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37.ブルーズの奮闘

 ピーーーーー


 さかつくのキックオフで試合が始まった。


 ブルーベリー戦で連勝を重ねてきたように、それぞれがポジションを守りながらボールを回す。途中、いくどもボールを奪われるが、確実に数的優位を維持しながら敵襲の芽を積んでいく。ブルーズには派手さこそないが、堅実なゲームメイクにAO大もやりにくそうにしているのが分かる。


 前半13分


 AO大のパス回しが若干ズレた。

ヨウが未来ボールでいち早く反応しインターセプト。すぐさまMF未来にボール預け、全員でラインを押し上げる。

 未来は、ゴール前中央辺りでAO大DF陣をひきつけながらボールをキープしFWのバイタルエリア侵入体制が整う時間を稼ぐ。

 数秒後、FW中山がAO大DFの裏に走る準備が整ったところで、未来からの鋭いパスがゴール前に供給された。


 中山は、完璧なタイミングでフリーな状況を作りあげることができた。彼がボールを足元に収めた時、AO大DFラミルがかろうじてゴール前に1人残っていたが状況は中山に有利だ。ラミルは、なんとかシュートコースを消そうと体を投げ出してきた。


 トン


 そんなゴール前の必死なアタックに一瞥することもなく、中山は裏スペースに走ってきたヨウに向かってボールを蹴り込んだ。あとはヨウがゴールに流し込むだけだ。


 オォォォォォ


 決定機に観客もどよめく。


 バシュー 


 アァァァァァ


 残念ながら、ヨウはボールに触ることができなかった。中山からヨウへのラストパスは、ブルーベリー戦でゴールを量産してきた形だ。今回もしっかり反応できていたのだが、AO大DF芦沢真(もん弟)にボールを蹴り出されてしまった。


 ドッサー


 クリアされると思っていなかったため、ヨウは止まりきれずにひっくり返る。ベンチで見守るわさびには、「子供の運動会で足がついていかずに転ぶお父さんみたい」と後で言われた………。


 残念ながら今回はゴールを決めることはできなかったが、良い感じに試合を進めることができている。試合では謎の5mルールはないが、ブルーベリー戦の成果が染み付きつつあるため攻守の切り替えに一貫性が出てきているのだ。



