それは幸か不幸か
不器用だ。
小学生の僕が若くして悟った己の性質である。
それは明確だった。大半の生徒にできることが僕にはできなかった。そしてその結果、僕は仲間はずれにされていた。
誰にでもできることができない僕は子供の中ではひどく浮いていたのだろう。異物と言ってもいいのかもしれない。子供達の輪の中で僕は異物だった。子供は無邪気に悪意を振りまく。異物を排除しようと追い詰めいていった。
今思い返すとあれはいじめだったと断言できる。よく不登校にならなかったものだ。ただ当時の僕にはそれが理解できなかった。いじめられていると理解できず、なぜか周りから嫌なことをされていた。
周りと同じことができない自分は輪に溶け込めないのだと気付いたのは中学校に入ってからだった。しかし気付いたとしてもできないものはできなかった。それでも諦められなかった僕はあらゆることをただひたすらにやり続け努力を重ねた。いや、諦めることすらもできなかっただけなのかもしれない。スポーツ。勉強。音楽。etc...。
大半のことはいつどこでもやり続けることはできない。やり続けなければ結果を出すことは出来なかった。しかしその中で努力に答えてくれるものがあった。
勉強だ。
勉強は時間があり紙とペンがあればやり続けられる。そして結果は数値として明確に表してくれる。僕の努力に答えてくれることがただただ嬉しくて僕はひたすらに努力していた。
中学2年生の後期期末テストで僕は学年トップに躍り出ていた。
別に1番になりたかったわけではない。しかし気が着いた時にはそうなっていた。そして気がついたのもクラスメイトにおめでとうと言われた瞬間からだった。
何かが変わったわけでわない。でもはみ出しものだった僕にクラスの中で居場所ができた気がした。
人より何倍も努力を重ねることでようやく僕は他人と同じ場所に立てる。でも僕はその努力が嫌いじゃなかった。努力が生み出す結果はどのようなものでも嬉しかった、楽しかった。
それからは色々なことに挑戦した。しかし結果は以前と一緒。いつどこでもやり続けられるものは多くない。それでも努力したという結果が楽しくて時間がある時には色々なことをしていた。
その中で僕がゲームに行き着いたのは必然なのだろう。ゲームもまた、時間さえあればやり続けることができた。そしてそれは結果に表れ、その結果を楽しむようにのめり込んでいった。
時は流れ高校生になった頃、僕は普通の高校生になれていた。陰と言われるほど交友関係がないわけでなく、陽と言われるほどクラスに馴染めていたわけでもない。まさに普通の高校生だった。
ある時奇妙なゲームが発表された。
lord of fairytale
今まで架空とされていた、フルダイブ型VRゲームがついに実現したらしい。
ただSFのようにヘルメットだけではなく、酸素カプセルのように巨大なハードの中に入ることで神経とゲームを接続するらしい。
しかしそんな巨大な精密機械など個人で所有しようと思うと莫大なお金が必要となる。発表された直後はその金額の高さとぱっと出の新興企業という信頼性の無さにより人々に全く相手にされなかった。
ただ次の発表でしれまでの流れが180度変わった。
なんとネット上で希望者を募り抽選によって先着2万人にハードをプレゼントするという。ここがなんとも奇妙なゲームと言われる所以である。開発には大金が動いていながらそのお金を回収するハードをばらまくという。もちろんハードだけでソフトは購入する必要がある。
企業発表では、全く売上が出ていない苦肉の策と発表しているがそれでこの結果もどうなのだろう。2万本のソフトの売り上げが確定するとはいえ、それから配ったハード代を取り戻す見込みはあるのだろうか。
様々な憶測が飛びあっていた。
政府がスポンサーでお金には困っていない。VR技術の発展に貢献するためだ。別の目的で販売予定なのかも。
結果的に人々の関心を買い連日ニュースで報道され、学校でも皆が口をひらけばその話題を口にした。今考えれば怪しいことこの上ないが、僕は流れに身を任せそのまま応募した。
そして僕は今遺跡のような古びた建造物の中、巨大な門の前に立っている。
簡単にいってしまえば幸運にも抽選に当たったのだ。そして購入したソフトを使ってゲームの中にいる。
始まりの街を出てなんやかんやあった結果やっとこの第一階層のフロアボスの入り口を前に立っている。しかしここで一つの問題に直面していた。
不器用な僕はパーティープレイができない。パーティーに入れなければレイドを組めない。レイドが組めなければレイドボスを倒すのは困難と言えるだろう。
今までもこういう経験はあった。ゲームをしていればいつもこの問題に阻まれる。いつも通り挑戦はした。そしてできるようになるまで頑張ればいつかはできるようになってたのだろう。ただできるまで付き合ってくれるパーティーを見つけることができなかった。
結局いつもソロでプレイしレイドボス直前まで遊び、勝つ努力をする。
あーあ。今日も勝てなかったな。そういってログアウトしていたのだろう。
このゲームがログアウト不可のデスゲームでなかったのなら。
あの日、あの時、このゲームが当たったのは幸運ではなく不幸だった。そしてまんまとプレイした僕はそのままゲームに閉じ込められた。
今ボスを前に過去のことを思い出すのはなぜだろうか。今までなし得なかったことに挑戦する高揚感?死ぬかもしれない恐怖?もしかしたらこれは走馬灯というものかもしれない。絶対的な死を前に過去を振り帰るのも乙というものだ。
まずはこれまで僕がこのゲームで経験したなんやかんやの話をしよう。
主人公の名前は出さない方針にしました。なんかその方が斬新で面白いかなって。でも呼び名がないとキャラが安定しなくてふわふわしてしまうので、「少年」と呼んであげてください。