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31.7月1日

「ま、いろいろあったが、一段落だ。あとは、俺達が『あおい庭園』を日本一の庭にするだけだな。」


 いつもの社長挨拶で、イレさんが話を切り出す。


「ちょっと話を盛りすぎましたかね。」



「盛ったなぁ。あんな発表されちまったら、『あおい庭園』やるしかないじゃねぇか。」


「事前に相談するべきでしたね。すみません。」


「俺が、聞きたくねぇって言ったんだろ!どんなのが来るか楽しみだったんだよ。

 ただ、代表を葵ちゃんにしたのにはマジで驚いた。ヨウ、うちの連中は葵ちゃんのためなら何でもやるぞ。」


「わさびがやりたがったんですよ。みんなは、わさびのこと気づいてるんですか?」


「昔からいる連中は、本名を聞いてすぐに気づいたさ。おかげで、最近のジジ様達のやる気はすごいぜ。なんせ、ジジ様達にとっちゃ恩人の孫娘さんだ。それに、産まれた頃から、会社の庭で可愛がってたお嬢ちゃんだ。いいとこ見せたいんだろう。孫パワーって感じだな。」


「若い子達は知らないですよね?」


「ジジ様達が話しちゃってるよ………。先代はレジェンドなんだよ。こんな田舎町で楽しく仕事やサッカーして暮らせるのは、先代が居場所を作ったからだ。若い連中は、脳ミソはいまいちだが、ハートは真っ直ぐな連中なんだ。ありがたさを自然に理解してんのさ。」


 神じいさん、レジェンドだってさ。すごいじゃん。って、実は、俺も感謝してるんだよね。


「『まちカフェ』については、毎日御用聞きを続けるだけでいい。勝手に成功するさ。むしろ、お前みたいな素人が、変にがんばる方がうまくいかなくなる。」


「おっしゃる通りです………。それで、わさびには、まだ内緒にしておくんですか?」


「あぁ、もうちょっと待ってくれ。うちの連中にも言い聞かせてある。」


「分かりました。では、いつも通りに出かけます。」


 ヨウは日課になったランニング姿で、駅前商店街に向かった。




 *****

「あ、ヨウさん!私、楽しみです。」


 商品の花の手入れをしているユミが駆け寄ってくる。


「どきどきするね。俺は何にもしてないんだけどさ。」


「そんなことないですよ。私、ヨウさんに出会ってから、毎日が楽しくて仕方がないんです。私のアイデアまで実現してもらえて………。」


「お花のアイデアは、ほんと素晴らしいよ。今日は忙しくなること確実だよ。ところで、助っ人の調子はどう?」


「3人共、一生懸命準備してくれています。何から何まで、ありがとうございます。」


 今日は忙しくなりそうだから、勇気ともん兄弟に手伝いを頼んである。勇気と、もん(まこと)を目当てに、女子高生が殺到しそうだ。


「じゃ、がんばってね。」


 ヨウは、事務室にいるわさびのところに向かう。


「わさび、お疲れ様。」


「ついに、この日が来ちゃったね。」


「これから大変だな。」


「まだ始まったばかりだよ。これから、もっと面白くしないと神さまは満足してくれないわ。ちゃんと寄り添ってよね。」


「が、がんばるよ。」


「ま、ヨウのお腹も引っ込んだことだし、ここまではがんばったことにしてあげるわ。」


「ハードル高いなぁ………。」


 相変わらず、わさびには敵わない。


「じゃ、行こう。」


 ヨウとわさびは、オープニングセレモニーに臨んだ。


 *****

「みなさん~。7月1日になりました~。今から『まちカフェあおい』オープニングセレモニーを始めます~。それでは、理事長の本山葵からご挨拶させていただきます~。」


 アリスの司会でオープニングセレモニーが始まった。


 カフェの前に作った、特設ブースの中央にわさびが立つ。まだ9時ということもあり、来場者はそれほど多くはない。開店前に駆けつけてくれた商店街の人達と、庭園を手がけた坂本社員を合わせて100名程度だ。


「みなさん。今日までたくさんの夢を見せていただき、ありがとうございました。今日、その一部が実現します。」


 『おつかれー』と来場者から声が上がる。


「たくさんの夢を一緒に見せていただいたのに、全部を叶えることができなくて申し訳ありません。

 でも、これは私達が夢にたどり着くための一歩目だと思ってください。この一歩を踏み出せたことは、坂本造園にとって語り尽くせないほど大きな一歩です。これから精一杯努力します。どうか、この場所をみなさんの仲間にいれてください。よろしくお願いします。」