「ヨウさん、やられるところでしたよ。」


 真が、ヨウの手を掴んで立ち上がるのを手伝う。


「あのスピードで反応されたら、俺じゃぁゴール決めらんないね。」



「でしょー!………なんてね。ところで、兄ちゃんはなんで出てないんすか?」


「新監督の方針だよ。っても、監督は試合に出てるから、今日はもんちゃんが監督代行やってるよ。」


「え?新監督?誰?な、なにが起きてるんすか?」


「いろいろとね。俺もしごかれまくってるよ。真もうちに来れば分かるよ。」


「………なんか面白そうだな。」


 そう言って、真は走り去っていった。


 前半は、終始、ブルーズペースで試合が進んだ。何度かAO大得意のカウンターを仕掛けられたが、しっかりとゾーニングを維持することで、危なげなく守りきることができた。


 攻めに関しても、うまくリードできた。だが、どうしてもバイタルエリアに深く侵入することができなかった。結果、優位に攻めたのに、シュート0本で終わってしまった。


 *****

 ハーフタイム


「何人か交代させた方がいいと思うんだけど。特に、ヨウさんは、もう限界だ。」


 もんちゃんが、ベンチに戻ってきた未来に問いかける。


「大丈夫。このままで行きましょう!」


「ポジションチェンジもだめか?」


「もちろんです。そもそも、このチームでそんなことできないですよ。」


 やっぱりか。仕方ねぇな〜とつぶやきつつ、もんちゃんが声を上げる。


「みんな、前半は完全にこっちのペースだった。でも、油断はできないぞ!AO大の連中は、まだまだ体力があり余ってる。とにかく今の形を崩さないように行こう!」


 ぉぉ〜〜〜〜〜〜


 もん監督代行が激を入れたが、なんとも弱々しい掛け声をあげ、各々休憩を取り始めた。


「ヨウさん、やれる?」


 ベンチに座りこむヨウに、もんちゃんが話しかける。


「まぁ、やるけど、みんなに迷惑かけてるなぁ。」


「おじさんにはハードな試合だもんね。でも、ヨウさんは42歳だろ?Jリーガーには、42歳でもバリバリにやってる人もいるからさ。」


「あの人達、みんなバケモンだよ。」


「俺は、ヨウさんもバケモンだと思うよ。たった4ヵ月で、ここまで成長したんだもんね。」


「みんなのおかげだよ………。」


 しばらく遠くを見ていたヨウだが、おもむろに立ち上がる、


「きついけど楽しいよ。うん。よし!やるか!」


 ヨウが気合いを入れ直したところで、そろそろ良い時間になった。


「よっしゃー!AO大倒すぞー!」


 オォォォォォ


 キャプテン仲地が声を出し気合いを入れ直す。いつの間にか、みんなの声にも気合がみなぎっている。そういえば、未来が忙しくみんなに話かけていた。


 さすがは未来だなぁ。


 ヨウは、「きついけど楽しいな〜」とつぶやき、わくわくしながらピッチに向かった。


 *****

 ピーーーーー


 後半開始と同時に、AO大の猛攻が始まった。

サイドチェンジと、SBの度重なる駆け上がりが繰り返され、ブルーズ最大の弱点であるスタミナを執拗に削ってくる。


 後半16分

 

 真が右サイドを駆け上がりボールを受ける。さかつくDFは2人がかりで必死に食らいつく。ヨウもゴールエリア外辺りに立ち、真からのパスが通らないよう警戒する。


 ここで、中央からAO大の大型DFラミルがバイタルエリアに向かって走り込んできた。


「田代、内田、ラミルを抑えろ!」


 キャプテン仲地が叫び、2人の注意が中央に向かう。


 誰もがラミルを警戒し、それぞれポジションを取る。ヨウもフォローをしなくちゃと走りだそうとした瞬間


『左サイド、ちっこいの来てる』


 突然、頭の中に謎の声が聞こえてきた。


 ヨウが、とっさに左サイドに首を向けると、AO大DF宮本が、全速力で駆け上がって来ている。リーグ戦の初戦で、見事にカウンターを決められた小柄な俊足選手だ。


 やばっ


 ヨウは必死にマークに向かうが、追いつける見込みはない。そうこうしている内に右サイドからのクロスがラミルの頭上に向けて放たれた。


 さかつくDFも必死に競り合うが、頭一つ抜け出していたラミルがヘディングで後方にボールを流す。誰もいないエリアにボールは飛んで行くが、そこには宮本が全速力で走りこんで来ている。


 やられた!!


 誰もが思った瞬間、ヨウには宮本から少し離れた場所に転がる青色のボールに気がついた。

 ヨウは、とっさにその場所に向けて必死に足を伸ばす。


 ちょうどそのタイミングで宮本がボールをトラップしたのだが、大きく弾いてしまった。ボールは転々と転がっていく。


「しまっ………」


 宮本が即座にリカバリーしようとするが、そこにはなぜか、ヨウの足が伸ばされていた。


 チッ


 ヨウは、かろうじてつま先で触ることができ、これまた運良くGK西山の守備範囲にボールが転がっていく。


 シュザー


 西山が飛び込み、こぼれたボールの回収に成功した。


「ヨウさんナイス!」


 みんなから声をかけられるが、ヨウはもうバテバテでそれどころではない。もう走りたくないと体が悲鳴をあげている。


 とにかく、致命的なピンチを乗り越えることができた。西山が十分に時間を使いながら、味方の息が整うのを待ち、DF田代にボールを投げ込む。ブルーズは、これまで積み上げてきた経験をフルに使い、なんとか悪い時間帯を断ち切るために慎重にボールを回していく。


「ヨウさん、交代した方が良くないっすか?怪我しちゃいますよ?」


 ハーフライン辺りに戻ったところで、真に話しかけられた。


「はぁ、はぁ、は………。か、替わりたいけど、替われないんだよ………はぁ、はぁ………。」


「え?だって、兄ちゃんだって、勇気だって、まだベンチにいるじゃないっすか。」


「いや、まぁ、あいつら違うチームなんだよ………、はぁ、はぁ………。」


「あぁ、AB分けしたのか。それにしても無茶苦茶な。でも、なんかすごいっすね。『町カフェ』といい、いまのさかつく面白え。」


「………そ、そう思うなら手加減してくれよ、はぁ、はぁ………。」


「全力でいかせてもらいます!」


 こ、このヤロー。


 限界の苦しさの中、もう勘弁してくれと思ったが、不思議とヨウの表情は明るい。こうやって力いっぱいぶつかり合うことに、サラリーマン時代には感じなかった充実感がこみあげているのだった。


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