39.青空湖畔花火大会 1
「もう!ヨウが変なポーズしてるからだよ。」
ベンチに戻ると、文句を言いつつ、わさびがヨウにドリンクを手渡してくれた。
「たはは………。調子に乗りすぎた。」
後半46分、あっという間に同点にされ、試合は1-1の引き分けで終了した。勝っていた試合だけに、わさびが悔しがるのもよく分かる。
少し遅れて、未来がAO大監督との挨拶を終えてベンチに帰ってきた。
「わさびさん、今日の試合どうだった?」
「今日は特に面白かった。みんなカッコよかったよ。」
わさびが言うように、今日の試合は今年一番の好ゲームだった。ここ数年で一番と言ってもいいくらいだ。
「ちくしょ〜。俺もわさびさんにカッコいいって言われて〜。次の試合、ぜってぇ活躍してやるもんね。」
もんちゃんに、やる気の火がついた。
やる気になったのは、もんちゃんだけじゃない。ベリーズ若手の連中が、仲地にあれこれ教えてくれと頭を下げている。これまでブルーズに大きく負け越しているベリーズだが、すぐに調子づくだろう。
撤収準備が終わり、もんちゃんの運転するマイクロバスで会社に帰る。
いつもはイレさんが運転してくれるのだが、今日は『てっぱん』で大切なお客さんの接待があるらしく来ていない。夏海は『てっぱん』の手伝い。アリスは、そのお客さんがアリスホテルに泊まるため、同じく手伝いで来れなかった。
「未来~、最後の得点は狙ってやったのか?」
もんちゃんが、助手席に座る未来に話しかけた。
「分かりました? ヨウさんならできると思って。」
「まじか………あれが狙ってできるなら、ものすごいぞ。」
「ヨウさんは、J1昇格の鍵になりますよ。」
「J、J1昇格!? た、確かに……。
あれを当たり前にやられたら、DFはたまったもんじゃない。チームの得点力は爆発的に上がるな。
でも、J1昇格って……。」
「昇格できますよ!ヨウさんが導いてくれます。」
「ヨウさん大変だな……。」
*****
『ブルーズ』のリーグ戦を終えた8月2週目の土曜日早朝、ヨウとわさび、夏海は『まちカフェあおい』に向かって歩いていた。
「花火楽しみ~。あと、いちご飴買わなくちゃ。」
「今日は楽しんでる暇ないよ。」
「仕事しながらだって花火観れるでしょ!私達には初めての花火大会なんだから、ヨウも楽しみながら仕事しなさい。」
「そうっす。私も楽しみっす。一瞬でもいいから、もんちゃんさんとロマンチックに花火を眺める予定っす。」
今日は、年に1度の『青空湖畔花火大会』が開催される。青空市に移り住んで初めてのビッグイベントなわけで、わさびと2人でいちゃこら花火見物に行きたいところではあるが、そうは問屋が卸さない。
『まちカフェあおい』が管理する『あおい庭園』は、青空湖に面しており、花火を観るために絶好なロケーションにあるらしい。理事会で、この話が議題になり、観覧場所として提供することに決めた。
そのため、今日の営業時間は16時~23時に変更してある。(通常は15時~21時)
入園料は通常通りの1人1000円。入場制限のため、300枚限定の前売りチケットを持っている人しか入れない。本当は入場制限なんてしたくなかったのだが、安全に観覧してもらうためには仕方ない。
7時少し前、ヨウ達は『まちカフェあおい』に到着した。集合は8時なのだが、『あおい庭園』の中では青空商店街を中心にした出店の準備が始まっていた。
「あ!みなさん。おはようございます。」
『まちカフェあおい』には、ユミも来ていた。
「おはようユミちゃん。早いね。」
「おはようございます、ヨウさん。昨日、たくさんのお花を仕入れましたから、心配で早起きしちゃいました。」
カフェの隅にある花用ショーケースは、今日の来客を見込んで色とりどりの花でぎっしり溢れている。浴衣で来るお客さんも多いだろうし、髪飾りのようなアクセサリーとして販売するらしい。
今日は、ヨウやわさびだけでなく、坂本造園にとっても大切な1日となる。
『あおい庭園』は、日本一愛される庭園にする。
坂本造園は、これを約束してしまっているので、会社の総力を上げて対応する。よって、さかつくの練習も休みである。昨日までに庭園の仕上げ、仮設トイレ増設や出店の設営、照明の増設は終わっている。今日は、社員総出で入場者対応や警備、出店の手伝いをする。
主要メンバー(理事会役員)の役割分担は、以下。
・わさびは、『まちカフェあおい』理事長として、
花火観覧イベント事務局を取り仕切る。
・夏海は、出店の全体管理をする。
・ユミも役員なのだが、ユミのお花は『まちカフェ
あおい』の看板であるので、そちらに集中して
もらう。もんちゃんもユミを手伝う。
・アリスには、いつも通り司会をやってもらう。
・イレさんや町、商店街の重鎮である役員達は、
この日のためにいろいろと調整していただいた
ので、今日は来賓としてのんびりしてもらう。
・肝心のヨウは……。
なんでも屋という役割を拝命した。
「何かあったら、ここに電話」の携帯電話を持た
されている。
「何かあったら、イベント事務局に連絡じゃない
のかよ!」とわさびに訴えたが聞き入れてもらえ
なかった。
そんなこんなで、朝からバタバタと走り回っているうちに、あっという間に16時がやって来た。
前売りチケットを持つお客さんに、順番に『食べ歩きセット 19.01花火大会限定バージョン』を手渡す。お客さんは、続々と『まちカフェあおい』に入店し、緑が映える『あおい庭園』に向かって行く。
*****
「みなさ~ん~。今日は、ご来場ありがとうございました~。前売りチケットの注意書きにもありますが、くれぐれもゴミを出さないようにお願いします~。」
アリスが『まちカフェあおい』のテラスに作った司会席に立ち、注意事項を告げる。坂本造園社員達も、入場に際して強くお願いしているし、今日はこれを徹底していこうと決めている。持ってきてしまったお弁当などは、『食べ歩きセット』に移してもらうことにした。理解してもらうのは難しいだろうが、とにかく浸透させないといけない。
「それでは、みなさん~。今日は、いっぱい楽しんでいってください~。」
こうして、忙しくも楽しいイベントが始まった。




