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3.自分の可能性を感じてしまった

 SC横浜vs徳島ベルガーの試合が今始まった。


 J2なので5000人くらいの観客とやや少ないながらも、熱心な横浜サポーターがホームゴール裏席を埋め尽くす。遠路、徳島から来たであろう徳島ゴール裏も7割くらいは埋まっている。


 オォォォォォ………。


 チャントが鳴り響き、両サポーター共に試合開始から大盛り上がりだ。


 試合は、立ち上りから、徳島ベルガーが積極的にプレスをしかけてきた。


 徳島ベルガーは、エースストライカーのFW山手を中心に若い選手が多く、スピードを活かしたサイドからの攻め上がりが特徴だ。

 一見、がむしゃらに走っているだけのチームに捉えられがちだが、J1強豪・ギルダース大阪の正ゴールキーパーだったベテラン北野が裏番長として君臨し、右へ左へと舎弟達を動かしていく、実に試合巧者なチームだ。


 一方、SC横浜はさらに試合巧者だ。

迫りくる若者達をなんなくかわし、あっという間にペナルティエリア付近にいる元Jリーグ得点王MFダミアンにボールを送り込む。


 ほらほら蹴るぞ~、いやいや、FWピケに蹴らせるぞ~、後ろからSB山口も来てるぞ~とダミアンの動きが無言で語り出す。

 

 次の瞬間、ゆらっとダミアンがシュートの体勢に入る。


 たまらず、相手DFが元ベルギー代表ピケのマークを外し、ダミアンのシュートを止めに入ったところで一丁上がり。


 ダミアンが、シュートの体勢からちょこんとピケにパス。ボールは相手DFの股下を抜け、無情にも、どフリーなピケの目の前にコロコロコロ。


 ドゴーン


 すかさず、ピケ右足が振り抜かれ、弾丸シュートがゴールに向かっていく。


 相手守護神・GK北野がシュートコースに身を投げ出すが、これはもう間に合いそうもない


 オォォォォォ……スタジアムが大歓声に包まれる。


 バチーン


 ゴール右上に向けて放った弾丸シュートは、残念ながらゴールポストに弾かれ、ゴール裏の相手サポーター応援席に飛び込んでいった。


 アァァァァァァ………


「あ~、惜しい」


 開始直後の決定機に悔しがるサポーター達も、今日はいけるなとテンションが上がりまくりだ。


 う~ん、遠すぎて分からなかったな。


 ヨウは、ホームゴール裏で試合を観ている。今日の試合、前半は相手サポーター側に攻めているので、今のシーンの細かい動きはほとんど見えなかった。


 ただ、通常のパスワークでは未来ボールが見えることはなかったし、これはもう間違いだろうと思い始めていた。


 やっぱり間違いだったんだろうな。なんかちょっと残念だな………ってばかだな俺。


 開始早々の大ピンチに徳島ベルガーも気を引き締めたのか、その後はこれと言った見せ場もなく前半が終了してしまった。


 未来ボールについても、少しだけ、ん?となったが気のせいみたいだ。

 ヨウは、もう未来ボールは忘れよう、と気分転換にハーフタイムのたばこを吸いに行った。


 **********

 試合後半


 たばこタイムも終わり席に戻ると、選手達がピッチに向かって歩き始めていた。

 後半は、両チーム共にホームゴールに向けての攻撃となる。


 さてさて、早く1点取っちゃってよ。


 後半キックオフのホイッスルを聞き、ヨウが偉そうにつぶやくが、後半になってもあまり試合に動きはなかった。しばらく均衡が続き、サポーター達も少しイライラし始める。


 今日は押してるから、引き分けはもったいないぞ。そう思い始めた後半26分、突然その時が訪れる。

 ゴール前でボールを受けたダミアンが、少し強引にミドルシュートを放った瞬間、薄い赤色のボールがゴール前に詰めているピケの前に飛んでいくのが見えたのだ。


「あ!」


 ヨウは思わず叫んだが、ピケは赤色ボールに気づかず、反対方向に重心をかけ動き出そうとしている。


 次の瞬間、相手DFに当たったボールがピケの真後ろにポトリ………。


 ピケは体勢を立て直してボールを蹴りこもうとするが、相手DFに一歩及ばず。ゴールエリア外に蹴り出されてしまった。


 こ、これは、つまり、そういうことだよな………。


 その瞬間から、ヨウには当たり前のように未来ボールが見えるようになっていた。


 今までは見えなかったが、今なら普通のパスでも未来ボールは現れる。2つのボールが行き交うため、ヨウも何が現実か把握するのに大忙しだ。


 す、少し分かってきたぞ。未来ボールには色がついている。これはきっと意味があるな。

 ふむふむ、緑色は味方の普通のパスか。

青色は、相手のボールだな。で、赤色はチャンスかな?


 ピッチでは、緑と青と、普通のボールが行き交っている。赤は見当たらないが、さっき赤色が見えた時はゴール前だったので、おそらく赤はチャンスボールだろうと思いながら見続ける。


 そうこうしているうちに、横浜にフリーキックのチャンスが訪れた。キッカーは、もちろんダミアン。


 ダミアンがモーションに入り、キックを蹴る直前、強いドライブ回転のかかった赤色ボールがGKとピケの間に飛んでいった。


 その直後、普通のボールが現れ、ピケがドンピシャでゴールに蹴りこみ先制点!


 ゴーーーーール


 サポーターが抱きあって歓喜に酔う。


 分かったよ。

これは、ものすごいチート能力だ!


 赤がチャンス、緑が味方のパス、青が相手のボール。信号………………………ではないね。


赤は、闘牛じゃないけど、攻めろ!

緑は、安心の色。

青は、欧米で言う警告の色だな。


 これ、明らかに誰かの意図が入ってるな。

どこかの神様がくれたのかな?

って言うか、俺にはものすごい可能性が広がっているぞ。


 ヨウは、もう興奮で試合どころではなかった。


 ピッ、ピッ、ピーーーーー


 いつの間にか試合は横浜の勝利で終わり、ヨウは、興奮冷めやらぬまま帰り支度を始める。


 帰りがけ、ものすごくヨウをみつめてくる美女がいた(ような気がした)ので、まさかこの能力がばれた?なんて少し不安になったが、すぐに姿が見えなくなったので気のせいなんだろう。もしかして、俺に一目惚れ?などとアホなことを考えつつ自転車にまたがった。

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