42.夢の具体化 2
「高崎登、通称”テン”。登って漢字は”トウ”とも読むだろ?だから、数字で言えば10だ。つまりは”テン”となるわけだ。」
カフェテラスで、イレさんが”テン”について語り始めた。
「それって、重市は、”ジュウイチ”だから”イレブン”と同じですね。」
「そうだ!分かりやすいだろ。10と11。」
「そのルールで言えば、俺の八は、”ハチ”だから”エイト”ですね。」
「ヨウは、ヨウだな。今さら”エイト”なんてピンとこねぇな。」
確かに、俺の容姿で”エイト”。
ダサい気がする……。
「ところで、何でこんなのがあるんだ?」
イレさんが競馬ポスターを手に取って、何やら考えこんでいる。
「何でですかね~。でも、”テン”……さんの謎は少し分かりました。」
「謎?」
ヨウから”テン”についての話題が出ると思っていなかったので、イレさんは不思議そうにヨウを見る。心なしか、その目には警戒の色も見える。
「実は……、祭りの夜に電話がかかってきて………、で、駅がどうとか、ホテルがどうとか……………………。」
イレさんは目をつぶりながら話を聞いた後、ヨウに命令を下した。
「よし、ヨウは次の日曜日は試合やめて、競馬に行ってこい。次はベリーズの出番だから行けるだろ。」
「競馬って、夢中競馬場ですか?」
「それは分かんねぇ。テンの馬が出る競馬場に行けば、テンが馬主席にいるかもしれねぇ。」
「テンさんを探せですね。イレさんが電話したら会えるんじゃないですか?」
「連絡先知らないんだよ。あいつ変わってんだよ。」
「変わってんだよって、なんか大変なことになる予感しかしませんが……。それで、テンさんに会う目的はなんですか?」
「俺たちの夢に仲間入りしてもらうのさ。あいつ金持ってるし。」
*****
「テンさんを探せか。」
わさびがつぶやく。
今日の夜も、3人はビーズクッションに埋もれておうち会議を始める。相変わらず、女子2人はドラマ観てスマホいじりながら、ヨウに話しかけてくる。
「で、テンさんの馬はどこで走るっすか?」
「大阪競馬場に出るみたいだよ。調べたら、ホントに出てくるんだよ”高崎登”。ネット通販でものすごい富を築いたらしいよ。」
「なんて通販っすか?」
「『アオソラ』って言うらしいよ。」
「『アオソラ』!!アパレル通販の大手っす。私のこの服も『アオソラ』で買ったっす!」
「有名だよね。イレさんの知り合いってことだから、たぶんこの町出身なんだろうね。『アオソラ』は、青空市と関係あったってことだね。」
わさびが今までの話を分析してまとめる。
「な、なんと。それはびっくりっす。」
この推測はおそらくら正しい。そう考えれば、青空市出身者が花火大会に来ていても不思議ではない。テンさんは、ヨウを見つけて電話したり、食べ歩きセットにイタズラしていったんだろう。イレさんは変わってると言っていたけれど、かなりの変人の予感で満載だ。
「それにしても大阪か~。たこ焼き食べたいなぁ。」
わさびは意外に食いしん坊だ。
「いいっすね。私も行きたいっす!!!!」
夏海が連れてけと、にじり寄ってくる。
「でも残念~。ヨウ、『夢中競馬場』に行きなさい!!」
夏海の思いも空しく、わさびの容赦ない司令が下った。
「なんでっすか?テンさんは、馬主席にいると思うっす。」
夏海にしては珍しく、わさびの命令に食い下がる。よっぽど、たこ焼きが食べたいのか。
「なんで……。勘よ。」
ヨウも夏海も、わさびの勘と言われては反論もできない。これまでずっとわさびと過ごしてきた2人には、わさびの勘がバカにできないことを良く理解していた。
「じゃ、じゃぁ、『夢中競馬場』に行ってくるか。」
*****
ヨウは『夢中競馬場』に向かって車を走らせる。
『あ!東京スタジアムが見えたっす!!』
空耳で夏海の声が聞こえてきたが、残念ながら車内にはヨウしかいない。さびしく1人旅だ。
