやるとも!」
「チャンスを利用する能力は挑戦者に必須って言ったのはガレ爺だよ?」
「生意気な口をしよって。始めたばかりでモンスターからも逃げ帰ってきたペーペーが大きな口を叩きよるわい!
やっぱりガレ爺は最高の鍛冶屋だな。僕的には負んぶに抱っこなこの現状は本意ではないのだが、ガレ爺は頑固だから自分の意見を曲げたりしなかっただろう。それなら思う存分に背負われよう。この状況をうまく受かってやるのだ!
「でもそんなに簡単に引き受けて大丈夫なの?そんな試作品みたいなの渡されても困るよ?」
「そこは大丈夫じゃわい。構想についてはある程度考えておる。」
「え?もう考えてあるの?なんで?」
「おぬしが挑戦者を始めたと聞いてなそのうちわしの店に来るだろうとは思っておったからの、おぬしにあう装備についてはある程度考えておったわ。盾のデザインもすでに決まっておるから、あとはそれを両手用に作り直すだけじゃ。」
「僕が来なかったらどうしてたのさ。」
「そんなもん、旅立つ前に押し付けるに決まっておるだろう。」
ガレ爺は本当に行動力の塊だなぁ。遅かれ早かれ結局同じことになっていたのか。って言うかガレ爺準備よすぎだろ!確かに最初の発言を聞いた感じ完全に作って渡すつもりだったっぽいからな。早めに来てよかった。この感じだったら来週くらいには作り始めて家に届くところだった。て言うかデザインとか方向性とか自分の決めた方向で進める気満々だったってことだよな?オーダーって言う割に僕の意見聞く気なかったって言うこと!?
「ちなみに盾はどんな感じにする予定なの?」
「おぬしが戦えないことなど想像がたやすいからな。だから盾にトゲでもつけて防御するだけでダメージを与えられるような仕様じゃ。あとは両手盾じゃから両手を合わせることで大きな一枚の盾になるようにする。基本的には攻撃しないことを前提としておるが、もし、仮にも、万が一おぬしがちゃんと攻撃できるようになった時のことを考えて盾の形状は殴れるようにガントレットに似せようかの。これ以上機能をつけても、手入れが大変じゃかこれくらいにしてやるわい。」
「いやいや一個手入れが大変そうなのがあるから!て言うか盾に棘って折れたりしてすぐに壊れそうなんだけど!?」
「安心せい。その辺もちゃんと考えておる。手入れについては手伝いの合間にでも教えてやるわい。それくらいできないと手伝いなんぞ任せられんからなあ。それに棘についてはぶっちゃけ折れても構わん。」
「え?折れていいの?着脱式で取り替え可能とか?」
「その様子だとおぬしは知らぬようじゃな?疑問に思ったことはないのか?挑戦者は皆どうやって手入れをしているのか。」
「え?それは自分でやるか鍛冶屋に持っていくんじゃない?」
「それで済めばそうするだろうな。じゃがこの場合制作者であるわし以外では修正や調整には時間がかかるじゃろう。これだけじゃない。中にはそもそも人の手では修復不能な魔法武器なんてものも存在しよる。そんなものを修復できるのは神くらいなものじゃよ。」
「うーんじゃあもし強力な武器を手に入れても修理できるかどうかで使うかどうか決めなきゃいけないのか。なんとも変な話だね。強い武器を使いたいのにこまれたら困るからって使えないのは。」
「待て待て。結論を急ぐでない。わしは治せるのは神くらいなものじゃと言ったな?なら神に直してもらえばいい。」
「え?神様ってそんなに気軽に会えるの?...まさか。」
「そうじゃ。教会に行けば修復の宝珠なるものを手に入れられる。どんな傷であろうと使えば元に戻せると言うなんとも鍛冶屋泣かせなアイテムじゃ。救いなのは手入れなど気軽に使えるほど安くないと言うことかの?」
「なるほどね。僕は自分で手入れを覚える。もし折れたり修復が必要になったら宝珠を使うと。」
「必ず宝珠を使うんじゃぞ!もし鍛冶屋に持っていくとそのあと宝珠を使ってももうわしが作った状態には戻らんからな。そんな何処の馬の骨ともわからんやつが修復した状態など害悪でしかないわ!」
修復の宝珠。なんともゲームちっくな設定が出てきたな。装備は現実味を出すために耐久値を設定したい。でも修復できない武器があるとプレイヤーの批判が怖い。だから治せるようにした。でもゲームバランスを崩さないように調整もしたと。このゲームは閉じ込めるだけでなく、ちゃんとこう言ったゲーム性をしっかり考え込まれている。そこがなんとも不思議なところだ。閉じ込めて命を脅かしておいて、ゲームとして必要なことはしっかりとやっている。何がしたいのだろうか?このなんともちぐはぐは感じはどうも不気味に感じる。
「装備の方はどうするの?」
「盾が構えているだけで敵にダメージを与えるからの。そもそもおぬしが攻撃する必要がないとも言えるから、機動力が無視できる。この場合もちろん全身鎧じゃあ!と言いたいところじゃが。」
「ところじゃが?」
「おぬしは初心者も初心者のペーペーじゃからな。装備可能重量がほとんど盾で占めてしまっておる。これ以上は持てないから装備は盾のみじゃ。」
「装備可能重量?」
「筋力とか体格とか合わせてモテる装備の重量は決まっておるんじゃ。簡単に言えば用事に全身鎧はつけられまい?つまりそう言うことじゃ。他の装備についてはLVが上がり次第じゃな。さっさと倒してこい。LVを上げて増えた重量で鎖帷子くら作ってやるわい。」
僕の戦い方は決まった。守る。ただそれだけ。あとは盾以外のところを攻撃されないように気をつけるだけ。攻撃できない、避けられないという僕の弱点は避けなければいい、攻撃しなければいいというとても大雑把な手法で解決することになった。でもそれだけではきっとダメなのだろう。時間があれば盾で攻撃する練習をしなければならない。この世界では必要な時に必要なことができなければすぐに命を落としてしまうから。
ギルドも、ガレ爺も協力してくれてやっと見つけ出した僕の活路。ひどく細く険しい道だけど僕にはこの道しかないから頑張るしかない。でも耐え続けたり、何かをし続けるというのは僕の性に合っている。これなら先に進めそうだ。
「おーい、坊何やってる!?早くこっちにこい!仕事始めるぞ!」
「今行くからちょっと待ってて!」
まずはこのお手伝いを終わらせないとその一歩すら踏み出せないな。今僕がやるべきことは、ガレ爺のお手伝い、盾攻撃の練習、それと少し忘れていたけどステータスを伸ばす特訓。これらを終わらせる。話はそれからだ!