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7.それで私は会社を辞めました。

「楽しみ~」


 ヨウの運転する車の助手席で、わさびがはしゃぐ。


 今、ヨウとわさびは、青空市のいちご狩りに向かっているところだ。


 なぜ青空市?なぜいちご狩り?の問いに答えるためには、カラオケボックス会談の後を少しだけ語らなければならない。



 *****

 1ヶ月前


 カラオケボックスの出会いから、すぐにヨウは会社を辞めた。

 わさびに、会社を辞めろと言われたからだ。彼女が言うには、それも神じいさんからのお告げとのこと。


 サラリーマン生活にもほとほと疲れていたし、新しい未来にかけてみようと考えたヨウは、自分でもビックリするぐらいあっさりと退職を決断した。


 同期入社で上司の平岡が、ヨウのことをとても心配してくれたが、最後には背中を押してくれた。

 ただ、平岡と飲みながら相談している時にわさびが来たので、2人で駆け落ちでもするんだと勘違いしているようだ。わさびは、美味いもん食いたかっただけだし、俺は新しい未来にかけるとしか言わなかったせいかもしれない。

 会社の去り際に、「結婚式には呼んでくれよ」とこっそり言われた。(あれ?勘違いさせちゃった?)

と、とにかく、急な退職で迷惑だっただろうに………。平岡はいいやつだ。


 あと、わさびがヨウのアパートに住むことになった。派遣切りで寮を追い出されたらしい。

 そんな仕打ち労基署に怒られるぞ!やっぱりブラックだったんだろうな。神じいさん、ぐっじょぶだよ。

 さてさて、共同生活の夜は………。

わさびがベッドに寝て、ヨウは床の上で毛布をかぶる。実に健全です。


 会社を辞めてからは、わさびの言いなりで動き回る日々だ。

 一緒に暮らし始めて分かったが、うちの敏腕マネージャーはとっても食いしん坊だ。あと、遊園地の絶叫マシンが大好きだ。


 敏腕マネージャーはいつも、「これはヒントだ!」と突然宣言する。美味しそうな定食屋か遊園地ばかりだけれど、私情は入っていないと信じよう………。まぁ、場違いなおしゃれカフェ巡りとかではないし、俺も楽しんでるからいいかな。

 2人の姿は、まさにデート。

さすがに手をつないだりするわけじゃなので、ラブラブカップルのようにはいかないけど、わさびが心底楽しんでいるのが分かる。ご飯も嬉しそうに食べている。

 前の男に金をむしられ、あんまり美味いもん食ってなかったのかもしれない。遊園地もめちゃくちゃ楽しんでるし、男運が悪かったんだろうな。


 仕方ない、絶叫マシンは正直苦手だけど、付き合ってやるかな。


 ヨウは、しばらくわさびの自由にさせてあげることにした。貯金や退職金があるから、1年くらいはどうにかなるといえばなる。

 1年以内になんとかしないとな。と、密かにヨウは気を引き締めつつ、わさびの無茶ぶりに心を踊らせる日々を送ってきた。


 そして今日、ここ青空市を訪れている。


 先週のことだ。これまたわさびの提案で、新大久保にチーズダッカルビを食べに行った。

 ヨウは、マッコリを飲んでほろ酔い気分で新大久保の駅を歩いていたのだが、急にわさびに腕をつかまれ、とあるポスターの前に連れていかれた。


「ヨウ、ここに行くよ!」


 それが、青空市いちご農園のポスターだった。


 *****


「ヨ~ォ~。まだ着かないの~?」


「あと30分くらいのはずだよ。」


 最近あまり使っていなかったヨウのおんぼろ軽自動車は、わさびと出会ってからというもの大活躍である。

 ただ、カーナビの地図が10年前のものなので新しい道が載っていない。今も地図上の道なき山の中を爆走している。30分で到着は勘だ。


「景色がきれいじゃん。ほら見なよ、青空湖が見えるよ。」


「もう見飽きた~。ハラヘリ~。いちご~。」


 これで今日はお休みなんて結末だったら、わさびさん大暴れだな………。お願いだ、青空いちご農園さん、営業していてくれ。


 ヨウの心配を他所に、10分ほとでいちご農園に到着したし、ちゃんと営業していた。

 今日は平日なので、ちらほらとカップルの姿があるものの人は少ない。


「これなら、のんびりできそうだね。」


 ヨウが話かけるが、わさびの意識はビニールハウスの中にあるから聞いちゃいない。


「私の狙いは青空ベリーだからね。スーパーで買うと6個で900円もするんだよ。」


 うへ~。高級品だなぁ。


 農園のおばちゃんに聞いたら、青空ベリーは1人5個までにしとくれと言われたので、俺の4個をわさびにあげた。1個食べたけど、確かに甘くて美味しかった。


 しばらく、わさびといちご狩りを楽しんでいたが、いつまでもわさびが食べ終わらないので、ヨウはハウスから出てベンチに座って青空湖を眺めることにした。


 いいところだな。

こういうところで人生やり直したいもんだ。

過疎が進みつつある、この青空市から世界を面白くするってのも面白い。


 などと考えていると、意外に早くわさびがハウスから出てきた。


「ヨウ、今日はこのホテル泊まるよ。」


「姫様、いつも急ですね~。どれどれ。」


 ヨウは、わさびから土で汚れたホテルの名刺を手渡された。ハウスの中に落ちていたんだろう。


「ヒントを見つけたよ。今が壁を破る時だと思う。」


 名刺には、Aozora Luxury Interactive Comfortable Elegant Hotelと書いてある。


 青空市の、Luxury(贅沢に)、 Interactive(交流する)、Comfortable(快適で)、Elegant(上品な)、ホテルって感じかな。むちゃくちゃなコンセプトだ。


 これ、普通のホテルか?

名前的に高速道路のインターチェンジとかにあるホテルっぽいな………。


「とりあえず、行ってみるか。って、あれ?」


 わさびの姿はもうそこにはなく、いちご直売所でお土産のいちごを抱えながら、おばちゃんと仲良く話をしていた。


 まぁいいや。とりあえず電話してみるか。

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