おうち会議で、夏海は大阪に行きたがったが、本当はどこで良いから3人で旅行に行きたかったみたいだ。ヨウも2人を連れてきてあげたかったが、花火大会が終わったばかりで平常運転に戻るまではダメとわさびに却下されてしまった。
最近、働くづくめだったし、落ち着いたら2人を旅行に連れて行ってあげよう。
さて、『夢中競馬場』は、東京にある。
東京と言っても、都心から少し離れた川沿いの平野部に建てられている。先ほど夏海の空耳が聞こえてきたように、近くには『東京スタジアム』や競艇場、競輪場などがあり、とっても閑静なエリアだ。
ヨウは横浜に住んでいたから、何度か『東京スタジアム』にJリーグの試合を観に来たことがあったので少しだけ土地勘はあるが『夢中競馬場』に来るのは初めてだった。
『東京スタジアム』の横を通り抜け、川沿いに車を走らせて行くと大きな橋にたどり着いた。
「この橋を渡れば目的地だな。」
信号待ちをしながら、ヨウがつぶやく。
やがて信号が変わり、車を発進させ、橋を渡っていくと突然目の前に巨大な建造物が現れた。。
「お?お、オォォォォ!!でっけ~!なんじゃこりゃ~。」
そう、これが『夢中競馬場』だ。
「す、すげ~。こんなにデカいとは……。わさびとなっちゃんも連れて来たかったなぁ。」
たどり着いた競馬場に度肝を抜かれつつ、ヨウは駐車場に車を停めた。
*****
午前9時30分、ようやく競馬場の入場ゲートに到着した。入口付近には、新聞を売っている露天がいくつか商売をしている。
わ、わかんねぇ……。まずは、あのおばちゃんにいろいろ聞いてみよう。
「こ、こんちは~。」
正直ヨウには、競馬場に入るのに、この入場ゲートで良いのかも分からなかったので、たまたま近くにいる新聞販売のおばちゃんに声をかけてみた。服装はド派手なピンクのフリフリで、周囲からもめちゃくちゃ目立つピンクおばちゃんだ。
「まいど~。どれにするさ。」
う、競馬新聞っていろいろあるのか?
「えっと、初めてなんで、分かりやすいのください。」
「お兄さん、初めてなんかい。いいねぇ、楽しんでいくといいさ。じゃ、これがいいさ、500円さ。」
ピンクおばちゃんは、競馬新聞を選んで渡してくれた。
この新聞に500円?た、高っけ~。ペラペラじゃん……。
とにかく、せっかくだから記念に買っておこうと500円を払う。今日はテンさんを見つけるだけだから、ギャンブルはやらない予定ではあるが記念だ。
「はい。おまけに赤えんぴつさ!」
お~、これが有名な赤えんぴつですか。耳にさすやつね!
無駄にテンションを上げつつ、情報収集を続ける。
「あの~。で、どうやって中に入るの?」
「あらま、ホントに初めてさ。あそこ見んさい、券売機があるさ。あそこで券買うさ。200円さ。」
「なるほど~。おばちゃん、ありがと!」
「お兄さん、たぶんまたココに来るさ。おばちゃん、待ってるさ。」
……?よく分かんないけど、いろいろありがたい。テンさんに持ってきたお土産のブルーベリータルトをピンクおばちゃんにおすそ分けして、バイバイしてから入場した。
*****
ようやく入場できたが、中に入ってみると……。
ひ、広すぎる……。どうなってんだ?どこもかしこも人人人、馬券馬券馬券。馬主はどこにいるんだ??とにかく、地図だ地図。
地図は意外に簡単に手に入った。とにかく、そこら中に地図やら、ガイドやら、馬券を買う用紙やらが置いてある。床には、いらなくなったからだろうか?競馬新聞やら、吸殻やら、なんやらが自然に捨てられ散乱している。
汚いなぁと思って見ていると、緑の服を着たじいさんがやって来て、ガシガシと拾って片付けていく。
「こりゃカオスだ。『まちカフェあおい』とまったく反対のコンセプトだよ。”好き放題やっていいっすよ、まかせとけ!”が、ここのルールかな?いや、これはこれですごい。」
ヨウが夢みた『まちカフェ』の構想からすると正反対だし、あまりにも無秩序なのだが、不思議なことに嫌な気持ちになることはなかった。むしろ、感心してしまった。
「さて、馬主席に行かないと」
ヨウは、場内案内図片手に歩き始めた。




