29.トライ・アンド・エラー4
さかつくキッカーはFW瀬川勇気、大きな助走から右足を振り抜く。
バシュ!!!!!
スピードが乗ったボールが、ゴール左隅に飛んでいった。
距離があるため敵GKも反応できている。ゴール左上ギリギリではあるが、飛び付けばかろうじて右手が届きそうな軌道だ。
タイミングを計り、敵GK太田洋がボールめがけて飛び付く。
ブルルン
勇気のシュートは、そんな攻防を嘲笑うかのように、信じられない軌道で大きく斜め右下に角度を変えた。
当然、敵GKは反応できない。
バシュ!!
ゴーーーーール!!!!!
ウオォォォォォ!!!!!
勇気が、手を腰に当てて堂々と胸を張るポーズをしたが、すぐさま仲間達にもみくちゃにされる。
ベンチメンバーも、スタッフも、商店街連中も、女子高生も、みんな大騒ぎだ。
前半20分、坂本造園 瀬川のゴール
北豊 0-1 坂本造園
ここからは、ピッチを広く使うサッカーが展開され、北豊サッカークラブを圧倒し始める。
「わさび、ちょっといい?」
ヨウは、わさびを小声で呼んで話しかける。
「ゴール、1時20分だったね。」
「そうね。ヒントは、1時20分に勇気君がゴールを決めるってことだったのかな。」
「俺、なんとなく分かったよ。ヒントは、『まちカフェ』のことだったんじゃないかな。」
「あのゴールがヒントになるの?」
「うん。あのゴールが大ヒントだと思う。」
「細かい話は、おうち会議で話すよ。」
「分かったわ。じゃ、ヨウも点取ってきてね。」
「が、がんばります………。」
*****
「今日も疲れた~。」
家に帰ると、3人ともぐったりしている。
試合会場からさかつくに帰ると、ヨウとわさびは道具の片付けや簡単なブリーフィング、夏海は『てっぱん』の仕事に向かった。さかつく解散後は、わさびは『てっぱん』に、ヨウはユミと『まちカフェ』の打ち合わせに行ってきた。
ようやく全てが片付き、全員が居間に集合した頃には22時になっていた。
「今日のもんちゃんさんは、かっこよかった~。」
ビーズクッションに埋もれた夏海が、しみじみとつぶやく。
「もんちゃんはさすがだよね。俺なんて、試合に出してもらっただけだよ。」
「ヨウさんは不思議っす。相手より断然足が遅いのに、なぜかボールを取ってくるっす。なんか動きが変っす。」
「だって、スポーツ始めて2ヵ月だからなぁ。」
「え~!?信じられないっす。今日なんか、疲れた相手が必死にやってるところを、ぽんぽん止めちゃうもんだから相手泣いてたっす。」
「そ、そんなやついた?こっちも必死だったんだよ。」
「いたっす。社長が粘り強いチームって言ってたけど、今日、その長所が失われてしまったかもしれないっす。えげつないっす。」
俺にとっては、なっちゃんのビーンボールがえげつないっす………。
「その割には点取れなかったわね。」
わさびが追い討ちをかける。
「こないだのゴールはまぐれ。これが実力なの!」
今日もさかつくは4-0で大勝した。うち3点は、またも勇気のハットトリックだった。
こんなに強いなら、本当に天皇杯制覇しちゃうかもな。って、そんなに甘くないか………。
「それで、1時20分に何が分かったの?」
「何のことっすか?」
夏海が聞いてくる。
「えっとね、ヨウが試合中に言ってたの。『まちカフェ』のヒントを見つけたって。ちょうど勇気君のゴールの時ね。」
「ヨウさん、サッカーの時はサッカーのこと考えるっす。」
「か、考えてるさ。でも、ふと気づいたっていうか、降りてきたっていうか。」
「で、何?」
「えっとね。勇気がフリーキックを打つタイミングで、商店街のみんなや、アリスの同級生達がちょうど到達したんだ。そしたら、勇気に力がみなぎってきた。」
「それは私も感じたわ。」
「応援に後押しされたっすね。」
「そう。それで気づいた。
さかつくは、町のみんなと一体のサッカークラブなんだって。俺がさかつくの戦術に組み込まれているように、さかつくも町の暮らしに組み込まれてるんだ。だから分かった。『まちカフェ』も、町の暮らしに組み込んでいく。」
「それって、最初から目指してることの言い換えじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけどね。俺の中で納得したというか、整理がついたというか。ま、やることを決めたよ。具体的にはね………………。」
3人とも明日は早いのだが、遅くまでヨウのアイデアを練り込むことに熱中した。




