41.夢の具体化 1
「「「疲れた~」」」
花火大会が終わり社宅に帰り着いた時には、すでに時計は0時を回っていた。ヨウ、わさび、夏海の3人は、ぐったりとビーズクッションに埋もれる。
「花火綺麗だったっす。」
夏海が天井を見上げながら、しみじみと呟く。
「ヨウは酔っぱらいだけどね。」
「うぐぐ……。確かに、終盤は楽しくお酒飲んでただけだ。」
「そう言えば、仕事中にヨウさんを見かけなかったっす。ちゃんと仕事してたっすか?」
「し、してたよ!!なっちゃんがビール運んでるの見てたよ。」
「じゃあ、手伝って欲しかったっす。超忙しかったっす。まぁ、勇気を捕まえてこき使ったから、なんとかなったんすけど。」
「あ~、勇気捕まえた時ね。そう言えば、ちょうどその時、電話がいっぱいかかってきたんだよな~。それも同じやつから……。」
「どんな電話っすか?」
「えっとさ。
最初の電話は確か『庭園内に駅はないのか?』
2回目は『庭園内で泊まる場所はどこだ?』
3回目は『いま、ブルーズは何ポイントだ?』
そんな内容で10回くらいかかってきたかな……。
何回切ってもかかって来るんだよ。」
「意味がわからないっす。ってか、きもちわる。」
「だろ。どういうことですか?って聞いたら『あれ?間違えた?』的なこと言いながら切られるんだ。で、またかかってくる。」
「着拒して、手伝って欲しかったっす。」
夏海が口を尖らせる。
「いや……なんか気になっちゃって。」
「で、誰からの電話だったの?」
「それがさ、えっと。そうそう、テンって言ってた。」
「知ってるの?」
「知らないよ。」
「「………………。」」
「もう!ヨウが変な話するから、モヤモヤするじゃない。せっかく今日は大成功だったのに。」
「そうっす!ヨウさん、ちゃんとするっす。」
みんなひどい。
「と、とりあえず。天ぷらいっぱい持ち帰ってきたから食べよう。今日くらい夜に食っても許してもらおう。……ん?」
巾着袋から『食べ歩きセット』を取り出そうとしたが、巾着袋の中からは丸められた紙くずが大量に出てきた。
「あ、あれ?天ぷらは~!?」
「わさびさん、この男はやめた方がいいっす。」
夏海が紙くずを拾い、わさびに見せる。
「ほんとね。」
いつの間にか、ヨウの巾着袋には『夢中競馬場 夏競馬』のポスターが大量に入っていた。
*****
月曜日、いつものように朝礼を終えたヨウは社長室に向かう。
「今日はきついなぁ~。」
土曜の花火大会では、接待と称して少々飲みすぎてしまったヨウだが、休んでいる暇はない。
コンコンコン……ガチャ
「おはようございます。」
「お~、ヨウ、お疲れさん。庭園は片付いたか?」
「昨日、1日でかなり片付きました。みんな手際がいいですね。」
「そりゃあそうだ。それで飯食ってんだ。あれくらいやってくれなきゃ、すぐに会社が潰れちまう。」
「いや~、働くって大変ですね~。」
「なにをしみじみと語ってやがる。お前だって、エリートサラリーマン様やって飯食ってたんだろ?」
「会社が大きかったですからね。ただ、言われたことを必死でこなすだけでした。俺が仕事を終わらせたって、特に何も変わらない。けど、給料もらえる。最後の方は、なんか歯車の一部と割り切ってやってました。」
「は、羨ましいね。こっちは汗まみれになっても、ハッタリ電機さんみたいに稼げない。ホワイトカラー様が羨ましいよ。でも、俺たちみたいな脳みそじゃぁ無理だしな。そもそも机の前に1時間と座っていらんねぇ。適材適所ってやつなんじゃねぇか?」
イレさんのおかげで、今の仕事を経験できた。
世間一般には、前の会社の方が立派とか言われるけど、俺にはこの会社が合ってるな。
つくづくそう思う。
「ところで、今日は相談があります。午後、お時間ありますか?」
「今日も暇だよ~。」
いつものイレさん節が炸裂する。
「あ、ありがとうございます。じゃぁ、昼に来ます。」
ヨウは、仕事の割り振りも担当している。土日に花火大会でがっつり働いてもらったので、今日の仕事は半ドンと決めてある。職人達は道具の整備や片付け、サカつくメンバーはミーティングをして解散の予定だ。
ヨウは、イレさんとの約束を取り付け、クラブハウスに向かった。
*****
午後、ヨウとイレさんは、『まちカフェあおい』のテラス席でのんびりコーヒを飲みながら庭園を眺めている。
今日のカフェは休みだが、花火大会の打ち上げをここでやる予定なので、わさびと夏海、ユミがせっせと準備を進めている。なぜか、もんちゃんもいるのだが、花用ショーケースの手入れをしに来てくれたらしい。
「で?なんの相談だ?」
イレさんが椅子に思いっきりもたれかかって、あくびをしながらヨウに問いかける。
「これから、どうしましょうか。」
「どうにかしろや。」
はい、相談終了~。
……………………。
沈黙が続く。
「お前さ~、とりあえず、なんでもいいから答え持って来いよ~。よし、いま考えてる構想言ってみろや。」
………………………。
「えっと……。未来が監督になる時に言ってた、ユースで芽が出ない子達をさっさと集めようかと。」
「じゃぁ、すぐに集めよう。」
「いや、まぁ、そうなんですけど……。」
「なんか悩んでんのか?未来の言う通り、有望選手を集めないといけないのは事実だ。3年以内、天皇杯&J1制覇を掲げてんだ。少しでも早くチームを形にした方がいいに決まってる。」
「なんか引っかかるんですよね……。」
「ふ~ん。」
イレさんは、それ以上ヨウを急かすことなく、のんびりとコーヒーを飲んでいたのだが、ある物に目が止まったようだ。
「なんで、こんなもんがあるんだ?」
ヨウも目を移すと、メニューの中に『夢中競馬場 夏競馬』のポスターが入っていた。
わさびが入れたな。何考えてんだ?
ヨウが状況を飲み込もうとしていると、イレさんが少し前のめりに話しかけてくる。
「ヨウ。この写真の馬な、俺のダチの馬だ。テンってやつが馬主やってる馬なんだけどさ。めちゃくちゃ強えらしいぜ。こいつ、めちゃくちゃ金持ちなんだよ。」
あ、ヒント来た。