 盛大な拍手と共に、『いいぞ~』、『がんばろ~』とみんなが口々に声をかけてくれる。


「それでは~、これから看板を掲げます~。葵さん、どうぞ~。」


 アリスが、手作りの看板をわさびに手渡す。


「この看板は、アリスホテルの看板娘、佐藤アリスちゃんが作ってくれました。ホテルの看板と同じテーストで、とってもおしゃれで、とってもあったかいです。みなさんも、ここを訪れた時は、看板を見上げてくださいね。」


 わさびが語り、店の入口の上に看板を掲げると、もんちゃん達が丁寧に固定した。


「はい!!これで、『まちカフェあおい』オープンです~。楽しい町を作りましょ~。さ~、みんなで写真撮りますから、店の前に集合~~~~~。」


 *****

 11時を回ったところで、ぞくぞくとお客さんがやって来る。女性客が多いのは、女子高生達のSNSの影響だろう。みんな真剣にお花を選んでいる。


 『まちカフェあおい』は、『あおい庭園』への入園口でもある。庭園の広さは、最終的に200mトラックのある学校の校庭と同じくらいになった。これから坂本造園が維持管理していく。


 『あおい庭園』開園にあたり、理事長のわさびは来場者が守るべきルールを1つ定めた。


『ゴミを出さないため、飲食持ち込み禁止』


 そのため、初来場者には『食べ歩きセット19.0(税別1000円)』を買っていただく。食べ歩きセットには、数種類の皿やお椀、はしやフォーク・スプーン、タンブラーなどが入っており、園内の飲食にはこれを利用する。要所要所に洗い場を設けてあるので、洗って繰返し使うことができる。次回以降は、これを持って来れば良いので、初回のみ1000円の入園料となる。

 『食べ歩きセット』には、きんちゃく袋含めて、すべての品に坂本造園の文字と、アリスデザインのかわいい山葵(わさび)のロゴをいれてある。(植物のわさびだよ)


 『まちカフェ』プロジェクトには、いろいろ難題があったが、この『食べ歩きセット製作が一番難航した。検討メンバーは、わさび、アリス、夏海、ユミの4人。特に難題だったのが『持ち運びやすい』こと。適度な大きさ、重さ、そして普段から持ち運びたいと思う機能性やデザイン。


 『食べ歩きセット』には、青空駅前商店街でも積極的に使って欲しいという思いが詰っている。バージョン管理しているので、少しずつ改良していくことを決めた。そのうち、限定バージョンとか出して流行る………なんてことが起きたらいいな、とみんなで語った。


 また、飲食持ち込み禁止はうたっているが、食べ歩きセットの中に入れてあるならOKとしている。

 持ち運び用のタンブラーもあるので、『みのり』でコーヒーを入れてもらったりすれば良い。『みのり』コーヒーは、庭園でも買えるんだけどね。


 若い女性ばかり楽しむ印象だが、園内には、囲碁やら将棋やらできる木陰や、おしゃべりできる芝生広場もある。そういうスペースが欲しいという声に、地元の商店が答えて企画したものだ。ヨウは、いろいろな人達の声を足で拡散し、庭園造りの職人と調整し、実現にこぎつけた。


「ふぃ~。疲れた………。」


 朝から園内を見回り続けたが、気がつけば日も落ちかけている。

 ヨウが高台の木陰に腰をおろすと、わさびが隣に来て座る。


「もうすぐ、夜のお楽しみだね。」


「うまくいくかな~。」


「ま、なんとかなるでしょ。」


 周囲が暗くなるにつれ、ポワーっと足元照明が灯り始める。その中で、一筋の光の道が入口から離れた場所まで続いている。


「ヨウ、綺麗だね。」


「わさびの方が………………あ、うん。」


 わさびに睨まれたけど、本当に思ったんだもん。などと考えていると、突然、光の道の先で鮮やかな光が輝き始める。ヨウがやりたがっていた花火を、カップルや家族連れが楽しんでいるのだ。


「始まったね。綺麗。こうやってみると、本当にいろんな色があるんだね。」


「本当に綺麗だね。」


 まだまだ始まったばかりだけれど、ヨウの『オープンカフェプロジェクト』はひとまず完了した。


「当初思ってた規模の数10倍のビッグプロジェクトになっちゃったな~。」


 ヨウはつぶやきながら、そっとわさびと手を握った。

みなさん、作品を読んでいただき、ありがとうございます。やっとオープンカフェができました。

少しだけ一段落(汗)


これからヨウには、本格的にイレさんの無茶ぶりに応えてもらおうと思います。


ヨウとわさびの住む青空市が、ますます面白い町になって行くことを私自身が期待しています。


引き続きの応援をよろしくお願い致します。


そきおこ

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