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38.俺達はやれる

「きついな〜。」


 真が走り去り、1人になったヨウがつぶやく。


 周りを見渡してみると、流れを取り戻そうと仲地が必死でチームに指示を出している。みんなヨウと同じようにしんどそうだ。

 まだ後半20分にもなっていない。このまま試合を続けても、勝利どころか引き分けすらも危うい。


「ヨウさん、ベンチ見ちゃだめだよ!!」


 未来が駆け寄り声をかけてきた。


「え?俺、ベンチ見てた?」


 はぁはぁ肩で息をしながらヨウが答える。


「見てたよ。泣きを入れても誰も助けてくれないよ。ってか、助けないよう、()()()()に頼んであるんだ。」


「まじか〜。」


「ヨウさん。こうやって、ぎりぎりの戦いに身をおけるなんてラッキーだよ。普通、交代させられちゃうもん。とにかく楽しんでやろうよ。」


「いや、気持ち的には、ものすごく充実してるんだよ。」


「残念ながら、体は泣きを入れてるみたいだね。スタミナもガッツも足りないね!ブルーズのみんなを見てよ。みんなきついはずだけど、楽しそうでしょ。ガッツでスタミナを補ってるんだよ。

 こういう場面を乗り越える力があるから、ベテランになってもサッカー選手やれてるんだと思うんだ。ヨウさんの体にも今日を乗り越えてもらうよ。さ、行こう!」


 イレさんに負けず劣らず無茶ぶりだな〜。

でも、なぜだか気力が充実して、心なし体が動くようになった気がする。未来のチカラはすごい。


 試合は、ブルーズがボールを回しながらペースを取り戻そうとするが、気づけばAO大にボールを奪われてしまう。ブルーズは、防戦一方で、とにかく必死にボールを外に蹴り出すことしかできない。まだやっと後半30分になったところだ。あと15分もある。今のブルーズには、とてつもなく長い。


 一方、AO大も焦り始めている。

明らかにAO大ペースで試合が進んでいるが、攻め切れないのだ。


 緊迫した試合が続く中、ようやくボールがタッチラインを割った。このタイミングで、両チームの選手が時間をかけて水分補給をする。


 ヨウもスポーツドリンクにムシャぶりついていると、未来が声をかけてきた。


「ヨウさん、センターライン付近の左スペース。ヨウさんなら、あそこでボール取れる。いいタイミングであそこに走って。」


「え?どんな場面で取るの?タイミングはどうやって分かるの?」


「ヨウさんはちゃんと気づいてるはずだよ。」


 未来はニコッと笑って自分のポジションに戻る。走っていく未来は、ぷらぷらとサインするような素振りをヨウに見せる。


 あ~〜〜〜〜。初戦に気づいた、AO大GKからの5番(宮本)ダッシュのサインプレーか!!


 後半38分


 ブルーズはもうフラフラだ。残りはあと7分。

ここまで、未来の指示によって誰一人交代することはなかった。


 ヨウも未来ボールを追いかけるが、正直、ボールの行方が分かっていても追いつけない。そんなヨウの様子をみて、AO大のチェックが緩くなっていた。


『ヨウさん、今だ!!』


 またあの声が聞こえた。これはきっと未来のチカラだな。で、まだ、ボール右サイドにあるけど?


 振り返ると、AO大GKがサインする姿が見えた。


 これが未来の言いたかったこと。

AO大GK東出と5番の宮本は、ここぞという時にサインプレーをする。狙ってくる場所は、未来を信じれば大丈夫だろう!


 ヨウがどたどた走って行くと、左サイドに宮本が走り込んできた。ちょうど未来に指示された場所だ。


 ヨウがたどり着いたとほぼ同時に、真からロングパスが飛んできた。宮本がボールをトラップし前を向こうとした瞬間、ヨウがボールを奪い取った。未来ボールが見えるヨウは、1対1でめっぽう強い。

 あまりにもあっさりとボールを奪われ、宮本は涙目になっている。宮本はさかつく戦で、散々な目にあっている。かわいそうに…。


 さて、ボールを奪ったが、ヨウには一切キープ力がないので、すぐさま仲地にパスし、未来に言われたようにがむしゃらにゴール前に向かっていくことにした。


 ゴール前に来るヨウに、なんとか気を取り直した宮本が追いつきしっかりとマークについた。


 ヨウの足は遅いので、まだまだゴール前にたどり着かないが、ボールは最前線のFW中山のところまで運ばれている。


 ただし、ゴール前にAO大DFラミルと真がいて攻めきれないため、中山はいったん未来にボールを預ける。


 ようやくヨウが追いついた。


 未来がヨウの裏の位置にボールを出す構えをすると、宮本がカットインしようと動き出す。


 その時…


 未来が、ヨウの裏の位置めがけて強烈なボールを蹴った。放たれたボールは、カットインしようとスペースを埋めた宮本の背中に当たり、勢いよくゴールマウス枠内に向きを変えて転がっていった。


 ブルーズの得点チャンス!!

GKがこぼれたボールに反応しているが、ボールはいいところに転がっている。


 どうなる?


 全員が息を呑む。




 あぁ、だめか………。


 ぎりぎりだが、GK東出の手が届きそうだ。ブルーズメンバーがカウンターに備えようとしたその時、


 パシーン


 DFの裏に走りこんでいるはずのヨウが、こぼれたボールをゴールに蹴りこんだ。



 パ…サ…………


 ゴーーーーーーーーーール!!!!!


 足のどこに当てて蹴ったんだか、まったくボールの芯を捉えてないシュートがゴールネットに弱々しく触れた。



 オォォォォォ!!!!!



 ヨウは、ふらふらしながらも、決めていたゴールパフォーマンスをわさびに向けてやってみた。膝立ちで、弓をいるポーズだ。ハート射抜きますって感じだろうか。



「ヨウさん………『ふふ、決まったぜ』って顔してるな………。」


 ベンチのもんちゃんがつぶやくと、わさびが「さぶ………」と震え始めた。


 ヨウさん、かわいそうに。



 前半41分、坂本造園 松本のゴール

 さかつく 1-0 AO大


 ピピーーーーーッ


 ザワザワした中、試合再開。あと5分も耐えきれば勝てるだろう。ブルーズメンバーの顔は明るい。

ボールを回しつつ、野村がボールを受けた際、強めに寄せられたので、大きく、大雑把にAO大サイドにボールをクリアした。


 後半46分


 AO大GK東出が、自陣に転がってきたクリアボールを迷わず前線に蹴り出した。そこには、これまた狙いすましたように宮本が走りこんで来てセンタリングを上げる。


 ばしゅ


 ラミルが完全にフリーな形でヘディングシュートを決めた。


 あぁ………。

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