4.俺に何ができるんだろう
試合からの帰り道、いろいろと妄想しながら自転車を走らせる。
この能力を使って試合に出たら、得点しまくれるんじゃないのか?
サッカーど素人のヨウだが、かれこ5年もJリーグを観戦している。ゴール前の攻防において、たとえ僅かでも相手より早く反応できるということが、凄まじいアドバンテージになることはよく分かっている。
Jリーガーか………なってみたいな。
ただ、このだらけきった体と年齢(42歳)。未来ボールが見えても、ボールに追い付けないだろう。
そもそも、こんなおっさんを入れてくれるチームなんてあるんだろうか………。
じゃあ、何ができるんだろう。
ギャンブルなんてどうだろうか。
ほんの少し先が分かるなら、麻雀とかポーカーで勝ちまくれるかもしれない。
ただ、未来ボールが見えてから、同じ場所にボールが到達するのに1秒くらいしかなかった。
1秒後の未来をギャンブルに活かせるのか?
おそらく無理な気がする。
だいたい、サッカー以外の未来とか見えるのかな。
ヨウは自転車を止め、こちらに向かってくるバスの未来を見ようとしてみた。
「うわ!」
バスが2台になった。1台は緑色だ。
緑バスと普通バスの時間差は、やはり1秒くらいだった。
す、すげ~
だけど、これはヤバいな。
電車の未来を見て、間違って未来電車に乗ろうとしたら………。日常生活を見るのはやめとこう。
って、やめれるのかな。
ヨウは、日常生活の未来は見たくない!と念じてみると、バスの未来は見えなくなった。
お~、なんかチートノベルに出てくるステータス画面みたいだ。とにかく、見たくないものを選べるのは安心だ。
さてと、このまま帰るのも何だし、バッティングセンターに行くかな。
ヨウは、サッカーはど素人であるものの、学生時代にずっと野球をしていた。
未来ボールの検証には、ちょうど良いだろうと考えバッティングセンターに行くことに決めた。
バッターボックスに立ってれば、ボールは向こうからやって来るし、勝負になるんじゃないかな。とにかく試してみよう。
ヨウは、颯爽と自転車を走らせた。
*****
待ち合い所に置いてある古いアーケードゲーム機の椅子におっさんが座り、野球少年のバッティングを食い入るように見つめている。少年は1人で来ているのか、周りに親らしき人がいないため熱血野球親子のようだ。
おかげで不審者には思われない。
うん、だいたい分かったぞ。
やはり同じような未来ルールだな。
緑がストライクゾーンに来る球。
青がボールになる球。
赤は………
おそらくだが、赤はバッターが得意な球だな。赤色の時はいい音させてるからな。
それにしても、ここまでガイドしてもらえるならば、選球眼だけでも飯が食えるんじゃないか?出塁率100%だぜ。
そんなことを考えていたら、野球少年がボックスから出てきた。
お、空いたか。
せっかくだから、タイミングを覚えたボックスで打とう。球速は110km/h。
さぁ、うまくいくだろうか。
ヨウは、ボックスに備え付けのくたびれた金属バットを手に取り、コインボックスに200円を投入した。
お金を入れると、正面にあるピッチングマシン横の赤いライトが点灯する。ヨウは、慌てて右バッターボックスに立ち、未来ボールとの初対戦に向かった。
ヨウが打席に立つのと同時くらいに、じりじりとピッチングマシンの腕の部分が動きだした。
通常であれば、マシンの動きに合わせてタイミングを取りバットを振り抜く。
今回は、未来ボールがわずかに早く来ることを念頭に置きながらタイミングを取る。
「来た!」
まだピッチングマシンの腕が8割くらいのところで、不意に青いボールが向かって来た。
青色キタ!と思った直後後、バシュっと現実のボールが飛んでくる。
「うわ」
とりあえずバットを振ったものの、スイングは空を切り、ヨウは尻もちをついてしまった。
こ、これはめちゃくちゃ難しいぞ。
とにかく次だ。
「うわぁーーーーー」
200円20球だったが、一度もバットに当てることができなかった。
「おじさん下手くそ。って言うより、なんか変………」
バッティングボックスを出たところで、先ほどの野球少年から素晴らしいお言葉をいただいた。
うん。確かに変だよな。
ヨウは、ふたたびアーケードゲームの椅子に座り、先ほどの打席を振り返ってみる。
そういえば、全部青色の球だったな。ということは、全部ボール球だったということか?
う~ん。と唸りながらボックスに目を向けると、野球少年が打ち始めている。投げ込まれる球は、緑や赤ばかりだ。
少年はなかなかに将来有望のようで、センター方向にきれいなヒット性の当たりを飛ばし続ける。
もしかしたら、こういうことか?
緑が実力的に打てる球。
青が実力的に打てない球。
赤が得意な球。
そう考えると合点がいく。そして、ヨウに来た球は全球青色だった。
や、野球は無理そうだな。
ここで練習を重ねて緑や赤の球を増やしたとして、続けざまに来る未来ボールと現実ボールを把握して打つのは非常に困難だ。
ましてやヨウは、このチート能力を使って人生大逆転なんて考え始めているので、打ち崩すべき相手は当然プロの投手だ。今から練習しても、緑や赤の球が現れるとは到底思えない。
ヨウは、とぼとぼと帰路に着いた。
帰り道、パチンコ屋に行ってみたけど、この能力はなんの役にも立たなかった。
5000円の出費なり。